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展覧会の紹介

第58回全道展 2003年6月18−29日
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
(文中敬称略)   

 ことしは昨年よりさらに出遅れ、会期が終了してからすでに半月がたっている。
 いまさらここに評を載せる意味もあまりないような気がするが、印象に残った作品についてのみ、かんたんに感想を述べてみたいと思う。

 絵画。
 まず会員から。
 なんといってもベテラン鎌田俳捺子(札幌)「煌めき」が佳作。青と緑の織りなす深い色の交響楽に、深い感銘をおぼえた。白い飛沫が、光のようにちりばめられている。
 彼女は、芸術の森美術館における回顧展(95年)のあと、体調をくずしたため札幌のアトリエを引き払って故郷の函館に帰ったり、ふたたび札幌にもどったりしていたが、この絵を見る限りではだいじょうぶそうである。戦後道内を代表する抽象画家のひとりと形容するのにふさわしい作品だった。
 おなじくベテラン神田一明(旭川)「母と子」にも注目した。これまで、室内の男女を題材に人間の内奥にひそむドラマをえがいてきた。イエローオーカー系の配色と、楽譜や掛け時計が乱雑に散らかった室内は以前のままだが、人物像は大きく変わって、いすに坐った母親が、背中をこちらに向けた幼女のために果実の皮かなにかを向いているという、心温まる図柄になっている。
 反対に、おなじ旭川のベテラン高橋三加子は、中間色をつかった人間群像をえがいてきたが、この2年ほど、人物の腕や足が痩せ細り、どこか不安げな表情をつよめているのが気になる。「架空の案内人」も、3人の無表情ぶりがひっかかる。
 比較的わかい世代では、これまでダンゴ虫のようなものを描き続けていた加藤博希(深川)が「蝶」を出品した。巨大な蝶の羽にちいさな蝶がとまっている絵柄で、どこか非現実的な味わいがある。
 大ベテランの創立会員・小川原脩と、抽象の坂原チエの遺作が展示されていた。最後のひとりになってしまった創立会員・小川マリ(東京)がことし102歳にして健在なのはうれしい。
 1953年に会員に推挙されたのは、先に挙げた鎌田のほか、谷口一芳、八木伸子(以上札幌)、岸葉子、大谷久子(以上東京)の計5人だが、そろって元気に力作を出しているのもすごい。
 コラージュ的な手法の作品としては、林田嶺一(江別)と門馬よ宇子(札幌)が挙げられる。林田の作品は、過去と現在がふしぎに交錯する度合いを強めているように思われる。「1930」と簡体字とモンゴル文字(社会主義時代はほとんど使われていなかった)がおなじ画面に描かれているのは、この「1930」というのが歴史上のじっさいの年号ではないということをあらわしていよう。

 ことし会員への昇格は、紺野修司(東京)、杉吉篤、矢下瑛子、米澤邦子(以上札幌)の4人。
 このうち紺野は、一般入選、会友を経ずに一発推挙である。
 彼は、道展で一度会員になったあと退会し、ふたたび道展に出品をはじめて昨年まで会友という変り種。中央では主体展会員として長いキャリアを持っていた点が考慮されたのであろう。
 なお、実績を考慮していきなり会員というのはこれが初めてではなく、本郷新、佐藤忠良、斉藤清、北岡文雄らも会友を経ていないようである。
 紺野の「朝・昼・夜」は、室内の風景と屋外の風景とが渾然一体となった、開放感のただよう佳作であった。
 人事の話はこれくらいにして、個々の絵にうつると、高田健治(十勝管内音更町)「湖水(2)」が、これまでの抽象から画風をやや転換させ、険しい山中の湖と裸婦? を描いている。にじみを駆使した色彩は、日本画の顔料などもつかっているようだ。
 坂井伸一(苫小牧)「乾いた河」は、人の顔のアップから、折り重なる裸婦へとモティーフを変えた。
 さいとうギャラリーでの「FEST展」で高い描写力を印象付けた波田浩司(札幌)は「羽の舞う日」で、昨年の協会賞につづく会友賞。あえて抑えた色数とデフォルメされた人物像が、たくみにまとめられている。
 おびただしい人物像を、絵の具を引っかいて表現した千葉位子(同)「見つめる眼」、木の板を貼り付けたいかにも重量級の小笠原実好(苫小牧)「廃船-B」もおもしろかった。

 この数年、10人、8人、6人という大量昇格がつづいてきた会友だが、ことし一般から会友になったのは、船川照枝(旭川)、やまだ乃理子(苫小牧)、松木眞智子(札幌)の3人のみだった。
 会員推挙が年2、3人という現状を考えると、こんなもんだろうという気がする。
 最高賞に該当する協会賞には會田千夏(同)、2席に相当する道新賞は宮地明人(同)と、いずれも若手が受賞した。
 全道展というと、一般的にはフォービズム的な絵が多いと思われているが、ハイパーリアリズム系の画風が1、2位を独占したのは興味深い。
 いずれも人物像で、とりわけ宮地の絵は構図の未整理さが目につくが、リアルなひとみの描写、その下のラフなタッチのリンゴなど、会員たちは幅広い可能性を絵の中に見出したのであろう。
 つづく佳作賞には、山本恒二(恵庭)、門屋武史(釧路)、小笠原緑(千葉県)の3人。
 躍動感ある山本の人物像、古代の機械のような謎めいた雰囲気を残す門屋の絵にもひかれるが、小笠原の抽象画「水について語られること」が、筆者はつよく印象に残った。黒の地に、白い絵の具がおびただしく滴り落ちる画面は、作為を超えたパワーを秘めており、きわめて現代的な絵画だと思う。
 ほかに、賞に漏れたなかでは、大澤康(札幌)、中村真紀、中川治(以上岩見沢)の若々しさ、南雲久美子(札幌)、前川アキ(同)のしっかりした画面が印象に残る。柴田雅子(同)は自然のスケール感に挑み、負けていない。
 北野敬子(同)は画風の転換期にあるようだ。近藤健治(同)は水彩画の世界では実績のある人で、どうしていまさらと思ったが、さすがに手堅くまとめている。

 版画。
 総じて言えば(総じて言うことにあまり意味があるとも思えないけど)、会員・会友の充実ぶりと、いまひとつぱっとしない一般との格差が目立った。
 会員は、ベテランながらなお実験を続ける大本靖(札幌)、大自然への畏敬の念を感じさせる手島圭三郎(江別)や萩原常良(旭川)などがとくに印象に残る。
 和田裕子(札幌)「白雲木の木の下で」も、すがすがしい作品である。
 新会員は、山内敦子(札幌)。会友賞には、ひろがりある空間を描いた吉田敏子(北広島)「風の寓話」がえらばれている。
 新会友には、伊勢陽子(札幌)と友野直実(同)。いずれも受賞歴からいって、まずは順当なところだろう。とくに友野は昨年まで、3年連続で佳作賞、道新賞、佳作賞と受賞しているのだから、遅すぎたくらい。
 また、道新賞にえらばれた斉藤美和子(同)「残像G−浮遊」は、薄いレースの面がいくつもかさなりあったような、題のとおりのふしぎな画面をつくっていた。
 一般入選は木版画が圧倒的に多い。そのなかで高崎勝司、加藤聖子らのとりくみに注目した。ただ、やはり、インパクトのある新人の登場が待たれる。彗星のように登場して川上澄生木版画大賞を得るなど活躍し、昨年急逝した佐藤克教の遺作を見るにつけ、その思いは深い。

 彫刻。
 具象の多い会員と、若い会友・一般とが競い合い、活況を呈しているように見える。
 会員では、幼児像をつくってきた北村善平(東京)の「わが心の永像」が、迫力十分。いったいなんだといわれるとよくわからないが、やたらと存在感がある。
 会友は充実している。
 屋外にあった伊藤隆弘(空知管内長沼町)「コア(核)」、野村裕之(同)「山の肉体」、韮沢淳一(札幌)「檻」の抽象の石彫3点は、作風はことなるけれども、石ならではの重厚な存在感をただよわせていた。
 屋内では、小川誠(函館)「祈りのかたち−SLEEP−」が、造型的に完成された母子像で、見る人にあたたかさを感じさせる。ただ、昨年の個展に感動した身からすると、1点だけではものたりなさがのこるのも事実。こんなこと書いてもしかたないんだけど。
 新会員は木彫の阿部俊夫(岩見沢)。
 一般では、川上加奈(江別)―あれ、昨年までは井上加奈だったのに、苗字がかわったんですね、おめでとうございます―「GIFT 絵本」で、道新賞と新会友。抒情性と力づよさを兼ね備えた造型はすごい。
 内藤満美(札幌)は「月雫」で佳作賞、新会友。さらに「小濁り」も陳列されている。ひさしぶりの正統派の裸婦像作家といえるかもしれない。
 このほか一般では、佐藤志帆(函館)「大地の枷」が、バネの感じられる人物造型で佳作賞を得ている。
 柳原隆次「隆躍」(空知管内長沼町)は、髪を振り乱して踏ん張っている風の精のような存在を造型した。まがまがしいパワーにあふれた異色作である。

 工芸は、会員が5人、会友が3人。
 さびしさは禁じえないものの、染織、陶芸にくわえ、ガラスなどもあって、徐々に活気を取り戻しつつある。
 道美会員の香西毅(胆振管内白老町)が「辰砂壺」で入選するなど、他流試合もみられる。
 さて、筆者がいちばん書きたかったのは、この展覧会に出品してない人たちのことだったりする。

 絵画では、竹内豊(札幌)が退会した。
 フォーブ調の絵が多い全道展の中では、クリアな彩色がさわやかで、見るのがたのしみだったのでざんねんだ。
 彼は57年に会員推挙の大ベテラン。71−74年に事務局次長、ひきつづき75−79年に事務局長をつとめていた。近年でも、松隈康夫や関原範子ら、事務局でがんばっていた作家が退会する例はけっこう多い。道展でも事務局長が、あとで退会しているし、なにか部外者にはうかがい知れない事情があるのかもしれない。
 また、毎年ユニークな絵画を出品して見る者を煙に巻く会員の森弘志(十勝管内新得町)も、出品していない。
 会友は例年欠席が多い。二科のベテラン熊谷邦子(札幌)が、二科の道支部展に出品していながら、全道展には出していない。
 一般では、一昨年に道新賞を得た若手の久野志乃が出ていない。教師業がいそがしいのでしょう。パフォーマンス、映像などもこなせる人なので、心配はしていませんが。
 ほか、若手の松田知和、山本真紀、まばゆい色彩が持ち味の原田恭子らが出ていないのがさびしい。

 版画では、会員・一原有徳(小樽)が不出品。
 度重なる入院のたびに完治させて退院してきた版画家だが、明治生まれなので、体調が気になる。一昨年、超大作を完成させたばかりでもあり、復活を期待したい。
 会友・鈴木涼子(同)が退会した。
 昨年の札幌美術展の「アニコラシリーズ」など、すでに版画から現代美術へと転進していただけに、公募展にいる意味はもはやなかったのかもしれないが、個人的には全道展ではやく会員になって、いい意味で全道展をかき回してほしかった気がする。そのへんは、池田緑にせよ艾澤詳子にせよ最近の女性は見切りが早い。

 彫刻。
 筆者以外にだれもほめてくれないので不安になったりするのだが、会友・石河真理子(石狩)の気品ある首を見るのがたのしみだったので、どうか来年は出品されますように。

 
関連ファイル
 ■2001年の全道展
 ■2002年の全道展
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