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展覧会の紹介

北海道の水彩画 2003年9月6日−10月26日
三岸好太郎美術館(中央区北2西15)


 前回の「素描・水彩展」につづく、苦肉の展覧会。
 つまり、三岸好太郎の主要作品が、全国を巡回している彼の回顧展で出はらっているため、彼の水彩作品29点と、道内の水彩画家の作品45点をあわせて「北海道の水彩画」という展覧会に仕立てたというわけ。いちおう、企画展になっている上に、道外から三岸好太郎の絵を見に来た観光客などが不満を爆発させないような展覧会になっています。
 したがって、三岸の陳列作は「素描・水彩展」とかなり重複している。前回同様、ふだん代表作がならんでいるときには、めったに展示されないような貴重作品がめじろ押しなので、この機会に見ておきたいものです。

 で、展覧会の印象は「のんきなもんだなあ」というものです。
 ふつう、通史的な展覧会だと、アンフォルメル(不定形芸術)の嵐があったり、表現手段の拡張があったりするものですが、この展覧会ではほとんどの絵が穏当な写実で、20世紀の芸術変革は、道内の水彩画壇にはほとんど影響していないかのようです。なにせ、シュルレアリスムや抽象との関連がありそうなのは、三岸の絵だけなのです。
 三岸の水彩や素描は、いかにも早書きで、才気にまかせて筆を執った三岸らしさを感じます。水彩画として完成させようとした作品はほとんどありません。なかでは「蝶と貝殻」などに、晩年特有の旅愁のような感覚がただよいます。一般的には、その時々に描かれた油絵とリンクした内容の作品が多いのですが、なかには、舞台美術やポスターの下絵のようなのもあります。

 ほかの画家は、林竹治郎、有島武郎、繁野三郎、宮崎信吉、野村英夫、間宮勇、泉秀雄、森田正世史、中島鉄雄、佐藤進、石田徹、大和屋巌、氏家和夫、白江正夫の15人。
 このうち、1951年に上京した大和屋と、いまも小樽に住む道展のベテラン氏家、白江の計3人が健在で、あとは物故者です。
 林(1871ー1941)は、展覧会で出る作品といえば、代表作である「朝の祈り」であることがほとんどなので、今回の2点は、めずらしいといえばめずらしい。
 有島(1878ー1923)は、いうまでもなく「或る女」などでわが国の近代文学を代表する小説家ですが、札幌農学校で教壇に立っていた時代に「黒百合会」を発足させ、自らも絵筆を執って、道内(とりわけ札幌)に洋画移入を果たした人物であることは、道内の美術愛好家にはわりあいよく知られたところです。有島も所属し、大正期の文学に多大な影響をあたえた雑誌「白樺」は、西洋美術の紹介にも力を注ぎました。ただし、ゴッホだ、ロダンだとさわいでいた武者小路実篤ら「白樺」同人の多くは写真版でしか作品を見ておらず、長い欧米滞在のあいだに実作を見て回っている有島はその点でも格がちがうといえましょう(あれ、これは以前書いたことがあるなあ)。
 で、今回は、北海道文学館の所蔵品であることがめずらしい。見慣れた芸術の森の所蔵品でないものを借りてきたのは良いと思います。

 繁野(1894ー1986)は、道内水彩画の鼻祖にして親玉的存在。
 現在の道展水彩部門の基盤を築きました。
 今回も、三岸以外では最多の12点が展示されています。
 安直な輪郭線をもちいず、さまざまな色を交互に配置することで、アヤメの庭や紅葉を表現しています。アタリの鉛筆の線は見えず、全体として透明な美しさがひかっています。
 「京畿丸船上にて(千島)」(1944年)は、従軍した際のスケッチでしょうか。歩哨のような人物が双眼鏡を手にして、敵艦を警戒しているようです。今回の展覧会でほとんど唯一、時代を感じさせる作品です。

 つぎに出品数が多いのが、旭川で「丘と館の画家」としてしたしまれた佐藤進(1914ー92)の6点。すべて道立旭川美術館の所蔵品です。
 このなかでは、「丘」(54年)に心をひかれます。こういう何気ない風景に筆者は弱い。
  
 もっとも、今回の展覧会では「丘」のような無名の風景よりも、札幌や小樽、旭川、岩内のじっさいの風景をモティーフにした作品が多く、その意味では、水彩画による道内巡りといった趣のある展覧会でもあります。
 そうしてみると、もっともはやくからひらけ、美術も盛んだった函館の絵がまったくないのがふしぎに感じられます。

 というわけで、刺戟を求めるむきにはものたりないけど、たまにはのんきな展覧会もいいのかもしれません。

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