展覧会の紹介

北の個人美術館散歩風土を彩る6人の洋画家たち 2002年5月31日−7月14日
道立三岸好太郎美術館
(中央区北2西15)

 昨年は、熊谷守一や荻須高徳ら、国内の7個人美術館の作品だったけど、今年はさらにスケールダウン? して、道内の6館の絵をあつめています。
 6館とは
 井串佳一の絵を多く所蔵している網走市立美術館
 後志管内岩内町の木田金次郎美術館
 おなじく後志の真狩村にある国松登ギャラリー
 中村善策のコレクションを常設展示している市立小樽美術館
 岩見沢市絵画ホール・松島正幸記念館
 そして、会場の三岸好太郎美術館
です。
 個人美術館といえば、ほかに、十勝の神田日勝記念館や、後志の小川原脩記念美術館、西村計雄記念美術館が道内では有名ですが、今回は入っておりません。また、相原求一朗記念館にもいっぱい良い絵がありますが、この人は北海道生まれではありません。
 三岸については、「のんびり貝」「オーケストラ」「マリオネット」といった代表作は網羅されています。かえって、全体像をコンパクトに知るには、いい機会だったりして。

 先日も書きましたが、いちばん新鮮だったのは、井串佳一(いぐし・かいち)です。
 筆者は、網走市立美術館には行ったことがありません。学芸員にもお会いする機会がなくて、個人的には道内では一番縁のうすい公立美術館でした。
 図録によると、井串は1911年(明治44年)、野付牛村相之内(現北見市相内)生まれ。その後網走に転居。網走中(現網走南が丘中)在学中に道展に入選、32年には第2回独立展にも入選しています。35年上京、41年独立展会員、45年に疎開して、全道展の創立に参画(そういえば、戦前に死んだ三岸はべつとして、のこる5人中4人が全道展の創立会員です)。51年再び上京。55年、札幌滞在中に急死しています。享年44歳。
 それでですね、道立近代美術館にも彼の、アイヌ民族を描いた戦後の作品があるのです。だけど、正直なところ筆者の感想は
「ダイナミックではあるけれど、なんだか劇画調で安っぽい感じだなあ」
というものだったのです。
 今回の出品作のうち、戦後の「春漁」は、その劇画タッチの絵でしたが、初期のころの絵は、作者なりにフォーブなどを咀嚼していて興味深いものがありました。
 たとえば「風景」。ナイフの使い方など、とても20過ぎの作品とは思えません。
 34年の「雪の風景」は、ちいさながけのある風景と、雪上にころがっている小舟などを描いています。太く黒い輪郭線が特徴ですが、それは安易にモティーフを際立たせるために用いられているのではなく、絵を成り立たせている力強い一要素として、生き生きと絵の中で存在しています。
 36年「氷上漁業」は、三角や四角といった単純な形に、テントなどのモティーフをデフォルメしています。でも、構図のための構図には堕さず、北の厳しい冬をしっかりととらえている点に好感がもてます。ここでも、紺色の直線の輪郭線が絵をびしっと引き締めているのです。池の形は、さきごろ亡くなった小谷博貞さんの戦前の代表作「池」を思い出させます。

 もうひとり挙げておきたいのは、中村善策です。
 図録の表紙には「夏寂」が採られています。これは、後期の作品にくらべると、ふつうの絵に見えます。
 それでは、「北海道風景」や「海港の秋」といった絵が、ふつうでないとしたら、なぜなのでしょう。
 それは、「夏寂」が、透視図法を踏まえているのに対し、後者の2作品はそうではないように見えるからです。
 いずれも、前景に、風景をさえぎる木や草を大胆に入れています。たしかに、奥行きを強調する手段ではありますが、中村の絵では、手前から奥に向かう線がひとつもありません。
 そのため、彼の絵は、スムーズに前景から後景へと視線が導かれるというよりも、小学生が夏やすみにつくる水族館のパノラマのように、いくつかの平面を、かさねただけのように見えるのです。
 「北海道風景」でいえば、木や扉のある前景、ロシア正教寺院のある中景、港のある後景の、3つの平面が、ぺったりと貼りかさなっているようなのです。
 もうひとつ。
 彼は、絵の中で、主調色を際立たせるとか、色のトーンをそろえる、といったことをほとんどしません。
 赤は赤、緑は緑で、どうも気ままに置いているようです。
 いや、気ままというのは語弊がありますが、補色どうしを隣り合わせるなど、絵から落ち着きをなくしてしまうようなことを平気でします。
 しかも、個々のモティーフは、あまり陰影が強調されていませんから、ますます小学生の貼り絵に似てくるのです。
 しかし、マティスの例もあるとおり、小学生みたいな絵がかけるなら、それは、表面的に「巧い」絵をかくよりも、すごいことなんじゃないかという気がします。
 中村善策の絵が好きになったか、といわれれば、まだ「イエス」とはいえないんですが。

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