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最近読んだ本
2003年・
その2


「誘拐」
「最悪」
「邪魔」
「猫祭りの夜」
ジェイムズ・グリッパンド
奥田英朗
奥田英朗
森真沙子
「葬られた夏、追跡下山事件」
「消える密室の殺人」
「ロミオとロミオは永遠に」
「黒猫の三角」
諸永裕司
柴田よしき
恩田陸
森博嗣

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(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。

 ◆ 葬られた夏・追跡下山事件   (諸永裕司)  朝日新聞社

念のため、「下山事件」の説明を。
1949年7月6日零時過ぎ、五反野のガード下で、当時の国鉄総裁下山定則の轢死体が発見された。下山総裁は前日の朝、運転手を待たせて三越本店へ入っていったまま行方不明になっていた。警察も検死結果も、自殺と他殺の両説に分かれ、犯人の特定を含め、真相は現在まで謎のままになっている。

当時の日本はまだアメリカの占領下にあり、しかも翌年には朝鮮戦争が始まるという年。敗戦により日本の武装解除をしたアメリカは、南下する共産主義の盾として日本を再構築しようと計画を変更しつつあった時代。

国鉄としては10万人規模の人員削減策を発表した直後であり、労組との対立が深まっていた。この年、下山事件の後にも三鷹事件、松川事件と国鉄を舞台にした大事件が続き、いずれも共産党の関与が疑われたことから、共産党は国民の支持を失っていく。

共産主義が力を失った現在では「革命近し」という恐怖は実感できませんが、この年の国鉄3大事件をテロと考えると、そのショックはわかるかもしれませんね。

本書では、日本が真の民主主義国家になれなかった・・・アメリカの1州のごとき国になってしまったターニング・ポイントとして下山事件を位置付けています。(“朝日”だからね^^;)
もちろんそれがマイナス面ばかりではなかったことは、「下山事件は戦後の日本に与えられた飴玉のようなもの」という例えでも書かれていますが。

全体としては新説が展開されているわけではなく、今まで発表された論議の検証という形です。検証というより、跡付けルポルタージュと言った方がいいかも。一人称が「僕」であるところも、私的な意味を持たせているのかもしれないですね(好意的に考えれば)

日本占領がアメリカの言う「理想の占領」であったかどうか、検証していい時期かもしれません。アメリカにとって理想であることは明確ですが(笑)



 ◆ 誘拐    (ジェイムズ・グリッパンド)  小学館

アメリカ大統領選挙の投票直前に、候補者の1人リンカーン・ハウの孫娘が誘拐された。アメリカ史上最大の捜査の指揮を取るのは、もう1人の大統領候補である司法長官アリスン・レイヒー。実は彼女の娘も9年前に誘拐され、その事件は未だ解決してしなかった。

誘拐事件と共に大統領選挙の裏側を描いた作品と言えるのですが、
リンカーン・ハウは黒人の元将軍で、アリスンは白人女性というのが興味深いところ。ハウにもアリスンにも個人的弱みがあり、それを利用して相手を追い落とそうとする企みがある。一瞬も気を抜けない選挙戦は、よほど根性悪くないと戦えないでしょうね。よく言えば、超人的意思の強さ。でも、それにしてはハウのキャラクターが無残で、アリスンはカッコイイ。解説にもあるように、作者はフェミニストのようです(^^)

ネタバレ→【  実行犯が単なるチンピラというのが残念。この時点で、ハウが無関係というのがほぼわかってしまいますよね。選挙戦略として誘拐を計画したとしても、チンピラは使わないよね。いくら末端の実行犯だとしても、いろんな意味で危険過ぎる。

となると、残る可能性はアリスンの元婚約者ミッチ・オブライエンか、夫があやしくなってくる。特に夫のピーターの登場シーンはうさんくさい(笑)
もちろん、単なる金目的、変質者という可能性もあるんだけど、それだと小説として絞まらないから、「夫かな〜」と予想してしまいました(^^;)

それにしても、エピローグのエイブラムズの「家庭というのは、ひとつ残らず機能不全を起こしているんですから」という断言は迫力。「家庭が機能しなくなったのかも?」なんて疑問を呈している日本とは機能不全のレベルが違ってるのね。それとも開き直りかな・・・
でも、どっちが勝ったんだろう?(笑)  




 ◆ 最悪   (奥田英朗)  講談社

川谷信次郎は、下町で小さな鉄工所を経営しているが、工場の向かいにマンションが新築されたことから、マンション住民との騒音トラブルに悩まされている。
藤崎みどりは、都市銀行の小さな支店で窓口業務をしているが、セクハラ被害で退職を考えている。
野村和也は、定職に就かずカツアゲやパチンコで暮していたが、窃盗事件を起こしたことから、やくざに追われることになってしまう。
これだけでも充分不幸な3人が、さらに最悪の事態に巻きこまれていく。

読んだ感想は、素直に「いい人たちだな〜」ということでした。
とにかく、この3人は、人の言うことは何でも信じてしまうんですよね。
それが結果として最悪の事態につながってしまう・・・本当に気の毒。
でも、こういうことって、実は世の中でたくさん起きているのかもしれない。
ただ、小説としては事件が起こるまでがちょっと長すぎる気がしました。

ネタバレ→【  個人的意見ですが、36〜40章を最初に持ってきて、41章から後をラストにした方がよかったんじゃないでしょうか。そうすれば、年齢も職業もバラバラな4人組が、なぜ強盗として追われてるかという興味につながるので。
でも、銀行強盗の後の3人には笑えてしまった。たしかに人質連れてバスに乗る犯人はいないよね。 
 】



 ◆ 消える密室の殺人 猫探偵正太郎上京 (柴田よしき) 角川文庫

猫探偵正太郎シリーズの2作目。・・・やっぱりこれはファンタジーなんだよね。

正太郎の同居人・桜川ひとみはある日突然、正太郎をバスケットに詰め込んで上京。訳もわからず連れて来られた正太郎は泊まるところもなく、たまたま猫のフォトストーリーを製作中だったスタジオに預けられることになった。ところがそこで、殺人事件が発生する。

「正太郎、猫の芸能界に潜入の巻」と言ったところ。モデル猫と探偵猫正太郎の会話がおかしい。猫の団体行動って、想像すると笑えますね。絶対ありえないものね(笑)
ところどころにある小ネタも笑えます。

正太郎曰く、「それにしても、人間がつける猫の名前というのはどうしてこう、節操とか秩序とかいうものを無視しているのだろうか。」・・・すまんのう〜(^^ゞ
「銀座の倶楽部のママ」が「銀座の蟹の生みの親」になったのも笑った。

ネタバレ→【 写真を見て、袖の折り返しに気付く猫って何者?(笑) Tシャツの衿の形も気がつかないよね。ちゃんと書いてはあるんだけど。 



 ◆ 邪魔     (奥田英朗)     講談社

これはお薦め。

オヤジ狩りをする少年グループ。交通事故で妻を亡くして以来、精神安定剤に頼る刑事。やっと手に入れた郊外のマイホームで夫と子供二人で暮すパートの主婦。何の関係もなく暮していた彼らの人生が、1つの事件をきっかけに狂い始め、絡み合って、破滅へとなだれ込んでいく。

登場人物が追い詰められていく過程が、あまりにリアルなので、自分が追い詰められてるような気がしてしまいます。事件といえるものは1つしか起こらないのですが、彼らが巻きこまれる出来事すべてに裏があるので、加速度をつけて落ちていく感じなんですよね。

でも、ここれだけ落ちていく話なのに、読後感がさわやかなんですよ。読み終わった直後は「OUT」に似てるなと思ったんですが、そのさわやかさが違いました。「OUT」は最後までどろどろだものね。

人間、どうしても失えないと思っていたものを失ったり、行きつく所まで行ってしまうと、突き抜けてしまうものなのかもしれませんね。

ネタバレ・心に残ったセリフ →【
「これまで穏やかでいられたのは追いつめられたことがなかったからなのだ」
「心底タイムマシンが欲しかった。時間を逆戻りさせることができるなら、全財産を差し出してもいい」
「これから自分に訪れようとしているのは、ほとんど目眩を覚えるくらいの、孤独と自由なのだ」   




 ◆ ロミオとロミオは永遠に (恩田陸)  早川書房

近未来、汚染された地球を捨てて人類は新地球に移住したが、なぜか日本人だけが旧地球に残って廃棄物の処理を押しつけられていた。そんな社会で、唯一出世してエリートになる手段が大東京学園を主席で卒業すること。そこで、全国から優秀な学生が集まってくるのだが、大東京学園の実態はウルトラクイズだった(?)

一言で言うと、萩尾望都と大脱走とローラーゲーム(笑)
個人的には「日本史のウメハラ」でウケてしまいました(^^)
1つ疑問なのは、大東京学園以外の日本人は普通に暮してるのかどうかということ。試験の中継なんか見てるんだから、日常生活なのかな?

・・・このタイトルを見て、ついイケナイ期待をしてしまった私(笑)
でも検索したページを見たら、恩田さんはSFマガジンのインタビューで、「『摩利と慎吾』を読み返したい」と話してらしたということなので、そんな外れてもいないよね(笑) 続きを同人誌で書きたくなる作品でした(爆)


 ◆ 黒猫の三角  (森博嗣)  講談社

 わ〜、またも出た“京極夏彦”流(笑)←読めばわかる。
この本は、私のように読んだ内容をすぐ忘れる人は一気読みした方がいいですね。
前半を読んでから数日後に後半を読んだので、犯人の予想が付いてしまいました。せっかくの仕掛けが無駄に・・・(^^;)

「どこに猫が?」と思ったけど、こんなタイトルの意味はわかるわけない〜(笑)
これだったら英語のタイトルは意味ないやん(笑)
でも猫好きの人は読まないように。ミステリーの殺人はパズルと割り切っているけれど、動物と子供が殺される話はやっぱり嫌いだな。

それに、この論理でいくと、殺人を犯す人間は生まれた時から殺人を犯す構成の脳を持っているということになりませんか? つまり殺人頭脳を持って生まれた人間は、どんな環境で育っても、そんな環境で生活していても、いつか必ず人を殺すということになる。だから殺人がゲーム化するわけか・・・怖い考え方ですね。

ネタバレ→【

犯人がわかったのは紫子が襲われたシーン。いやしくも探偵と名乗る人物が、二階建ての倉庫で人が殺されているというのに、二階を調べないで、女性を一人残していくはずがないものね。山の中の一軒家というわけでもなく、外では子供が遊んでいる状況なら、外に居た方が安全でしょう。
それにしても最初のトリックはあまりに情けない気がするんですけどね




 ◆ 猫祭りの夜   (森真沙子)  実業之日本社

猫祭りとは真夜中の猫の集会。
女子高生の川島まみ子は家庭の事情でマンションで一人暮らしをしている。そのマンションは郊外の高級マンションなのだが、地元の反対を押し切って建設されたために、嫌がらせが続いていた。そんな中、住人の女性が階段から落ちて死んだ。その頃マンションでは住人の飼っている猫に付いて苦情が相次ぎ、住民集会が開かれたりしていたのだが、死んだ女性は強硬な反対派でもあった。

恐怖ミステリーと書いてありますが、全然怖くなかった(^^;) 赤川次郎に横溝正史をちょっとだけ降りかけたような味付け。

でも前半のマンションでの飼い猫問題はリアル。作者も猫を飼ってるそうなので、実体験から来たものかもしれないですね。猫の遊ばせ方は参考になるかも。



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