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最近読んだ本
2003年・
その1



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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


◆ 青の時代-伊集院大介の薔薇-  (栗本薫) 講談社

伊集院大介の青春。2つめの大学で大学生をやりながら名探偵の修行中のお話。

1973年、花村恵麻は21歳の大学3年生で、学生演劇のカリスマと言われた若き演出家、阿木凌太郎の主催する劇団ペガサスの看板女優であった。その恵麻がバイトしていた喫茶店のママが殺された。恵麻のファンであった伊集院大介は彼女を守るために事件を解決することになる。

73年といえば、すでに30年前。学生運動やら前衛演劇など、当時を知ってる人には、懐かしい記述が多いのではないでしょうか。もちろん私も生まれてましたけど、大学生ではなかったので、あの頃のキャンパスの雰囲気は半分憧れて見ていた世界ですね。

伊集院さんはあいかわらず、というか当時からやさしくて強くて、理性的に頼りになる存在です。今回ちょっと力技も使ってます(^^)
「いつでもあなたが困ったときに、笛をふいたらあらわれる、本当はぼくはそういう人間でありたいんです。」 ・・・こんな薔薇を捧げられたら幸せだろうな〜
でもそういう資格のある人は限られているんですよね。

カリスマ論も面白かったですが、どうして恵麻が女性なのかと思ったら、阿木凌太郎が男性だったからなんですね。どこかでぐるぐる回ってる家臣みたいだわ(爆)

ネタバレ→【  動機が「阿木凌太郎のそばにいたい」ですからね。才能があるのに精神的にもろい、自分の前でだけ弱い本性を見せる、だから守ってやりたくなる。強い男が自分の前でだけ見せる弱さ、これに男は惚れるんだろうね。   





◆ 猫探偵正太郎の冒険T-猫は密室でジャンプする-(柴田よしき) 光文社

6篇からなる短編集。正太郎が活躍する3編と、人間の視点から描いた3編を交互に編集してあります。

正太郎が探偵役をする3編は、観光案内もの、ダイイングメッセージ、密室ものと、ミステリーの定番をアレンジしてあって、それぞれに猫がどう関わるかが面白いところ。でも『正太郎と花柄死紋の冒険』は、フィクションでも読みたくない展開でした。猫とダイイングメッセージの関係は面白かったんですが。

人間中心の3編はストーカーものなど、孤独な人間の心の中を描いています。『愛するSへの鎮魂歌』は、怖い話なんですが、あまりに勝手な想像にギャグに思えてしまうところが不思議ですね。
猫は番犬みたいな働きはしないけど、いないよりはマシかな〜(笑)

猫は究極の平和主義者と言われるくらいで、無用な争いは避けられる限り避ける動物なんですよね。だから基本的には自分よりはるかに大きい人間に襲いかかるはずは無いのですが(余程の危険を感じた時は別)、引っ掻かれたり噛まれたりすることは多い。
猫としてはじゃれたり遊んでるつもりなんだろうけど、嫌いな人から見ると攻撃されたと感じてしまうんでしょうね。本当に攻撃されたら犬のが怖いぞ〜




◆ 試験に敗けない密室 (高田崇史)   講談社ノベルズ 

シリーズの2作目から読んでしまいました。でも面白い。
高校2年の千葉千波くんと、従兄弟で浪人生の名無しくん(通称「ぴいくん」または「八丁堀」)、その友人で同じく浪人生の饗庭慎之介、この3人が夏休みに遭遇した密室事件の謎解き。(八丁堀って、あだ名はいいな〜気に入ってしまった)

3人組は千波くんの親戚の別荘を目指して出発したのだが、いろいろ手違いがあって、山奥の村に迷い込んでしまう。しかたなく、村で1軒だけの宿に泊まることになったのだが、その夜の大雨で交通手段がなくなり、村に閉じ込められてしまう。・・・ここで1つの閉じられた空間完成。

この村がまたいわくありげな村で、神裁きの土牢とか、六部殺し跡とか、あやしげな名所ばかりある。で、その神裁きの土牢に慎之介が閉じ込められて、また密室。

このあとも密室がいっぱいで、謎解きもいっぱいで、とても楽しめました。パズルもいろいろ出て来ます。




◆ タイム (深谷忠記) 角川書店

タイムというのは、ある高校の卒業生が埋めたタイムカプセルの愛称。

43歳になる松尾辰之は現在ゴーストライターとして生計を立てていた。彼は、大学2年の時にある事件を起こしたことから自分の人生を放棄し、安アパートでひっそりと暮してきた。

一方、松尾の高校の同級生であった相原政彦は、エリートコースを歩み大学教授から政治家への転身を図ろうとしていた。しかし選挙を控えた大切な時期に、相原を落とし入れようとする企みが次々に起こる。相原もまた大学時代にある事件に関わっていたのだった。

若い時に起こした事件が、23年の時間を経て人生の中盤になって甦ってくる。23年の間に関係者はそれぞれの生き方を選んでいるが、死者の時間は止まっている。その2つの時間が重なった時に葬ったはずの過去が復讐する。

1つの事件は予想がつくのですが、もう1つの事件との関連が謎なので、一気に読んでしまいました。そして事件の謎が解けて、ありふれた事件かなと思った時に、さらにもう1つの真相が・・・あれは騙されました。

ネタバレ→【  まさか自殺事件が殺人だとは思わなかったので、あれはわかりませんでした。でも、相原の性格とストーカー事件の結びつきは強引な気がしました。いくら若いときのこととは言っても。  】


◆ 目撃   (深谷忠記)   角川書店

目撃者の証言とは、どの程度信用できるのものなのか? 人間の記憶は正確なのか?

関山夏美の夫が公園で毒殺された。その時、夏美は公園とは離れた渋谷にいたのだが、公園に出入りする夏美を見たという目撃者が2人もいたことから有罪判決を受けてしまう。無罪を証明したい夏美は、冤罪事件をテーマにした小説を書いた作家に協力を依頼する。その作家も幼い頃、母親が父親を刺し殺す場面を目撃していたのだった。はたして目撃者の証言を、どう突き崩すのか? 

二転三転する内容は引きこまれますが、真相はもっと驚きです。
読んだ後、自分の過去が不安になるかも(^^;)

この作品を読みながら、以前、テレビ番組(たぶん特命リサーチ)で見た実験を思い出しました。
その実験とは、学生を教室に集めてアンケートに解答させる。その場に突然1人の人間が入って来て印象的な事をして去っていく。その後、学生たちに、入ってきた人物に付いて答えさせるというものだったのですが、その答えは見事にバラバラだったんですよね。性別さえ一致しない。これは驚きでした。

さらにこの時、「侵入者は背の高い男」というような情報を与えておくと、後日、侵入者をはっきり見ていなかった学生までが「背の高い男を見た」と証言してしまう。それは嘘をついているわけではなく、本人が見たと思いこんでしまっているのですね。記憶は再生されるごとに新しい情報によって書き換えられていくということだそうです。
これが殺人事件の証言だったらどうなるか? というのがこのミステリーのテーマです。

ネタバレ→【 夏美がひた隠しにしているのは浮気相手のことだと思ったら、毒入りビールの行方だったんですね。「あんな病院長をなぜそこまでして隠すのか?」と不審だったのですが、ラストで謎が解けました。  】


◆ ダメ犬グー11年+108日の物語  (ごとうやすゆき) 文春ネスコ

『愛犬の友』に連載されていたコラムを修正、リデザインしたもの。

グーの本名はグレイス。生後8ヶ月で著者の家にやってきた黒いメス犬。
はじめは著者を怖がっていたけど、慣れたら優しい顔になった。
大根と白菜が好きで、かみなり、風の日、花火、掃除機が嫌い。
お手をさせると逆の手を出したり、ヘンなところにお手する。
足をくじいた時は大げさに引きずって歩くけど、自分だけの時は普通に歩いてる。
やさしくて臆病でちょっとひねくれたグー。

でも10歳を過ぎて左腕に付けねに腫瘍が出来てしまった。
年齢を考えて手術をしないことに決めたので、家で薬を飲ませることにする。
でも体はどんどん弱っていって、ご飯も食べなくなってしまった・・・

グーのたくさんのエピソードはとても楽しい。
病気なったグーが生きようとする姿はとても素晴らしい。

時期的に読むのが辛いところもありましたけど、同じような状況で同じようなことを考えて、同じように感じてる人の文章を読んでいると、慰められる部分はありました。
いくつかの夜、動かなくなったハムの小さな体を手に乗せて、「ちっちゃな目」「ちっちゃな耳」「ちっちゃな口」「ちっちゃな足」・・・と、1つ1つ撫でていったことを思い出しました。
今でも大きな音を立ててしまった後、起こしたかなと思って、ハム小屋の方を伺う癖は直っていないんですよね(^^;)


半落ち   (横山秀夫)      講談社

2日間の空白に関する謎解きへの期待が大き過ぎたので、
肩透かしをくらった感は否めませんでした。

詳しくはネタバレ
ただ、マイナス評なので、好きな方は読まないでね。


誘拐の果実    真保裕一        集英社

大病院の院長の孫娘が誘拐された。身代金の代わりに要求されたのは入院患者の命。
その入院患者とは、大手企業の会長で、未公開株を利用した贈収賄事件で起訴され、公判を前に捜査の手から逃れるために特別室に隠れている人物だった。しかし、いかに誘拐犯の要求とは言え、医者が患者の命を奪うことは出来ない。タイムリミットまでは37時間。被害者家族と警察はある作戦を立てた。そんな時、もう1つの誘拐事件が起こる・・・。

前半、どこに犯人の目があるかわからない中で実行される計画は、緊張感があって圧倒されます。病院内にも犯人の仲間がいる可能性がある中で、その目を欺く計画を実行するのだから、一瞬も気が抜けない。この導入部で一気に引きこまれました。犯人の盲点をついたと思われる計画も見事。これを思いついた段階でこの小説は完成してますね。

それに比べると、後半はちょっと弱いかもしれません。もう1つの誘拐は無くてもよかったような気がします。この動機も面白いから、いっそ2つの小説に分けた方がよかったかも。
犯罪の被害者については、あること無いこと調べて書き立てるというマスコミ批判にもなってますしね。

ただ、【  正義感の強い令嬢と、生い立ちに影のある好青年の組み合わせは、S40年代の少女マンガみたいで、恥ずかしかった(笑)  

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