確認できるだけで6匹のフライヤー(メラメラの文字をつけた翼竜)が泥をかぶったJ&Jの上に降り立っている。そこかしこに発火が起き、いつ彼らの身体も発火しても不思議ではない。
「まず最初に言っておく、ジョニィ。おまえはこれから『できるわけない』というセリフを……4回だけ言っていい」
「いいな…『4回』だ。オレも子供の頃、オヤジからそう言われた」
4回…4回言ったらどうなるんだろう。
「結論から言うと『鉄球』の秘密とは『無限』への追求だ…。それがオレの一族ツェペリ家の目指したもの…」
「『無限』という概念をオレの先祖は『鉄球』という技術に応用しようとしたんだ。『医術』と『処刑』のために」
ジャイロが小枝で地面に長方形を描く。
「『黄金長方形』という形がある。聞いた事があるか?」
「それはおよそ9対16の比になっている『長方形』の事を指し…正確には1:0.618の黄金率の事をいう。この『長方形』は古代からこの世で最も美しい形の基本の『比率』とされている」
「エジプト・ギザの『ピラミッド』。『ネフェルティティ胸像』。ギリシアの『パルテノン神殿』。『ミロのビーナス』。ダ・ヴィンチの『モナリザ』……」
「この世の建築・美術の傑作郡には計算なのか?あるいは偶然なのか?この『黄金の長方形』の比率が形の中に隠されている。ツェペリ家の先祖たちは名芸術家たちの感性の結果だと考えている。それは完璧の比率……。これらの芸術家たちはその『長方形』を本能で知っている……だから『美の遺産』となって万人の記憶に刻み込まれるのだ……」
急にウンチクを語るジャイロにジョニィもアングリ。
「ジャイロ…待ってくれ。君がこんな時にいったい何を!!何を言い始めたのか?ぼくにはさっぱり理解できないが……」
しかしジャイロはさらなる事実をジョニィに言う。
「オレの『手のひら』も黄金長方形の比率になるようにオヤジから訓練された」
「『黄金長方形』には次の特徴がある…正方形をひとつこの中に作ってみる」
みんなも絵に描いてみよう〜♪
「残ったこの『小さい長方形』もまた……およそ9対16の黄金長方形となる」ズゥーと線を引く。「これにまた正方形を作ってみる」
「この残りもまた黄金長方形」ズゥーと線を引く。「さらにまた作る」
「さらにまた…」「さらにまた…」
「そしてこの中心点を連続で結んでいくと」
皆さんは知っておられただろうか(当然私は知っていたという確固たる自信はあるが――ポルナレフ風/笑)。
「無限に続く『うず巻き』が描かれる。これが『黄金の回転』だ」
ジョニィ驚愕ッ!!
「おまえは『爪弾』をこのとおりに回していない…だから限界を感じている…」
「『黄金長方形の軌跡』で回転せよ!そこには『無限に続く力(パワー)』があるはずだ……我らツェペリ一族はそれを追及して来た…」
「できるわけがないッ!」
「今言ったか?『できるわけがない』……と?」
確かに言った。
「か…いや仮に…その黄金長方形の回転の力(パワー)なんてのがあるとして…そ……そんな事が、こ…このぼくに…」
その時、ジョニィの首の血管が発火しはじめる。苦しむジョニィ。
「ジョニィ…あと3回だけ『できない』…と言っていいぜ。おまえが3回目に言った時、これをおまえにやる…オレの『ベルトノバックル』だ。これも『黄金長方形』の比率で正確にデザインされている」
ベルトのバックルを外すジャイロ。
「このバックルの形の軌跡上で…正確に回転させれば」「おまえの『爪弾』もまた無限の回転となる!
「そっ、そんなのがあるのかッ!」ジョニィびっくり。「何言ってるんだッ!!黄金長方形の『スケール』なんてのがッ!最初からなぜその『バックル』をさっさと見せないッ!」
「やってみるよッ!ジャイロ!見せてくれッ!」
「だめだ」 意外なジャイロの言葉にジョニィまたビックリ。「『できない』と3度目に言った時といったろう」
するとおもむろに拳より1〜2回り大きい石を掴みバックルの上で回転させる。
「ごつごつした『石くれ』だから回転がまったく不完全だ…だが…そしてジョニィ…この泥の中はもうだめだ…川の中に逃げるッ!」
ドバッ
J&Jを覆っていた泥が大きく弾け飛ぶッ!
「ジョニィそいつを全部撃てッ!この間に川に逃れるぞッ!
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
フライヤー達を蜂の巣にしてバラバラにするタスクの連射。しかしその行為が危険なことは先月号で認識済みである。
『爪弾…さっきとまったくおなじ力(パワー)だ…変わらない?』
「降りそそぐぞォォー――ッ」
ミシシッピー・リヴァーに飛び込む2人。彼らを追うようにフライヤーの肉片が落ちてくる。
ゴオオォォ
水面水下に炎が走る。しかし2人にダメージを与えられなかった。それよりも心配なのは傷口からでる出血である。水の中では血は止まりにくい、失血で意識を失う恐れもある。
「できるわけがないッ!ジャイロッ!」
「そんなのすぐにできるわけがないッ!!こんな状況で何なんだッ!!できるわけがないッ!!」
「さあジャイロッ!!3回以上言ったぞッ!さっさとそのスケールを見せてくれッ!君は鉄球の訓練を子供の頃からされて来たんだろう!?それをたった今!ぼくがやってみろと言われてもいきなりできるわけがないッ!さあまた言ったぞッ!!無限の回転があるならバックルを見せてくれなきゃ何も始まらないだろう!!」
焦りを一気に口から出すジョニィ。
「今のは一回にしか勘定しねえからな。あと2回だ。あと2回言った時やる」
「何だとォォ〜〜〜。それは何かの『試練』なのか?ゲームなんかしてる時じゃあないんだぞ!!この敵は『何か』を考えている…川に飛び込む事もきっと計算のうちだ…」
「少しづつ少しづつ……こいつはぼくらを完璧な『何か』でとり囲もうとしているんだぞッ!」
「ジョニィ落ちつけ…あと2回だ。できないと言え」
「何ィィ〜〜〜」「!?」
妙な話である。4回「出来ない」と言ったらバックルを見せるというのは不思議ではないのだが、何故それをジョニィに言うのか?順番がおかしい。「4回言ったらバックルを見せる気だった」と後から言うのならおかしくないのだが、先にジョニィに知らせたら当然にジョニィすぐ見せろと言うだろう。しかし見た通り、ジョニィの行動には何の意味はなくジャイロもバックルを見せない。
その時、またも異形の生物が出てくる。もはや妖怪辞典に出てきそうである。球状の身体から直接脚が2本でており、大きい眼にザンバラな髪。よく見ると、体には何やら「文字」がある。しかも多数出現してきた。彼らは以後、ライナー(列を成すもの)と呼ぶ。
「何だ…!?今度のヤツは…」
「何をする気だ!?規則正しく並び始めてるぞッ。何やってるッ!?」
「ジョニィ、何かされるにしても…この間だぜ!この間に『本体』を探すんだ…。『敵』は今このオレらをどこからか見ているッ!急いで『本体』を見つけ出してここからそいつを殺るしかねえッ!」
不気味な小康状態。嵐の前の静けさ…というのは容易に想像できる。
「おまえの『爪弾』をなんとしてもそいつにブチ込むんだッ!!」
タスクを構え、あたりを見まわすジョニィ。
「さっき敵をチラリと見えたが!今はもうどこかわからないッ!」
「『音』のしない場所を探せばいいんじゃあないのか?『音』のたっていない位置を…」
音の…たっていない位置!?
「こいつの能力は『音』を固めるっつーか…恐竜にのせて送りこんで来てるみたいだ…恐竜はただの運搬だ。『刺す音』『切る音』『燃える音』」
「だったらヤツは『音』を『スタンド』に取り込んでいるって推測するぜ!……固めるためによォ……」
「近くで『音』のたたなくなってる場所があるはず。『風の音』『虫の音』『草の音』。近くだ!そこを探せ…その位置を特定するんだ……」
その時ッ!
「ジャイロ…モンスターどもをよく見ろ…。さっきから何か様子がおかしいぞ…」『ヤツらの体から何かが水面に出て来ているッ!』
ライナー達の足元から水面に文字が溢れてきている。
「ジャイロ、すでに何かが来るッ!広がって来ているぞォッ」
「ジョニィッ!撃ち込めッ!急げッ!どこでもかまわねえッ!敵のいそうな所へとっとと撃ち込むんだッ!」
そして文字は水面だけではない。水中に潜ったJ&Jは、水面下/水中にも文字が充満しているのを目撃する。
『これだ…『敵』はこれを待っていたんだ…『全て』はこの攻撃のために…『全て』が来るッ!このミシシッピーはこのために舞台として用意されていたッ!』
「ジャイロ『バックル』をすぐによこせー――――ッ」
ガン!
興奮してジャイロに掴みかかるジョニィ。その時ッ!ジャイロの見事なショートアッパーがジョニィの顎をとらえる。こんな見事なのはジョリーンがアナスイにみまって以来だ。
「だめだッ!「できない」と『4度』言うまでやれないッ!絶対に!それがツェペリ家の『掟』ッ!『掟』を破ったらオレたちは敗北するッ!おまえに全ては説明したッ!LESSON4だッ!『敬意を払え』ッ!」
文字はすでにそこまで迫っているッ!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
右手を構えるジョニィ…おっ…久しぶりにクルース(遺体の左腕の精霊)が顕れる。
そして黄金の軌跡をなぞりタスクを発射するジョニィ…。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
トウモロコシ畑を切り裂く弾爪……アッ!切り裂かれたトウモロコシ畑の中に老人が!しかも、その老人はヒガシカタ・ノリスケ翁!!
まさかッ!!!
『今のあいつは…』そして、うろたえるジョニィ。「だ…だめだッ!こんな『力(パワー)』じゃないッ!ぼくにできるわけがないッ!」
ついに触れられる程の距離に文字が迫る。
「間に合わないッ!!来るぞー――」
グルゥン
ジャイロが黄金の軌跡で両手を回す。
ドバ
ジャイロの両手の間に球体が現れ、文字の群れをはね返す!
「水を『球』にして回転をさせられるのは一瞬だ。一瞬だけなら防御出来るぜ……だが…」
水だろうか…多量の汗を流しているようにも見えるジャイロ。
「こいつの『能力』は音の固まり…くそ…。こういう事か…こいつは何て『敵』だ。なぜ……そう…なぜあの岸にああやって一列に並んでいるのか…?その意味が分かったぜ」
「『音』は聞こえる『音』が全てではない…。つまり…今みたいに見えたものが全てではない…。しかも『音』と『音』は交差する時、その交差点は増幅する。水中に見えなかった『音』がある。防ぎきれない」
そして…そして…
「ジャイロ……あああああっ」
浮いている…ジャイロの右足と右手が…。少なくはない血が川面を朱に染めている。
「きをつけろ…向こう岸もだ…岸に……今のが……反射して戻ってくるぞ…そしてあと一回だ……早く言え…言っていいぞバックルをやる……『できない』と言え!」
「うっうっうあっうおおおぁああああ〜〜〜あああっ」
ニコラスの顔が頭をよぎる。またも親しき者を失うのか?
そして岸にはね返る文字。
さらに!トウモロコシ畑の中からヒガシカタ翁が堂々と姿を現す。勝利を確信したのだろうか?
その時、ジョニィの眼がサンドマンを捉える。
「サンドマン!サンドマンッ!サンドマンッ!」
「『ホット・パンツ』を呼んで来てくれェェェー――――ッ!!」
「ホット・パンツだッ!そのあたりにいるはずなんだァァァー――――ッ」
その時、ヒガシカタ翁が動くッ!
「?」「おまえらさっきからそこで何…」
ザグゥゥウ
まさかッ!!!!!(PART2)
背後から口をふさがれて腹を刺されるヒガシカタ翁……。刺したのは……サンドマンッ!
冷静に川で刃物についた血と脂を洗う。
「レースの賞金も目的だが…それよりもおまえらの『遺体』の方がてっとり早い…」
「『脊椎部』『左腕』『右眼球』…3つも持ってるそうだな……おまえらは今…」
「『この国』と取り引きをするには……レース賞金を得るよりもいい条件だ…」
「祖先からの土地を買う…我が部族がこの時代の変化に勝つには『金』いるんだ…。おまえらの事を気の毒だとは思うが悪いとは思わない。お前らが決めた価値の基本―――『金』という概念だからな」
「――だが殺さずに済んだものを……最初の時―作物小屋で我が『サイレント・ウェイ』に逆らわず…遺体を差し出していれば…」
凶器の文字が前から後ろからジョニィに迫る。助けもない状況に泣き叫ぶジョニィ。
「うおああああああああああああああああああ」
「うわあああー――。最初からこのバックルを使わせてくれればこんな事にはならなかったんだ!!いきなり回転の説明されたってすぐにできるわけがないッ!」
「できるわけが…はっ!!」
4回目である。
『『できるわけが』…うっ……ううっ…『「できない」と4回言ったら』『ツェペリ家の掟』…待てよ』
『すでに全部説明はした…』
『黄金長方形』で回せ…… |
?!!……
ま…待て……待つんだ…
いったいツェペリ家は何が言いたい? |
そういえば芸術家たちやジャイロの先祖が『黄金長方形』を
見つけたというならそれはどこから学んだ?
『美しさの基本』とかをどこで?
彼らは誰から学んだ?
学者から聞いたり定規で計ったわけじゃあないはずだ… |
それはコピーってやつで……
『本物』じゃあない…… |
いったい最初に誰が発見した…?
本物があるはずだ!『本物』に気づかなければ
『黄金の回転』は…永遠に回せないのでは……? |
黄金長方形の『本物』がッ!あるはずではッ!
ジャイロが泥に描いた図形やこのバックルの形は
『定規で計った』コピーだッ! |
『本物』を探せ… 自分の眼で…
『本物』を見なければ回転しないッ!
ツェペリ家の掟は!それが言いたいのでは… |
「ジャイロ…ぼくが…今!この目で見ているものでいいのか!?」
「今までにも!すでに!さっきからも!見ているのもで!?」
「『本物』の長方形はこれでいいんだな?」
ジョニィの視線ッ!その先ッ!!そこには宙を舞う蝶の群れがあった。
蝶の羽根に長方形を見る。蝶だけではない…木の葉、木の枝、木の幹、花…。
自然の中に黄金長方形を見るジョニィ。
『深い観察から…芸術家たちが学んだものと…同じスケールで……』
「ジャイロはこれらを見て鉄球を回転させていたのかッ!」
その時ジョニィは、トウモロコシ畑から出てきたある白い物体を見る。
「ダ……ダニー――!!」
白いネズミ。彼にも黄金長方形を見るジョニィ。
「うおおおー――!?何だ……この回転は……」
今までの規格をブチ破る脅威の回転がジョニィの右人差し指先から巻き起こる。
そして彼の背後に姿の変わったクルースが立つッ!!
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