田沢温泉


ますや旅館
ますや旅館・廊下と階段 藤村の間から見たますや旅館 藤村の間専用階段
藤村の間
藤村の間からの眺望 登録有形文化財の宿 田沢温泉の町並み
共同浴場・有乳湯

  田沢温泉は子宝の湯として有名です。温泉は、源泉かけ流しで、子宝の湯に相応しく、ぬるめでマイルドで、体に大変やさしそうなお湯です。田沢温泉は、国民温泉保養地に指定されていますが、数多くの良質な温泉のある長野県でも、国民温泉保養地は、数箇所しかないことから、この温泉が良質であることがわかります。 上田から国道143号を松本方面で向かい、青木村役場を過ぎて左手の細い道を入っていくと山のふもとに田沢温泉があります。狭い石畳の坂道に沿って昔ながらの木造建築の旅館が立ち並んでいます。大変静かで街全体にレトロな温泉情緒が漂っており、ひとたびこの街へ足を踏み入れると、明治・大正・昭和初期にタイムスリップしたような気持ちになります。

 [ますや旅館]
 ますや旅館は、明治初期創業の大変歴史ある旅館です。国の登録有形文化財に指定されています。昔ながらの重厚な木造三階建て/四階建ての建物が複数立ち並んでいる姿は、荘厳な雰囲気です。黒光りの廊下、階段、天井、窓、扉、襖、調度品等、全てが明治時代の姿をそのまま残しており、情緒満点です。島崎藤村の作品にも登場し、藤村が滞在した客室も「藤村の間」として、そのまま残っています。藤村の「千曲川の スケッチ」には. 升屋(ますや)というは眺望の好い温泉宿だ。〜」という記述があります。また、最近では、松坂慶子、牧瀬里穂が登場する映画「卓球温泉」の舞台となったことでも有名です。旅館にはロケ時の写真がいくつか展示されており、それ以外にも著名人の色紙が多数展示されています。

 私はこの旅館を3回訪れました。映画「卓球温泉」を見て、1度訪れたいと思っているうちに長野へ転勤し、1999年に初めて日帰り入浴で訪れました。その魅力に魅せられて、翌年冬に宿泊で訪れ、四階の西側の角部屋に滞在しました。8畳間+次の間の広い部屋で、静かに寛ぎ、明治時代にタイムスリップした気分を味わいました。 それから6年後の冬の週末、久しぶりにこの旅館を訪れました。客室の暖房がガスストーブからファンヒーターに変わった以外は、6年前と全く変わらない姿を見て安心しました。そして今回はついに念願の
「藤村の間」に滞在することになりました。
 玄関ロビーから廊下に出てすぐの急な階段を1つ上ったところに
「藤村の間」(三階の奥ということで「三奥」と呼ばれており、部屋の入り口にもそう記載されています)があります。坂道の途中に旅館があり、玄関が二階という構造のため、1つ上が三階になっています。 「藤村の間」は8畳+8畳の広い部屋で、その四方に廊下があり、独立した離れのような造りになっています。また、入り口のところに専用の洗面所とトイレがあります。部屋は、金箔(今では色が落ちていますが)の襖や、調度品等、藤村が滞在した当時の姿が、そのままで残されています。藤村の子が描いた額が掛けられており、「父藤村が滞在してから70年間、そのままの姿で部屋を保存していただいている」旨の記載があります。藤村の滞在は1899年と言われていますので、この額が書かれたのは今から30数年前であると推定され、既に100年以上保存されていることになります。 昔ながらの木造りの広い窓からは、雪化粧した信州の山々が眺望できます。視界には近代的な建物はなく、この美しい眺望は、島崎藤村が見たものと変わらないであろうと想定されます。
 お風呂は、男女別の大浴場・露天風呂と家族風呂が2つあります。大浴場・露天風呂は、玄関から昔ながらの長い廊下を歩いた一番奥にあります。タイルの内湯と岩の露天風呂とも改装された明るい感じのお風呂であり、お湯は、源泉かけ流しの透明マイルドなぬる湯です。ほのかな硫黄の香りが心地よく、ゆっくり浸かることができました。冬場のため、宿泊客は3組しかおらず、(日帰り入浴客は何組かいました)実質貸切で何回もお湯を味わうことができました。露天風呂から見た冬空の満点の星と月、藤村の間から見た山里の眺望、そして明治時代そのままの客室を見ていると、完全にタイムスリップした気分になり、また世の中には変わるものと変わらないもの(変えてはいけないもの)があることを再認識させられます。
 食事は、夕食は部屋食で、山菜や鯉料理、馬刺し、きのこ等、とてもヘルシーな信州の郷土料理を楽しみました。また、藤村のにごり酒というフルーティーで美味しい日本酒が食前酒で添えられていました。朝食はロビー横の食堂で、やはりヘルシーなメニューを味わいました。「夏は蛍を見ることができるので、次回は是非夏にお越しください」という仲居さんの言葉で今度は蛍を見に来ようという気持ちになり、土産に藤村のにごり酒と美味しい林檎を購入して帰路につきました。

 [共同浴場・有乳湯][NEW]
 田沢温泉には日帰りの共同浴場もあり、別の日に3回ほど訪れたことがあります。ますや旅館の少し奥にある「有乳湯(うちゆ)」は近年改装された清潔感ある施設ですが、素朴な味わいがあります。加温加水なしの源泉かけ流しのお湯は透明・マイルドでぬるめであり、子宝の湯に相応しく体にとてもやさしい感じです。ほのかな硫黄の香りが大変心地よく感じられます。地元の人たちで大変賑わっており、素朴な語らいがありました。また、施設の1階には展示コーナーがあり、「子持ちの湯」「有乳湯」として古くから親しまれた田沢温泉の歴史に触れることができました。
 その後、7月末の平日と、青木村のお祭りが開かれている8月初旬の週末の2回、久しぶりに有乳湯を訪ねました。平日は大変込み合っており、お祭りの週末は逆に少し空いていました(地元の方々がお祭りに出られているためのようです)。地元の方々に愛されている共同浴場であることを実感しました。久しぶりに良質の温めのお湯をゆっくり楽しんで帰りました。


 田沢温泉の近くには、同じく静かで湯治場の雰囲気を残す、沓掛温泉があります。また、車で上田からここに来る途中には、みかえりの塔と呼ばれる美しい国宝の三重の塔がある、大法寺があります。このお寺は1200年の歴史があり、山の中に思いがけず美しい塔が現れて、何回も振り返ることから、みかえりの塔という名がついたそうです。私が訪れたのは、雪が積もっている季節でしたが、雪の三重の塔は大変美しく印象的でした。

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