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最近読んだ本
2004年・
その2



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 流しのしたの骨  (江國香織)

あやしいタイトルですが、ミステリーではありません。
タイトルの意味は小説の中でも説明されていますが、「かちかちやま」のたぬきのセリフ。「ばばあくったじじい、流しの下の骨を見ろ。」が原典。
他人の家の中の、見てはいけない、明らかにしてはいけない秘密の隠し場所、とでもいう意味なのかな?

内容は、かなり変わった家族の日常を淡々と描いたもので、結末もないし、何かが起こって解決するという筋書きもない。ふつう、小説を読むということはストーリーを擬似体験することだったりするけど、そういう意味での小説ではないですね。雰囲気を味わう小説とでもいうのか、読んでいる間だけ他の世界に行くことが出来る。音楽とか、アロマテラピーのような効果がある本でした。

この家の子供達は一般社会の常識で考えると全員問題児なんだけど、それが家庭に中では問題になってないところが救われるのかも(^^;)

登場人物もまったく生活感がなくて、生身の人間の匂いがしない人たちばかり。サラサラでいい匂いがする世界なんですよ。これも一昔前の少女マンガに通じる感性かもしれません。江國さんは森茉莉さんが好きなのかな?

「ささやかで謙虚な、あるかなきかのかわいらしいしっぽをしている」ウィリアムが、かわいい(^^) でも冬には防寒、あるいは暖房してあげてください(笑)



◆   (乃南アサ)

本を読んで涙したのは久々。事件の謎と、それに翻弄される登場人物達の人生に引き込まれて、一気読みしてしまいました。
                ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昭和39年10月、オリンピック開催を目前にして日本中が沸き立っていた頃、藤島萄子は11月に予定している結婚の準備に忙しい日々を送っていた。
萄子の婚約者である奥田勝は刑事という職業柄、オリンピック関連の警備に追われ、なかなか萄子とも会えない日が続いていた。
そんな状況に萄子が不安を感じはじめたある日、奥田から電話が入る。それは「俺のことはもう忘れてくれていい」という突然の別れを告げる電話であった。そしてそのまま奥田勝は行方をくらませてしまった。

翌日、品川埠頭の倉庫で女性の暴行死体が発見された。それは奥田とコンビを組む先輩刑事・韮山の娘、のぶ子であった。現場に奥田の定期入れが発見されたことから奥田は容疑者として追われることになる。
奥田にとって、のぶ子は先輩刑事の娘でしかなかったはずであった。たしかに韮山は奥田を娘婿にと考えていたし、のぶ子も奥田を慕っていたようだが、奥田はあくまでのぶ子のことは妹的存在としか思っていなかった。その二人がなぜ?

さらに、真面目で正義感が強く警察官という職業に誇りを持っていた奥田が、殺人事件を起こすことは考えられない。諦めきれない萄子は真相を確かめるために奥田の行方を探す。一方、韮山は娘の敵として警察を退職して奥田を追うことになった。
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真面目な警察官と暴行殺人事件。さらに容疑者になった刑事は、弁明をするでもなく逃亡。その裏に何があったのか?
関係者の隠された素顔が少しづつ明らかになっていく。

ツッコミ系で言えば「メロドラマ」「韓国ドラマみたい」とも言えるんですけどね。
奥田が隠している謎は最後まで読む人を引き付けると思います。

昭和39年あたりの世相やニュースも折り込まれているので、そういう点でも面白いかも。そういえば最近でこそ、温泉といえば女性客がメインのようだけど、この頃はまだ男性のための歓楽街だったんですね。熱海が危険なところという感覚は、わからないよね。

ネタバレ→【  ちょっと前なら、一般家庭の娘と暴力を職業とする人間の結びつきは、あり得ない、現実感がないと思ってしまうけど、桶川事件があった後では納得してしまいますね。寺瀬の粘着質な性質も、現実に存在する人間として受け入れなくてはならないでしょう。
勝はまったくの巻き込まれで、被害者でしかないのだけど、起こってしまったことは消せない。通り過ぎた道は引き返せない。分かれてしまった道は戻せない。それが悲しいです。
  】




 点と線  (松本清張)

時刻表を使ったトリック「4分間の空白」で有名になった古典的名作。
博多の海岸で発見された男女の遺体は、当初単純な心中事件と思われたが、男性の方が汚職事件の渦中にある人物であったことから、殺人事件の様相を帯びる。
しかし容疑者として浮かんだ人物には、事件当日北海道にいたという鉄壁のアリバイがあった。

再読しての感想は「あれこんな話だっけ?」(笑)
もちろん基本のラインは覚えていたものと同じなのですが、細部がかなり違う。特にトリック。学生時代に読んだ時は、次から次へと繰り出されるトリックに感動し、さらに感激した記さえあるですが、再読した今は疑問のほうが大きかった。たしかにこの内容なら、他の推理作家さんがトリックのタブーに兆戦したくなるのもわかりますね。

ネタバレ→【  なんと言っても、現在ではダイアグラムを使ったアリバイトリックに飛行機の利用と共犯者の存在は使わないのが暗黙の了解でしょう。飛行機を使えば列車に追いつくのは簡単ですからね。使っても追いつかない、そこからさらに複雑なトリックがあるというのはありですが。
他にも、女性二人とフルコースの食事をして、その後タクシーで駅へ向かい、わずか4分間の空白時間に合わせてホームを歩かせるのも神業的に難しいことですよね。捜査陣が顔写真を持って確認していないのも、不自然な気がしました





◆ まひるの月を追いかけて  (恩田陸)  文芸春秋

奈良を取材中のフリーライターが行方不明になり、彼の恋人と異母妹が取材ルートを辿りながら探しに行くことになった。しかし、そこには意外な人物が待ち受けていた。
こう書いてしまうと、ありふれた人探しミステリーのようですが、実はもっと複雑な仕掛けになっています。ストーリーよりも細部を楽しむ小説と言えるかもしれません。

でも、ミステリーとしてもかなり面白い展開です。とにかく先が読めない。
意外性は充分。謎はたくさんありますし、伏線も見事に描かれています。
そういう意味では好みの小説なんですが、芯になるストーリーや結末はむしろ苦手かな。ただ全体の雰囲気、細かいエピソードに共感する部分が多くて、自然に物語の中に入り込めたことが、何やら心地よい時間になったのでしょう。

キーワードは「旅」でしょうか。
眠気を誘うような明日香の風景。
見慣れた風景の中にあっけないくらい突然現われる史跡。
旅立つ前の期待と不安。
日常と非日常の境を越える一瞬。 
舞台が奈良であるということも、この小説の謎めいた雰囲気を盛り上げています。
背景が東京であったら、ただの2時間ドラマになりそうですからね。

もう1つの視点から見れば、子供の頃に家庭に恵まれなかった人の心の傷の話とも読めるかもしれません。
「まひるの月」とは、旅人がお姫様に贈った月なのかな?




◆ 白き手の報復    (渡辺淳一)   新潮文庫

渡辺淳一の医療ミステリー集。恋愛物との見分け方はタイトルに「白」が付くところ。
内容は、ストーリーの他に経験に基づく病院や医師・看護師などの内情が描かれているところが特徴。

病院の裏側は私たちが知らない世界でありながら、もっとも興味ある、そして関係深いところ。病人にとっては人生、命をかけた運命の場である病院も、医師や看護師にとっては日常の職場。その意識のギャップも大きい。

「白き手の報復」
看護婦さんといえども感情を持つ人間なんだけど、改めて書かれると恐いですね。
「空白の実験室」
大学病院の第一外科で教授候補が次々と同じ病気で亡くなる。偶然か故意か?
病気の専門家ばかりがいる場所…病院。だからこそ盲点があるんですね。
「背を見せた女」
大学病院の地下。そこには実験で殺された動物の死体や霊安室がある。深夜に居残って実験を進める医師の耳に聞こえてきた謎の足音。この女性の発想は私にはわかりませんが。
「少女の死ぬ時」
たった一度の死と日常的死の連続との間にあるもの。即物的にならざるを得ない医師の会話がとても深い。
「女の願い」
交通事故の被害者の死因の謎。意外なことで人は死ぬ。
「遺書の告白」
自分の体のことですから、やっぱり自分が一番わかっているんですよね。



◆ スポーツドクター  (松樹剛史)  集英社

スポーツクリニックの靫矢ドクターと、彼の元を訪れる選手達を描いた連作集。
登場するのは、高校のバスケット部、リトルリーグのエース、オリンピックを目指す水泳選手、ドーピング問題など。
「患者である選手が大きなケガでもないのに怯えているのはなぜか?」
「充分に食事をしているはず選手が瘠せていくのはなぜか?」
などという謎解きエッセンスもあります。

また、専門知識を持ったコーチの指導を受けずに自己流で運動することの危険性。
お年寄りが歩けなくなるのは歩かないことで筋肉が衰えるから。まわりが気を使って体を使わせないようにすることが、逆に動けないお年寄りを増やしている。など、わかっていてもついやってしまいそうな知識も役に立ちそうです。

とにかく専門的な知識が得られるし、気軽に詠める1冊でした。
難点は文字で読むマンガのような文章(-_-;)




◆ 砂の器 (松本清張)

5月12日午前3時過ぎ、蒲田駅構内で男の他殺体が発見された。被害者は前夜、駅近くのバーで30歳前後の若い男と連れ立って飲んでいるところを目撃されていた。バーの従業員や客の証言で、被害者が東北弁を話していたこと、連れの男と「カメダ」について語っていたことが判明。捜査は東北と「カメダ」に関する情報収集を中心に始まった。

以前に読んだ時は、映画の影響もあって社会派の代表作という印象だったのですが、今読み返してみるとけっこう謎解きのある推理小説でした。
特にトリックの1つは新本格のようで、松本氏がこういうトリックを使っていたとは意外。「カメダ」の謎解きも面白い。ただ、解決に至る情報がひらめきと偶然で、もたらされるのが難点。そこが本格とは違うところでしょうね。

【    和賀が前衛音楽家というのは超音波殺人の伏線だったんですね。
7歳の子供時代の顔の記憶だけ、30歳で成功した後の顔がわかるのかな?  まあ、顔が変わってない人もいるから絶対無いとはいえないけど、疑問も感じますね。 
 】

もっと詳しいあらすじ


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