海王星 その10

 ブロック・加藤の玉河数予想と私の予想の関連を示唆しました。
また私の予想L-4は保型形式とも関連しているようです。予想L-4をまとめました(一番下)。


2005/1/15         <ブロック・加藤予想と私の予想との関連の示唆>

 ここはあまりにも高度なために示唆にとどめざるを得ません。

 ブロック・加藤の玉河数予想(以下ブロック・加藤予想)という巨大な予想があるのです。
 ”加藤”は、私の尊敬する加藤和也先生(京都大学教授)です。

 じつは以前からゼータ・数論関連の本や雑誌でこの予想のことは知っており、そしてばくぜんと直感的に
私の予想L−4とブロック・加藤予想は密接に関係しているはずだと思っていました。

 ただ、ブロック・加藤予想は、現代数学の最先端の知識でうめつくされているものであるため、とても
正確な理解などできていませんし、その解説も手にあまります。
 しかし、直感で強く結びついている・・ということはわかるのです。数学は不思議ですね。

 さて、どんな予想でしょうか?
それはゼータ関数の特殊値に関する予想なのですが、本と雑誌の解説記事をひろってみましょう。

「数論の歩み」(別冊数理科学,サイエンス社)p.60 栗原将人氏(東京都立大学助教授)の解説
 6.ブロック・加藤予想と岩澤理論

 ブロックと加藤は一般のハッセゼータ関数についてその特殊値に関する一般的な予想を立てた。
 これはゼータ関数という解析的な対象とある種の数論的、代数的な対象を結ぼうとする壮大なプロジェクトであ
り、有理数倍を除いてゼータ関数の値を予想するベイリンソン予想の精密化になっている。

 一般的にはこのような予想の証明は現在の段階ではとても手のつかない状況で、非常に特別な場合にいくつ
か調べられているにすぎない。ブロックと加藤は非常に一般的なガロア表現に対してそのセルマー群を定義し
(セルマー群の定義を一般化した。このためには様々なことが必要で特にp進ホッジ理論が不可欠である),そ
の一般化されたセルマー群の様子がゼータ関数の値にかかわっているという予想を立てたのである。

 さてAd(ρ0)についてのセルマー群を調べると、これはρ0のsymmetric square Sym^2ρ0のセルマー群と言っ
てもよいのだが、まさに5節の式
   Sel(Q,Ad(ρ0))=(ある値)
がブロック・加藤予想の予言する等式であることがわかる。そこで以下では(ある値)は(予想値)と書くことにしよ
う。我々は目標である5節の最後の不等式は
   #Sel(Q,Ad(ρ0))<=(予想値)
となる。つまり問題はAd(ρ0)あるいはSym^2ρ0についてのブロック・加藤予想に帰着されたことになる。

 ブロック・加藤予想の意味をもう少し説明しよう。一番簡単なリーマンのゼータ関数
  ζ(s)=Σ1/n^s
      (n=1〜∞)
を考える。ζ(s)は全平面に解析接続されるが、この負の奇数での値(具体的にはベルヌ−イ数で書ける)
を考えるとそれは有理数で、ブロック・加藤予想はこの値が(2巾と符号を除き)セルマー群の位数で書けると
予言する。一方この場合のセルマー群は円分体のイデアル類群の中のある部分となり、この場合のブロック・加
藤予想の公式は岩澤主予想から帰結される公式と同じものになる。(岩澤主予想は岩澤理論における実に美し
い関係である。藤崎氏の稿参照。) この場合の岩澤主予想はメーザーとワイルスによって解決されているので
この公式は正しいことがわかるのである。ワイルスはもっと一般的に総実代数体に対する岩澤主予想も解決し
ており、この方面の第一人者ということができる。・・・・・

註:色は杉岡が入れました。また行間をあけ、読み易くしています。

 これがブロック・加藤予想というものです。
 細かなところはまったくわからないのですが、全体の概略(流れ)や数学者の目指している方向性はじつに
よくわかります(これは「解決!フェルマーの最終定理」(加藤和也著、日本評論社)を読んでいるので、その
お陰かもしれませんが。)

 例えば、特殊な場合としてζ(s)に関していえば、現在でも奇数ゼータζ(3),ζ(5),ζ(7)・・の値のことはよく
わからないがそれらを包含してζ(n)を(nは全整数!)をあいまいさを残さずに記述しようとしている予想である
ことはわかります。
 それにしてもなんという高度な予想でしょうか!
  ガロア表現,セルマー群,p進ホッジ理論,・・・・
 これらを全部マスターするだけでも、膨大な時間を要することになるでしょう。
壮大な、そして射程距離の長い予想であるといえます。

 なお、解説にあるベイリンソン予想についても、ゼータ関数の特殊値を記述する予想ですが、これに関しては、
斉藤秀司氏の雑誌「数学のたのしみ」No.17の「ゼータ関数の特殊値とベイリンソン予想」に詳しいです。
そこでもベイリンソン予想よりさらに精密なブロック・加藤予想への言及が最後になされています。

 そして、私の直感を決定づけたのは次の黒川信重氏の言葉でした。
 「ゼータの世界」(梅田亨、黒川信重他著、日本評論社)p.121に、黒川氏は次のように書いている。
 オイラーの3つの結果は、その後のゼータ関数論の柱となったものであるり、ζ(s)に関して言えば、現在までに
得られている結果は、ある意味で、これらで尽きているとも言える。例外は、まず、リーマンの明示公式(1859
年)であり、これは関数等式の一段深い解釈と見なすことができ、次にはζ(2),ζ(3),・・・の値を整数環Zの高
次K群KnZ)を用いて解釈するというリヒテンバウム(1972年)による予想である。この予想については、1987
年、ブロック+加藤によりζ(3)(無理数であることは、アペリーにより1979年に示された)等についても進歩がみ
られた。一般のゼータ関数の特殊値についても同様のことが成り立つことは確実であろう。・・・・

註:色は杉岡が入れました。

 この黒川氏の解説は、栗原氏の記事を短くまとめたものといえるでしょう。
これをみて「ああやはりそうだったのだ!」と思ったのです。じつにわかりやすい説明だと思います。

 さて、ここで重要なのは、このブロック・加藤予想はラングランズ・プログラム(ラングランズ哲学とも)という現代
数論・数論幾何であまりにも重要な方向性を示している予想であるということです。だから、この予想は注目される。

 最近の現代数学の傾向として、数論や代数幾何やそして解析学というまったく孤立して研究されてきた領域が
じつは根底でつながっているということがわかってきた。
 孤立した島に橋をかけよう!というのがラングランズ・プログラムなわけです。

この「橋をかける」といううまい表現は、このメーザーの谷山・志村予想の解説からとりました。
なおラングランズは数学者の名前です。

 ラングランズ・プログラムをものの見事に体現しているのが、ブロック・加藤予想というわけです。
しかし、栗原解説にあるように、この予想は重大であるが、この山はあまりも巨大すぎてなかなか登頂までには
いたっていないのが現状です(特殊な場合のみ)。

 さて、私の予想L−4はどうでしょうか。次のようなものでした。
予想L-4

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@
                                (0 < x < 2π)

   -1/2=cosx + cos2x + cos3x + cos4x + ・・・・     -------A
                                (0 < x < 2π)

 @、Aと2次体Q(√m)の間には、ディリクレのL関数L(χ,s)を介して次のような関係が存在している。
(ただしmは整数で、1以外の平方数で割り切れないものである)

[T]mが4n+2 または 4n+3の整数のとき
 k=2|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=2k (つまりN=4|m|)で
ある2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

[U]mが4n+1の整数のとき
 k=|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=k (つまりN=|m|)である
2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

 ここで分割ゼータ(複数)とは、それらを適当に足したり引いたりするだけで上の条件を満たすL(χ,s)を出現させられる級数を指す。
なおk, q は互いに素な整数で、0 < qπ/k < 2πを満たす。

 そして、上の2次体 Q(√m)が実2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の奇数回の積分・微分の
所とAの偶数回の積分・微分の所に現れる。
 また虚2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の偶数回の積分・微分の所とAの奇数回の積分・
微分の所に現れる。
 これは、[T],[U]ともに適応される。


 手前味噌で恐縮ですが、これはζ(s)のみならず2次体に付随するL(χ,s)の全ての特殊値を正確に求めることの
できる予想であることはいうまでもありませんが、それ以外に驚くべき内容をいくつも含んでいます。

 じつはこの予想L−4はラングランズ・プログラムを初等的観点から実現してしまっています。
 これまで説明してきたように、この予想は、「フーリエ級数を重回積分-重回微分する」という解析の世界
2次体Q(√m)という代数体の世界を結びつけています。
 解析世界と代数世界に橋をかけているのがこの予想なのです。

 さらにゼータ関数の分裂という新しい概念を提唱している予想であるということです。
この予想は、ゼータの分身たちが一致協力して、本体のゼータをつくり上げていくという不思議な事実を示しています。
これまで多くの具体例でみましたので(「火星」〜「天王星」)読者も頷かれると思いますが、その不思議さは妖精たち
が一生懸命に生命体ゼータをつくっているようにも感じられ、その精妙さにふるえます。
「ゼータは分身の術を使う忍者だった!」とも表現できるかもしれません。

 さらにこの予想L−4の後半部分(偶数回、奇数回の箇所)は、
   実2次体ゼータはcos級数から生み出される
   虚2次体ゼータはsin級数から生み出される

というあまりにも美しい事実を表現しています。
 この秩序には驚かざるをえません。ゼータ世界は究極の美と調和で成り立っているとしか思えない・・

 さて、ここでの主題に戻りましょう。
 ブロック・加藤予想と私の予想L-4との関連です。
これまでの解説から、二つは根底で(特殊値を求めるという点で)深く結びついていることがわかるでしょう。
一方は高度、一方は初等的。その落差に驚かざるをえませんが、数学では初等的であるものは本質的である意味
合いもあり馬鹿にできません。
 今後この二つの関連を追及することは非常に意味のあることになるでしょう。

 私の勝手な推測ですが、数学者をてこずらせつづけているゼータ関数の特殊値問題も案外私のとった重回
積分-重回微分のような初等的な方法(or その類似の手法)で解明できるのかもしれない・・そんなことをばくぜん
と想います。黒川氏の「一般のゼータ関数の特殊値についても同様のことが成り立つことは確実であろう。」という
言葉がそれを暗示しているような気がしますが、どうでしょう。
 また栗原氏の解説から予想L-4はベイリンソン予想とも関連していることが容易に推測されます。

 また栗原解説の最後に、ブロック・加藤予想はある場合には岩澤理論にも関係することが言及されています。
ということは、私の予想L-4も岩澤理論と地下水脈で関係しているにちがい・・ということにもなってしまいます。
 なお、岩澤理論は現代数論における非常に重要な理論であり、ワイルスがそれを有効に用いてフェルマーの
最終定理を解決したのでした。

 最後に蛇足を少し。
 栗原解説の最後に、ワイルスの名前が見えます。
そうです、もちろんフェルマーの最終定理を解決したあのワイルスです。じつは、この栗原氏の記事は「フェルマー
とワイルス」という題の内容の一部分だったのです。

 ワイルスは、フェルマーの最終定理を解決するポイントの一つで、ブロック・加藤予想を解こうとしました。
ワイルスはその解決を信じたのですが、じつは誤りであったことがわかり、一時大ピンチに陥ったことはあまりに
有名です。結局、ブロック・加藤予想方面は諦めて、ヘッケ環の方へ方向転換し、ある決定的なひらめきをへて、
フェルマーの最終定理を解決したのでした。
 谷山・志村予想(*)という非常に高く険しい山を苦しみぬいた末、登頂に成功したその結果でした。
(谷山・志村予想が正しければフェルマーの最終定理も正しいことがリベットにより証明されていた。ワイルスは
谷山・志村予想が正しいことを証明したのです。よってリベットの結果からフェルマーの最終定理も正しいという
ことになったのでした。)

 日本人の名前がたくさん出てきました。
 ブロック・加藤予想,岩澤理論,玉河数,谷山・志村予想,・・・
加藤和也,谷山豊、志村五郎、岩澤健吉、玉河恒夫という天才たちです。私たちの誇りです。
また栗原将人氏も私が好きな数学者で、たいへんな英才です(--->栗原将人氏のHP)。

谷山豊氏、玉河恒夫氏、志村五郎氏の人物像に関しては次のサイトを参照ください。略歴がこの順に載っています。
---> 谷山豊氏玉河恒夫氏志村五郎氏

  ちなみにワイルスは写真付きで右のサイトに載っています。---->ワイルス関連

 今後も日本人の名が多く冠された理論・予想がでてくることを期待したいところです。

(*)この場合の谷山・志村予想は半安定の楕円曲線に関するもの。ワイルスは「半安定の楕円曲線は全てモヂュラーだろう」ということを証明した。


2005/1/31            <保型形式との関連 その2>

 ここでは、保型形式と私の予想L-4との関連を述べます。

これはずっと以前から想いつづけているテーマです。ただ保型形式について詳しいわけではないので、ここも概観的な
説明になりますが本質的に重要なポイントであると確信しています。
(保型形式は現代の数論・数論幾何において広大な領域を形成している理論であり、ゼータ関数と関わりが深い。)

 さてじつは「土星 その2」の保型形式との関連で前に少し保型形式と私の統一的法則性との関連にはすでに言及
していました。
 ただ、そのときは複素関数論における解析接続という概念を出さずに説明をしていたので、あいまいな点があったの
も事実です。ここでは、解析接続を用いて少し厳密な議論をしてみたいと思います。
(ただ、私自身、複素関数論にそれほど通じているわけではないので若干の誤り等あるかもしれませんが、本質から
大きく逸脱していないはずです)

 まず私の予想L-4を書いておきます。
予想L-4

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@
                                (0 < x < 2π)

   -1/2=cosx + cos2x + cos3x + cos4x + ・・・・     -------A
                                (0 < x < 2π)

 @、Aと2次体Q(√m)の間には、ディリクレのL関数L(χ,s)を介して次のような関係が存在している。
(ただしmは整数で、1以外の平方数で割り切れないものである)

[T]mが4n+2 または 4n+3の整数のとき
 k=2|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=2k (つまりN=4|m|)で
ある2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

[U]mが4n+1の整数のとき
 k=|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=k (つまりN=|m|)である
2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

 ここで分割ゼータ(複数)とは、それらを適当に足したり引いたりするだけで上の条件を満たすL(χ,s)を出現させられる級数を指す。
なおk, q は互いに素な整数で、0 < qπ/k < 2πを満たす。

 そして、上の2次体 Q(√m)が実2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の奇数回の積分・微分の
所とAの偶数回の積分・微分の所に現れる。
 また虚2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の偶数回の積分・微分の所とAの奇数回の積分・
微分の所に現れる。
 これは、[T],[U]ともに適応される。


 これが「ゼータ惑星」において、多くの試行錯誤と実験の末に到達した中心的な予想であることはいうまでもありませ
ん。そして、この予想は実数平面で成立するものであり、複素平面に関しては関係のないものです。
 ここでは解析接続を用いて上の予想L-4を複素平面と関連付けられないか?という試みを行ってみます。

 まず中心母等式の一つである@式に注目しましょう。

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@
                                (0 < x < 2π)

 これは、実数xの(0 < x < 2π)という範囲で成立する式であることはいうまでもありません。
(じつは、0 < |x| < 2πとしていないのは訳があって、@式自身は0 < |x| < 2πでもちろんOKなのですが、@を重回積分したり重回微分したり
した式では不成立なのです。よって、統一的法則性という観点から、念のため、0 < x < 2πとしています。この辺は2004/7/19前後に私自身の
ノート(32)に手計算で調べていました。)

 「ゼータ関数のいくつかの点について その3」で、次のような式を出していました。

  πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } ----A
                                             ( 0 < |x| < 1 )

 ここで、πx=x/2 などと変数変換他をほどこすと、容易に次のように書き換えられる。

  cos(x/2)/sin(x/2)
   =- 4{ζ(0)/x + ζ(2) x/(2π)^2 + ζ(4)x^3/(2π)^4 + ζ(6)x^5/(2π)^4 + ζ(8)x^/(2π)^47 +・・・ }---B
                                             ( 0 < |x| < 2π )

 これは一種のローラン展開ですが、しかしじつはA式でx-->0と究極に0に近づけてもA式(すなわちB式)は
成り立つことから、Bはx=0の周りのテイラー展開と考えてもよいのです。
 この辺は微妙ですが、@式をフーリエ展開で証明した「海王星 その2」の<中心母等式をフーリエ展開で証明
を見てもらうと、いまの言った意味がわかると思います。ゼータはぎりぎりのところで究極的な調和を保っています。

 よって、B式の範囲 ( 0 < |x| < 1 )は、( |x| < 1 )としてよいことになります。
その点だけ変えて、B式をC式としておきましょう。

cos(x/2)/sin(x/2)
 =- 4{ζ(0)/x + ζ(2) x/(2π)^2 + ζ(4)x^3/(2π)^4 + ζ(6)x^5/(2π)^6 + ・・・ }---C
                                             ( |x| < 2π)

 念のためにいいますと ( |x| < 1 ) という範囲は、C式のべき級数(テイラー級数)の収束半径を示しています。
これまで「いくつか点」〜「ゼータ惑星」全てにわたって、収束半径内で議論するということが裏側で決定的に重要な
役割をはたしてきたことはいろいろと暗に示してきたので、読者はお気付きでしょう。

 ささいなことですが、@式の範囲は、ほんとうは ( 0 < |x| < 2π)です。
A式との整合性から、サイトの途中から ( 0 < x < 2π)と絶対値を外していました。C式と比べる意味で、復活させ
次のように書きます(解析接続をいう場合は、| |はあってもなくても最終ゴールは同じになりますが)

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@-2
                                (0 < |x| < 2π)

 もちろん、ここでも少し上で述べたx-->0と究極に0に近づけても・・の議論が成り立つので、@-2を( |x| < 2π)と
だけ変えて、

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@-3
                                ( |x| < 2π)
としておきます。
 さて、C式と@-3式の左辺は同じです。
しかし、右辺となればC式はベキ級数展開(テイラー展開)、一方@-3はフーリエ展開となっており、その形がまったく
味わい深いものになっています。

 さて、ここまでが解析接続(or 解析的延長)への準備段階で、当然ながらいままでは実数平面内での議論である
ことはいうまでもありません。
 さて、解析接続を急ぎましょう。@-3式が考察の中心となります。
  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@-3
                                ( |x| < 2π)

 準備のため、@-3式の範囲( |x| < 2π)を領域R1とします。

 @-3式で、いま実数変数xを複素変数zに置き換えて次のような式を構成したとしましょう。

  cos(z/2)/sin(z/2)=2(sinz + sin2z + sin3z + sin4z + ・・・)  -----@-4
                                ( |z| < 2π)

ここで、複素変数zはもちろんz=x+i・y (x, yは実数,i は虚数単位)
これは、( |z| < 2π)というのは、もちろん複素平面におけるz=0を中心とする半径2πという円内の範囲(領域R2
します)を示す。
@-4式の複素関数のベキ級数展開の収束半径は2πであることから、領域Rで@-4式は(の左辺)は正則な関数
です。(”正則”は”微分可能”とほぼ同じ意味です。)

 よって複素平面上で領域R1を包含する領域R2で成り立つ同じ関数(x-->z)を構成しえたので、ここで解析接続
という複素関数論の強力な武器を使うことにより、@-4式が複素平面上で成立する式であるといえるのです。

 また、全く同様の議論を用いることにより、

   -1/2=cosz + cos2z + cos3z + cos4z + ・・・・     -------A-2
                                 ( |z| < 2π)
という式も成り立ちます。

 ここで目的の半分くらいのところまで来ました。
一気に保型形式との関連までいきたかったのですが、それは少し後に書きます。

 私自身の解析接続に関して知識が不足しているためか、本当は@-4もA-2もじつは特異点を除く全複素平面上へ
解析接続されるのかもしれません。が、しかし、いまは確実なところで( |z| < 2π)としておきます。
また後日修正するかもしれません。




2005/2/1            <保型形式との関連 その2 つづき>

  上のつづきを行います。
結局、上で実数変数xを複素変数zにわざわざ置き換えたのは保型形式の式に到達したいがためです。
 その辺は、「土星 その2」の保型形式との関連ですでに荒削り的には述べてはいましたが。

そこで、加藤和也さんの解説をもとに書いた文章でここでもう一度掲載しておきます。

*************** 「土星 その2」の保型形式との関連から抜粋(一部改) ***************************
私は、まるで保型形式には詳しくはないのですが、「解決!フェルマーの最終定理」(加藤和也著、日本評論社)を
見ていると、上は保型形式の特殊な場合になっているようなのです。

 加藤和也さんの受け売りになりますが、少し説明します。保型形式は複素平面の上半平面(Hと書く)
   H={x + iy ; x,yは実数で,y > 0
の上で定義される関数f(z)に関するものです。
 一般に、上半平面上の保型形式f(z)は、

  f(z)=ΣAn・e^(2πinx)    -------D
    (n=0〜∞)
と定義されます。そして、このf(z)に対応するゼータ関数をDのL(f,s)とおいて、これをその保型形式fのゼータ関数
と呼びます。
  L(f,s)=ΣAn・n^(-s)    ------E
           (n=1〜∞)

面白いことに、このL(f,s)もオイラー積表示をもち、しかもその中身が2次になっているので、結局上半平面上の
保型形式から2次のゼータが現れるということになるのです。
 もし、DのAnで、ラマヌジャンのτ(n)を採用すれば、そのときは、Dに対応するゼータは2次のラマヌジャンの
ゼータという有名なものになります。
 (一部略)
 加藤和也さんの「解決!・・」には、2次の保型形式のことばかり書いてあり、あまり1次の保型形式と複素平面の
ことにはふられていません。しかし「ディリクレのL関数L(χ,s)は1次の保型形式である」という意味のことが書かれ
ているので(P.30)、L(χ,s)も複素平面と繋がっていると考えられます。
*********************************************************************************

 上のようなことを書いていました。
 これだけではとうてい説明不足ですが、感じだけはつかんでください。

 最も注目してほしいのはDです。ばらして書けば次のようになります。

 f(z)=A0 + A1・e^(2πix) + A2・e^(2πi・2x) + A3・e^(2πi・3x) + + A4・e^(2πi・4x) + ・・・-----D


 さて、一つ上で求めていた中心母等式の複素変数版の式を並べてみましょう。

  cos(z/2)/sin(z/2)=2(sinz + sin2z + sin3z + sin4z + ・・・)  -----@-4
                                ( |z| < 2π)

  -1/2=cosz + cos2z + cos3z + cos4z + ・・・・     -------A-2
                                 ( |z| < 2π)

@-4式の両辺を2で割ってからi を掛けたものとA-2式を足すと次のようになります。

 -1/2 + i/2・cos(z/2)/sin(z/2)
       =(cosz+i・sinz) + (cos2z+i・sin2z) + (cos3z+i・sin3z) + (cos4z+i・sin4z) +・・・
       =e^iz + e^2iz + e^3iz + e^4iz +・・・
        =Σe^(inz)                  -------B
            (n=1〜∞)

 さらに左辺は cosz=(e^iz +e^-iz)/2 と sinz=(e^iz - e^-iz)/2i を利用すると、次のようになってしまうのです!
 -1/2 + i/2・cos(z/2)/sin(z/2)=e^iz/(1-e^iz)

結局、Bは次のようになる。
  e^iz/(1-e^iz) =e^iz + e^2iz + e^3iz + e^4iz +・・・
            =Σe^(inz)                  -------B-2
                (n=1〜∞)

 D式と比べるとこのB-2式はまさに保型形式的な式になっていることがわかるでしょう。
しかも、シンプルで美しい・・・

 私がもっている本や雑誌には、2次の保型形式のことばかりのっていて、1次の保型形式のことはあまり記述が
ありません。よって、前々からどうなのかなと気になっていました。

 加藤和也さんは、次のように述べています。
「今では、ディリクレ指標χは1次の保型形式,上半平面上の保型形式fは2次の保型形式と解釈されて
います。 ・・略・・L(χ,s)もL(f,s)も,みーんな「保型形式のゼータ」なのです。ここでは説明できないの
ですが、各自然数nに対してn次の保型形式も定義され、n次の保型形式からn次のゼータが得られる
こともわかっています。」
(「解決!フェルマーの最終定理」(加藤和也著、日本評論社))

 B-2式が、実際に保型形式の条件を満たしているのかどうかまだ調べていないので、厳密にはいえませんが、
B-2式はディリクレのL関数L(χ,s)に関する保型形式の式に密接に関連していると考えられます。

 それにしても、1次のゼータ,2次のゼータ,3次のゼータ,・・と延々とつづいていくゼータが存在している。すごい
世界があるものです。
 読者は1次や2次ってなんの次数なのか?と思われるかもしれませんが、これはゼータをオイラー積表示したとき
の各項の中の素数p^(-s)の次数です。p^(-s)が1乗のみならば-->1次ゼータとなり、2乗があれば-->2次ゼータと
なる・・というものです。
 例えば、2次のゼータは天才ラマヌジャン(1887〜1920)によって史上はじめて発見されました。
参考までに、そのラマヌジャンのゼータを書いておきましょう。
      Στ^(z)n^(-n) =Π(1-τ(p)p^(-s)+p^(11-2s))^(-1)                  -------B
        (n=1〜∞)   p:素数

右辺のΠは”各因子を掛け合わせる”という意味です。

 なんとも不思議な形をしていますが、ちゃんとオイラー積表示になっておりまさしくゼータの仲間なのだとわかります。
Bはちゃんと2次のゼータになっていすね?
ラマヌジャンのゼータ関数も保型形式から出てくることがわかっています。Bあたりをもっと詳しくみたい読者は、
「数学の夢 素数からのひろがり」(黒川信重著、岩波書店)がおすすめです。

 さて、本筋に戻りましょう。
私の予想L-4の二つの中心母等式から保型形式的なB-2式が自然に出てしまったわけですから、
これはきわめて重大ななにかを示しているといって間違いないと思います。

 しかも加藤さんの解説中にあるD式とE式から、B-2式のAnはすべて1であることより、このB-2式に対応する
保型形式のゼータ関数は

   L(f,s)=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + ・・・

となって、なんとこれはリーマン・ゼータζ(s)に一致してしまうのです!
 これはもうなにかをじんじんと感じざるをえません。
 それにしても、予想L-4がこんなにも自然に保型形式に繋がっていてほんとうにうれしいです。

 いまの状況を表現すれば、予想L-4の孤島と保型形式の孤島、この二つの島が細い一本の糸で結ばれた
ような状態でしょうか。
 いつか人が行き来できるようなりっぱな橋をかけたいものです。




2005/2/2              <私の予想L-4>

(2006/9/22改  より一般的なテイラーシステムを発見したこと等から、懸賞金はとりやめます。)

 この「ゼータ惑星」で到達した重要な予想L-4をまとめました。どしどし挑戦してください!

予想L-4

  cos(x/2)/sin(x/2)=2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・)  -----@
                                (0 < x < 2π)

   -1/2=cosx + cos2x + cos3x + cos4x + ・・・・     -------A
                                (0 < x < 2π)

 @、Aと2次体Q(√m)の間には、ディリクレのL関数L(χ,s)を介して次のような関係が存在している。
(ただしmは整数で、1以外の平方数で割り切れないものである)

[T]mが4n+2 または 4n+3の整数のとき
 k=2|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=2k (つまりN=4|m|)で
ある2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

[U]mが4n+1の整数のとき
 k=|m|とおく。@とAの重回積分-重回微分の結果に q π/k を代入すると、導手NがN=k (つまりN=|m|)である
2次体Q(√m)に対応するL(χ,s)かあるいはその分割ゼータ(複数)が特殊値の形で出現する。

 ここで分割ゼータ(複数)とは、それらを適当に足したり引いたりするだけで上の条件を満たすL(χ,s)を出現させられる級数を指す。
なおk, q は互いに素な整数で、0 < qπ/k < 2πを満たす。

 そして、上の2次体 Q(√m)が実2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の奇数回の積分・微分の
所とAの偶数回の積分・微分の所に現れる。
 また虚2次体ならば、それに対応するL(χ,s)の全特殊値が@の偶数回の積分・微分の所とAの奇数回の積分・
微分の所に現れる。
 これは、[T],[U]ともに適応される。



全ての2次体で上が成り立っていることを証明できれば定理となります。
 これまでの多くの検証結果とゼータの美と調和を信じる者からみれば、「ぜったい正しい」といえるものですので、
その点は安心してください。(谷山・志村予想と同じようなものといえるかもしれません。)
具体的な検証実験の結果に関しては、「ゼータ惑星」の火星〜天王星あたりを見てください。

 もし読者で証明できた場合は、杉岡までお送りください。
 これまで何度も述べましたが、この予想は、解析と代数を連結するラングランズ・プログラムを初等的観点から
(群・環・体や複素関数論の知識必要なし!)実現してしまっているという普通では考えられないような状況を実現
しています。よって、もし解ければ現代数学において大きな成果になることが期待されます。

果敢な挑戦をお待ちしています!
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註:私自身もこの問題は考えたいので、もし万が一私が先に解いてしまった場合は許してください。まずないと思います・・


 上の予想L-4の主張する内容をまとめておきますので、参考にしてください。

まとめ

1.重回積分-重回微分という簡明で初等的な方法により、@式とA式からζ(s)と2次体Q(√m)に付随する
 ディリクレのL関数L(χ,s)の全ての特殊値(明示,非明示とも)が正確に求められる。
 非明示の特殊値は現代数学で不明とされているものである。

2.ζ(2n+1)や他の2次体付随のL(χ,s)の特殊値の半分がなぜ現代数学でよくわからないかの理由がわ
 かってきた。@式の左辺の積分計算が難しいからである。計算を行うと[偶数ゼータの無限和]という一意
 には表現が定まらないものとなってしまう。
  一方ζ(2n)やL(χ,s)の明示的な特殊値がよくわかるのは、Aの左辺が簡単に積分計算できるためである。
 以上の理由から「これまで明示的な値はよくわかり、非明示な値はよくわからなかったのだ」とわかる。

3.この予想は、qπ/k代入の解析的な量kと2次体の導手Nが本質的に等しいという興味深い事実を示す。
 これは解析世界と代数世界が地下水脈で通じていることを示す。ラングランズ哲学を実現している。

4.予想より、「ゼータは分裂する生命体である」という不思議な事実がわかってきた。「ゼータは分身の
 術を使う忍者であった」とも表現できそうだ。
  出現した分身たちのうち、本体ゼータを生成していく分身たちを分割ゼータと名付けた。それから外れた
 ゼータたちを外分割ゼータと名付けた。

5.本予想は、実2次体ゼータはcos級数から生み出され、虚2次体ゼータはsin級数から生み出されるという
  驚くべき事実を主張している。ゼータ世界は究極に美しい構造になっているらしい。


 この他にもこの予想は、岩澤理論、類体論、保型形式、そしてブロック・加藤予想とも地下水脈でつながって
いると考えられますが(本ページ冒頭などから)、詳しいことはいまの時点ではよくわかりません。

 皆さん、ぜひ私の予想に挑戦してください。多くの方々によって本結果が拡張・発展させられていくことを願って
います。

 実2次体ゼータはcos星に住み、虚2次体ゼータはsin星に住んでいる
                                                  杉岡幹生





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