ここではπ/2と3π/2を代入した場合を調べることにする。
フーリエ級数
(π-x)/2=sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ ( 0 < x < 2π) の両辺に∫(0〜x) e^(ax) を作用させて得られる式のxにπ/2と3π/2を代入すると、次の新しい2式(ゼータの香りの漂う式)
が導出される。ここでaは任意の実数である。
1/(2^2+a^2) - 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) - 1/(8^2+ a^2) + ・・・
=1/(2a^2) - (π/(2a))・(e^(3aπ/2)+e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+ a^2) + 5/(5^2+ a^2) - 7/(7^2+ a^2) + ・・・
=(π/2)・(e^(3aπ/2)-e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
注意いただきたいのは、π/2代入と3π/2代入をペアで同時に行って上記二つが導出されるということである。そのため
タイトルを[π/2代入 & 3π/2代入]としたのである。試しにaに2を代入すると、上式は次のようになる。
1/(2^2+4) - 1/(4^2+ 4) + 1/(6^2+ 4) - 1/(8^2+ 4) + ・・=1/8 - (π/4)・(e^(3π)+e^π)/( e^(4π)-1) 1/(1^2+4) - 3/(3^2+ 4) + 5/(5^2+ 4) - 7/(7^2+ 4) + ・・=(π/2)・(e^(3π)-e^π)/( e^(4π)-1)
これらの美しい式の導出過程を以下に示す。
[導出] フーリエ級数 (π-x)/2=sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・ ----@ ( 0 < x < 2π) を出発点とする。@の左右両辺に作用素∫(0〜x) e^(ax) を作用させて(後ろにdxは付く)、求めていく。 まず@の左辺に∫(0〜x) e^(ax)を作用させる。 ∫(0〜x) e^(ax)・(π-x)/2 dx=((π-x)/(2a))・e^(ax) - π/(2a) + (e^(ax)-1)/(2a^2) ―---A 次に@の右辺に着目する。まずsin(nx)/n に作用素を適用すると(部分積分を2回行って) ∫(0〜x) e^(ax)・(sin(nx)/n) dx= a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2)) - con(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + 1/(n^2+a^2) ----B となる。@の右辺の各項に項別積分を適用して次を得る。 ∫(0〜x) e^(ax)・(n=1〜∞) (sin(nx)/n) dx
=(n=1〜∞){1/(n^2+a^2) - cos(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2))} ----C
@の両辺に∫(0〜x) e^(ax)を作用させた結果がAとCであるからA=Cとなって、 ((π-x)/(2a))・e^(ax) - π/(2a) + (e^(ax)-1)/(2a^2)
=(n=1〜∞){1/(n^2+a^2) - cos(nx)・e^(ax)/(n^2+a^2) + a・sin(nx)・e^(ax)/(n(n^2+a^2))} ----D
ここでDにxにπ/2を代入して整理すると次のようになる。
aA + B= π/(4a) - (π/a)・e^(-aπ/2) + (1/(2a^2)) - (π/a)・e^(-aπ/2)/(e^(2aπ)-1) ----E
また、Dにxに3π/2を代入して整理すると次のようになる。
-aA + B= -π/(4a) - (π/a)・e^(-3aπ/2) + (1/(2a^2)) - (π/a)・e^(-3aπ/2)/(e^(2aπ)-1) ----F
ここで、A=1/(1(1^2+a^2)) - 1/(3(3^2+a^2)) + 1/(5(5^2+a^2)) - 1/(7(7^2+a^2)) +・・,
B=1/(2^2+a^2) - 1/(4^2+a^2) + 1/(6^2+a^2) - 1/(8^2+a^2) + ・・
とした。
なお、E、Fを導く整理の途中で「その3」で導出した
1/(1^2+a^2) + 1/(2^2+ a^2) + 1/(3^2+ a^2) + 1/(4^2+ a^2) + ・・=- 1/(2a^2) + (π/(2a))・(e^(2aπ)+1)/( e^(2aπ)-1)
を使用した。
さて、E,FはAとBに関する連立方程式となっているから、これを解いて次を得る。
A=π/(4a^2) - (π/2a^2)・(e^(3aπ/2)-e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
B=1/(2a^2) - (π/(2a))・(e^(3aπ/2)+e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
つまり、
1/(1(1^2+a^2)) - 1/(3(3^2+a^2)) + 1/(5(5^2+a^2)) - 1/(7(7^2+a^2)) +・・
=π/(4a^2) - (π/2a^2)・(e^(3aπ/2)-e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1) ----G
1/(2^2+a^2) - 1/(4^2+a^2) + 1/(6^2+a^2) - 1/(8^2+a^2) + ・・
=1/(2a^2) - (π/(2a))・(e^(3aπ/2)+e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1) ---H
となる。
Hは目的の式に達しており、これでOKである。Gはさらに変形、簡潔化できる。G左辺は次のように変形できる。
1/(1(1^2+a^2)) - 1/(3(3^2+a^2)) + 1/(5(5^2+a^2)) - 1/(7(7^2+a^2)) +・・
=(1/a^2)[1{1/1^2-1/(1^2+a^2)}- 3{1/3^2-1/(3^2+a^2)}+5{1/5^2-1/(5^2+a^2)}-7{1/7^2-1/(7^2+a^2)}+・・・]
=(1/a^2)[(1 - 1/3 + 1/5 - 1/7 + ・・・) - {1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+a^2) + 5/(5^2+a^2) - 7/(7^2+a^2) +・・}]
=(1/a^2)[π/4 - {1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+a^2) + 5/(5^2+a^2) - 7/(7^2+a^2) +・・}]
=π/(4a^2) - (1/a^2){1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+a^2) + 5/(5^2+a^2) - 7/(7^2+a^2) +・・}
途中で、1 - 1/3 + 1/5 - 1/7 + ・・・=π/4 を使用した(L(1)=π/4)。
この変形とGを合わせると、簡単に
1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+ a^2) + 5/(5^2+ a^2) - 7/(7^2+ a^2) + ・・=(π/2)・(e^(3aπ/2)-e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
が出る。冒頭でも見た目的の式が導出できた。
[終わり]
1/(2^2+a^2) - 1/(4^2+ a^2) + 1/(6^2+ a^2) - 1/(8^2+ a^2) + ・・・
=1/(2a^2) - (π/(2a))・(e^(3aπ/2)+e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
1/(1^2+a^2) - 3/(3^2+ a^2) + 5/(5^2+ a^2) - 7/(7^2+ a^2) + ・・・
=(π/2)・(e^(3aπ/2)-e^(aπ/2))/( e^(2aπ)-1)
今回はこれらの式を導出した。上式はリーマン・ゼータζ(s)に対応し、下式はL(s)ゼータに対応していることはすぐに
わかるであろう。
ζ(s)=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + ・・・・
L(s)=1 - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + ・・・・
ζ(s)もL(s)もどちらもディリクレのL関数L(χ,s)という一般的なゼータ関数の一種である。整数論においてきわめて重要な
ディリクレのL関数L(χ,s)は次のように定義される。ディリクレ指標χ(a)に対応してL(χ,s)は色々と変わる。
L(χ,s)=χ(1)/1^s + χ(2)/2^s + χ(3)/3^s + χ(4)/4^s + χ(5)/5^s + χ(6)/6^s + ・・・・
ディリクレ指標χ(a)は、ある自然数Nについて次の3条件を満たす。
(1)a≡b mod N ならχ(a)=χ(b) (2)χ(ab)=χ(a)χ(b) (3)aとNが共通の素因数を持つときに限り、χ(a)=0
a≡b mod Nとは、a-bがNで割り切れることを指す。すなわち、aをNで割った余りと、bをNで割った余りが等しいことを意味
する。
L(s)はL(χ,s)のa≡0, 1, 2, 3 mod 4に対しそれぞれχ(a)=0, 1, 0, -1としたときのL(χ,s)に一致する。
ζ(s)は全てのaに対しχ(a)=1としたときのL(χ,s)であり、L(s)はa≡0, 1, 2, 3 mod 4に対しそれぞれχ(a)=0, 1, 0, -1と
したときのL(χ,s)に一致する。
L(s)のディリクレ指標χ(a)すなわち「a≡0, 1, 2, 3 mod 4に対しそれぞれχ(a)=0, 1, 0, -1」が、3条件を満たしてい ることを確認いただきたい。このときN=4であり、Nを導手と呼ぶ。導手はχ(a)を特徴づける最小単位となっている。 L(s)のχ(a)の導手は4である。L(s)関連で最も有名な公式は 1 - 1/3 + 1/5 - 1/7 + ・・・ =π/4 であろう。これはL(1)=π/4 であり、L(s)の特殊値として現れているのである。L(1)=π/4は、上記[導出]でも使用したこと
にも注意いただきたい。なお、ζ(s)の導手Nは1である。
今回、kπ/2代入(π/2&3π/2代入)で新しいゼータの香りの漂う式を導いた。
ではkπ/3を代入すると、どのような式が導出されるのだろうか? それは次回調べることにする。
「その3」の結果も合わせて以上をまとめておこう。
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