札幌・真駒内公園

2001年7月



 7月31日(火)
 この2日間はギャラリーなどに行けませんでした。

 今月も終りなので、最後に、美術に関係ない話をしようっと。(かなり長話です)
 さいきん、岩波現代文庫から出た「昭和恐慌−日本ファシズム前夜」(長幸男著)を読みました。
 財政史の観点から、主に金解禁の是非をめぐって昭和初期の日本経済を振り返ってみた著作です。
 経済に疎い浅学菲才の筆者にはちょいとむずかしめの一冊でした。
 結論から言うと、三木清や笠信太郎が太平洋戦争中に模索した「第三の道」を、それが戦争協力的だったからといって葬り去っていいのか、というなかなかシビアな問題提起なのですが、いま書きたいのは、そのことではありません。
 いちばん興味深かったのは、昭和初期といまの日本の経済に、かなりの共通点がみられるということです。
 もちろん、何から何まで同じというのではありません。「金本位制」というのは過去の遺物になっているし、さいわい、テロリズムの横行もみられません。東北地方で娘の身売りが相次いだあの時代に比べると、日本は確実に豊かになっています。
 ただし、バブル景気のあと、深刻な反動に陥り、不良債権の処理の先延ばしをして「失われた10年」をやり過ごした後、緊縮政策によって乗り切ろうとすると、米国の景気が極端に悪化してしまう・・・という流れは、実によく似ています。
 いわゆる「小泉改革」は、まだ全体像が明らかになっていませんが、二つの面を指摘することができます。
 ひとつは、緊縮財政です。
 もうひとつは、これまで国などがやってきた分野を民間に委譲することです。
 経済学の立場からすると、米国の景気後退にともなってデフレ局面になっている時に、緊縮財政に走るのは、はっきり言って自殺行為です。「改革」を断行すると、日本の景気は深刻な後退期を迎えるでしょう。
 たださあ、じゃあ、国債発行を抑えたり、不良債権の処理を、いつやったらいいの? ってことになりますよね。「ある程度景気が回復したら…」というのは正論ですが、はたしてそんな時期が来るのか。
 いまから振り返ってみると、緊縮財政に移行しようとした橋本龍太郎政権はタイミングが悪かった。あの時期に山一證券や拓銀の破綻が起きるとは思っていなかったでしょう。
 その後を襲った小渕政権の時期は、緩やかな景気回復の時代です。
 ただしこれは、大量の国債発行による下支えがあったためと、いえるのではないでしょうか。
 あの時代に一気に借金減らしに走っていたら、はたして景気は大丈夫だったか、というと、ちょっと心もとない。
 となると、緊縮財政に移行するタイミングなんて、永遠に訪れないのではないか。そんな気がします。

 デフレ、というのは、需要が供給を下回っているために起きる現象です。
 世界の資本制社会は、1929年以降、ほうっておけば常に供給より需要が少なくなるという段階に突入しました(蛇足ですが、89年前後まで存在した「共産主義社会」では需要より供給が少ないにもかかわらず物価統制が行き届いていたためにインフレではなく行列ができました)。
 その危機を脱却しようとして採られた方策が、ファシズムであり、ケインズ主義であったのです。
 後者は、政府が借金をすることで自ら需要を作り出し、景気を良くしようとしました。フランクリン・ロウズヴェルト米大統領は、じつはケインズの立論に精通していたわけではないようですが、結果的にとった政策は、ケインズ主義的なものです。
 日本でも、資本制でも共産主義でもない独自の道を探った結果が、政府支出の急増でした。何に支出したかというと、いうまでもありませんね。戦争です。

 なぜ需要が少ないのか。需要の2大部門は、民間の設備投資と、消費です。
 設備投資はなかなか盛り上がりっていませんよね。そりゃそうです。造っても売れないんだから。こう円相場が高くちゃ、輸出して稼ぐという手段もなかなかとれません。
 あなたが経営者だったら、いまから国内に工場をつくりますか? コストを考えたら、ファーストリテイリングの社長じゃなくたって、中国に建てますよね。
 国は「設備投資してよ、たのむからさ」ということで、ほとんどゼロに近い水準にまで金利を引き下げているのです。それでも、借金をしてまで新しい事業に乗り出そうという会社は増えません。一方、民間消費ででかい要素は、マイホームの建設です。そりゃそうだ、買い物のなかではケタはずれに高い。超低金利はマイホーム取得に有利に働きますし、家を新築すると家電製品などの購入額が増え、景気に波及するという作用もあります。しかし、それにも限界があったようです。
 そこで国債をじゃんじゃん発行して需要を人為的に増やしたのですが、そのことに対する漠然とした不安感が、消費を冷え込ませているわけです。

 いまの日本に、需要を増やす余地があるのでしょうか。筆者には想像もつきません。どうすればよかったのか、ということは言えますが、それはいま言っても仕方のないことではあります。
 では、どうするか。
 まさか、また戦争をやるわけにはいかないでしょう。
 といって、国家主義的な気分を盛り上げて、不満を外にそらすという政策がとられることが、まったく考えられないわけではありません。
 これからは、不景気のどん底か、借金のさらなる増加か、いずれかが待っていると予想できます。
 筆者の杞憂であれば幸いです。

 附記。
 ただし、今後半世紀も、中華人民共和国が現在のような共産党独裁体制をとっているとは考えにくく、また、南北朝鮮が現在のままとも考えられません。東アジアは中東と並んで世界的にみても不安定要素の多い地域です。戦乱が起きないとも限りませんが、需要は創出されても、難民流入といったマイナス要素のほうが日本には大きすぎるようです。

 
 7月29日(日)
 行ってきました、はるばると、文京台ギャラリーへ。
 でもね、思ったほど遠くないですよ。
 新札幌駅のバスターミナルの「北ホーム」から、JRバスか夕鉄バスの、野幌・大麻方面に行く便に乗って、「自治研修所前」で下り、すぐ先のJOMOのガソリンスタンドを右折して約100メートルです。バスの本数は多く、数分待てば乗れると思います。
 ただ、ぎりぎりで江別市内なので、地下鉄の乗り継ぎは使えません。貧乏人は、一つ手前の「開拓の村入り口」バス停を利用すると120円節約できます。
 それはさておき、鉢呂光恵個展ですが、標本箱みたいなオブジェが6つほど並んでいました。
 注射針、あるいはロケットを思わせる、画鋲でできた小さな立体がはまっていたり、鉛板のような質感のものが幾重にも折り畳まれて詰め込まれていました。
 箱でも、コスースなんかとは違う感じです。
 大腸菌のDNAを取り出す実験に参加した感動を作品にしたらしいですが、うーん、説明を読まないとわかんないですね。
 30日まで。

 参議院選挙で、夜の6時に出勤、朝の5時まで働いていました。
 新聞社はお祭り騒ぎです。
 意外と投票率はのびませんでした。「小泉さんには期待するけれど自民党には入れたくない…」という人がけっこういたのかもしれません。あるいは騒いでいたのはマスコミと一部の人だけで、はなから関心のない人は、やっぱりないのかもしれません。

 7月28日(土)
 風邪、好転せず。
 なんか、オレって、毎月風邪ひいてるみたいだなあ…と、10分おきにハナをかみながら自嘲ぎみにひとりごちる今日このごろ。
 それでも、見に行かないと終わってしまう展覧会をいくつか回りました。

 時計台ギャラリー(中央区北1西3)では、A室が室蘭の福井路可(るか)さん、B室が旭川の斎藤矢寸子さん
 いずれも実力派の画家で、見ごたえがありました。
 健康が恢復したらちゃんと書きます。すんません。28日で終了。
 あと、来週の時計台ギャラリーは全室要チェックですよ! お見逃しなく。

 スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)は、3つ。
 後志管内岩内町在住の濱田五郎油絵個展
 大半が海岸に材を得た油彩30点が並びます。
 現場主義が貫かれているのか、どの絵もタッチの速いこと。絵の具の乾く間も惜しんでどんどん筆を走らせているさまが分かります。
 筆の跡は、いずれも、点ではなく、或る一定の長さを持った線で表されています。波のリズムを表現するには好都合です。岩礁もこの太い線で描かれているので、画面のリズム(あるいは調子)のためにリアルさはいくぶん犠牲にされているようです。
 濱田さんは道展会員。

 隣の部屋では佐野千尋〈新孔版画〉個展
 新孔版画というのは、プリントゴッコの理屈なんだそうです。
 この分野では、実は、札幌の渡會純价さんが第一人者なのですが、佐野さんも実にこの技法をよく使いこなし、10を超す色を出しています。「マリーナの秋」「春近き運河」などの海面の描写は、版画とは思えないほどリアル。古い絵はがきなどに、モノクロ写真に着色を施したものがありますが、あれによく似ています。
 また、富良野のラベンダー畑の紫は、とうてい写真には出せない鮮やかさです。
 ほかにも、函館のトラピスチヌ修道院、道庁赤れんがなどなど、道内の名所がてんこ盛りです。

 第27回素心会会員展は、書のベテランぞろい。橋本宇外さんらが渋い行書などを出品しています。

 いずれも29日まで。
 濱田さんは8月15日から19日まで、岩内町の木田金次郎美術館でも個展を開きます。

 ほか、ギャラリー大通美術館(大通西5、大五ビル)では、第10回JACA(日陶院)展が開かれ、角田孝浩(小樽)、後藤雅樹(札幌)、相馬康宏(同)、高井秀樹(渡島管内大野町)、土橋絹枝(札幌)の5人のユニークな作品が出品されています。
 29日まで。陶芸ファンはどうぞ。

 あしたはいよいよ参議院選挙の投票日。
 比例代表の投票方法が変わったため、開票作業は月曜朝までずれ込みそうです。どうなることやら…

 
 7月25日(水)
 風邪が悪化。外出は仕事のみ。

 7月24日(火)
 朝は霧。夕方小雨。
 本州以南はかなり暑いようで、熱中症で3人死亡などと新聞に出るようですが、北海道は涼しくて風邪をひきました。
 そんなわけでギャラリー巡りはなし。
 7月23日(月)
 きのうの予告どおり、PLATE-MARK ]を、見に行きました。
 道内のみならず、本州の実力派の若手・中堅版画家が大勢出品したグループ展で、今年で10回目です。
 以下、気になった作品をつらつらと挙げてみますね。
 まずは東京勢。
 まとめ役の小林大さん(小樽出身)は、「卯月」(エッチング、アクアチント)など2点を出品。猫なんかが出てくるのは相変わらずですが、いつものユーモラスさよりも、スケールの大きさが目立ちます。
 今春の多摩美大OB展にも出品してた佐竹邦子さん。昨年の日本版画協会展・協会賞を受賞したバリバリの若手です。ベニヤ板によるリトグラフ「Winds work」の連作2点。佐竹さんって、なんか意味不明に力入ってるなー、これはほめ言葉です。抽象なんですが、フォルムも線もエネルギーにあふれてるんです。
 パワフル、といえば、佐竹さんの1年前の版画展協会賞を受けた大下百華(ゆりか)さん「この時を超えて」も、大画面がばしーんと力強い木版。まあ、カラスが仰向けに裸婦を乗せて飛んでるようにも見えますけど、ともあれ黒と緑の対比がすてき。
 上田靖之さんの「Landscape」もデカイ作品だしなあ。
 一方、高橋シュウさん(北大卒)「四つの記憶」の2点は、静けさにみちたタッチで、植物などが描かれます。渡會純价さんの前に「道新TODAY」の表紙を担当していたので知ってる人も多いんじゃないかな。
 涌田利之さん(札幌出身)は木口木版4点。画面をびっしりと覆った細かい線は不思議な魅力にみちています。裸の少女や大きな虫、イカ、こうもりたちがモチーフの「春と修羅」。隠微な魅力ですなー。
 遠藤竜太さん「Transition period」の連作は、大理石を写したピンボケ写真のような美しい地に、線が、刺すように、あるいは舐めるように縦横に走る不思議な作品です。
 道内勢は見慣れた顔ぶれが多いのですが、伊藤ひろ子さんはひさしぶりー。やっぱり、とらえどころのないんだよなあ。
 メルヘン一直線の関川敦子さん。作風はぜんぜん変わっていませんが、これまでどちらかっていうと田園をバックにした作品っていうイメージがあったけど、今回猫たちが活躍するのは街の中で、なんか、こっちの方が登場人物(動物)がいきいきしている感じがしますねー。
 ほかにもまだまだ取り上げたい人はいますが、このへんで。
 ちなみに、ほかの出品者は、石川享信、大手仁志、加地保夫、鈴木涼子、高田京子、高橋洋、友野直実、豊泉朝子、西川肇一、浜中卓治、松田圭一郎、三塩英春、水谷昇雅、守矢有里、美水円、渡邊慶子、和田裕子のみなさん。
 大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)で、24日午後5時半まで。

 水野忠夫「ロシア文化ノート」(南雲堂フェニックス)を読みました。
 ここ10年ほどのロシア激動の時代に、文学、音楽、演劇、美術、映画(タルコスフキーの死)など幅広い分野について批評した文章を一冊にまとめた本。筆者のロシアへの愛が感じられて、読んでいて気持ちいいです。巻末のおすすめロシア文学ベスト50は役に立ちそう。
 索引がないのが残念。

 7月22日(日)
 HBC3条ビル(中央区南3西1)2階の北海道画廊で佐々木敏光個展
 ふつうの写実的な風景画なのですが、有名な景勝地などを避けて、どこにでもありそうな、それでいてなぜか懐かしいところばかりを描いているのが共感できます。とくに「入江の町」とか、西日の差す丘の絵とか、いいなあ。

 PLATE-MARK、あした見に行かなくちゃ。
 きょう限りでたくさんの展覧会が終了し、にぎやかだった「スケジュール」コーナーが一気に寂しくなりました。みなさんの情報提供を、心からお待ちしています。

 7月21日(土)
 あした22日までの展覧会で見ていないのがかなりあったので、急いで回りました。

 さいとうギャラリー、年末年始と夏は、恒例の小品展ですが、今年の「夏祭り おんな展」は、なぜか会期が1週間しかありません。つまり、22日午後5時まで。
 「おんな」をテーマにした小品展ということで、道内の57人が出品しています(岸本裕躬さん、DMありがとうございました)。
 いつもと全然変わらない人もあれば、ちょいとなまめかしくなっている人もあり、そこらへんの変わり具合がおもしろい。
 変わらないといえば、西田陽二さんの裸婦はやっぱりなまめかしいし、渡會純价さんはリズミカルな版画です。
 ちょっと変わったのは、矢崎勝美さん「COSMOS」。どこか、女体を思わせます。いつもはシャープな抽象世界を展開する版画の内藤克人さんも「Summer Time」では、キュビスム風の裸婦を三つ画面に並べています。
 竹内豊さん「Eve」は、黄色い顔と、緑の楕円を横に並べた不思議な絵。高橋英生さん「壁の中の女」も、いつもの洒脱な英生さんとはかなり異なる、重量級の作品です。
 「おんな」にあまり関係ないような作品では、渡邊慶子・友野直実の版画家コンビが目を引きました。渡邊さん「氷点下」は全体に白っぽい色が靄のようにかかり、友野さん「(me)」は人間存在の不確かさを表しているかのようです。
 また、工藤悦子さんのコラージュ、葉を使っているのですが、とても冴えていました。
 最後に。判じ物のようでくすっと笑った絵。北浦晃さんの「雌阿寒岳」。正統派の風景画ですが、なるほど、たしかに「おんな」ですよねー。
 同ギャラリーは、中央区南1西3、ラ・ガレリア5階。

 ほんでもって、ワンパターンですが、おとなりのスカイホール(大丸藤井セントラル7階)に行きました。
 第29回創人夏墨展がなかなか見ごたえがありました。
 筆者は書のことはよくわからないながら、やっぱり見ていて面白いのは漢字なんですよ。かなや篆刻はさっぱり分からん。
 この創人展は、漢字の中でも、行書の面白さを堪能させてくれる社中展なんです。近代詩文や墨象もありますが、断然行書の2尺×8尺作品が多くてしかも面白い。
 掛端春蓉さん「落花驚蝶夢 香逕倦蜂 」は闊達だし、品田多恵子さんは出せそうで出せない軽さを感じさせるし、高橋江楓さんは右はらいがリズミカルで楽しいし、曽我麗子さんは適度なスピード感がある。
 近代詩文では、工藤渓泉さんが、夏らしくてさわやかさを醸し出していました。
 
 お次は札幌市民ギャラリー(南2東6)。
 2階は、中野北溟教室展
 中野さんは道内在住の書家ではトップクラスですが(ついでに言うと近代詩文の書家としては国内トップクラスだと思いますが)、ご本人はあまりそういうところがなく、今もSTV文化教室で大勢の生徒さんを教えています。あまりにたくさんの作品があるので、書道好きに対しても「見なさい」と言いづらいのですが、強いてあげれば、菅原幸江さん「風がふく」。ほんとに風が吹いているみたいでした。

 第42回日本水彩画会北海道支部展も開かれています。
 道展の出品者が多いようです。
 ということは、過半数の作品は適度なリアリズム。
 しかし、宮川美樹さん(岩見沢。道展会員)「刻」は、相変わらず写真と見まごうばかりのすごい迫真の筆致で、石と砂、水の泡を描いています。文学的ともとれるけど、うまい。
 志賀廸さん(札幌。道展会友)「祝津三月」は、スケール感のある風景画。
 川端敬子さん(札幌)「エゾニュウの咲く頃」は、前景を思い切って大きくとらえ、奥行きを出しています。
 また、伊藤俊輔さん(同)「融雪の頃」は、コンスタブルを思わせる広がりのある構図です。
 新機軸を打ち出しているのは、札幌の中井戸紀子さんと栗山巽さん。
 これまで花の静物画が多かった中井戸さんは、ヒマワリを平面的に配して構成した絵に挑戦しています。
 栗山さんは「宙(とき)−ノアの化石」の連作で、ほとんど抽象に近い作品になりました。中央にアンモナイトのような形こそありますが、全体的には緑や青灰色の美しさが目立ちます。
 地味な風景画ながら目を引いたのは、近藤武義さん(札幌)、笹川誠吉さん(同)、千葉竜和さん(後志管内余市町)。みなさん、色数を絞って丹念に描写したのが成功しているのではないでしょうか。
 近藤さん「赤い屋根の街」は朱と緑の反復。笹川さん「マテラ風景(イタリア)」は灰色など石の色。千葉さんは白と茶です。
 ほかに、今野ミサさん、高橋栄吉さん、寺井宣子さん、成田一男さん、北野清子さん(いずれも札幌)といった、道展でおなじみの顔ぶれが出品しています。

 第35回白日会北海道支部展も開催中です。
 白日会というと、近年スーパーリアリズム的な画風の若い世代が台頭している日展系の公募展とよくいわれますが、道内はそういった傾向とはあまり関係がなく、道内公募展とも接点の乏しいベテランが多いような感じがします。みなさん、うまいのですが。
 うまいといえば、大ベテランの川村正男さん(札幌)。6月末の個展はこちら
 小川智さん(同)「海港爽秋」「山麓の春(積丹岳)」は、濁りのない色彩を落ち着いた筆致で配し、じつに心がなごみます。陰と光の対比が、派手にならず、実に巧みです。
 中矢勝善さん(同)は「緑化」など3点出品。こちらは、明度の高い色を全体に配しているので、フォルムの明快さよりも色彩の鮮やかさが全面に出ています。
 松信元一さん(同)は「薫風」「コンポジション」の2点で、抽象に取り組んでいます。
 ほかに、南里葉子さん、亀川巖さん、平野俊昌さん、小堀清純さん(以上札幌)、小林一雄さん(釧路)、前川英雄さん(岩見沢)、中西暁昭さん(十勝管内清水町)、関建治さん(恵庭)が出品しています。

 札幌市写真ライブラリー(北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)では、札幌彫刻美術館友の会創立20周年記念「北海道の野外彫刻写真展」という、非常にごくろうさまな写真展が開かれています。
 同会の仲野三郎さんが1985年から全道を回って撮影した約1800点から288点を選び、資料として展示しています。
 写真の出来としては「ちょっと待て」と言いたくなるものもありますが、とにかくここまで集めたことについては尊敬するのみです。

 以上、すべて22日まで。

 さて、同じレンガ館3階のコニカフォトギャラリーでは、李・イエシク写真展が開かれています。
 サハリンに住む韓国・朝鮮人の日常を活写したモノクロ写真が並んでいます。
 めずらしく、筆者個人のやや政治的な見方を全面に出しますが、この写真展はぜひ見て欲しい。とくに、サハリンに韓国・朝鮮人がいる訳を知らない人 には。
 こういう写真を見ると、「第2次世界大戦で日本のしたことは悪くない」みたいなことを言う人の無知、というか、日本という国の薄情さを、あらためて感じます。
 近日中に「展覧会の紹介」に詳しく書きます。
 関連HPは、http://www.609studio.com

 7月20日(金)
 道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)で行われている朝鮮王朝の美を見に行きました。
 なんだか、自分は、やっぱり日本美術のほうがすきだなー、小物とかも派手でセンスいまいちって感じだしナー、と思いながら会場を出て、ギャラリーミヤシタ(南5西20)に行ったら、オーナーの宮下さんと若い女性3人がいて、図録を見ながら
「わー、かわいー」
を連発していました。
 うーん。女性の感性は分からん。
 ミヤシタでの佐藤知美展
 一見、抽象の木版画のように見えますが、実はマット紙の表面にカッターナイフで細かい模様を入れて、アクリル絵の具を染み込ませたもの。色のにじみ具合が、独特です。
 小品が12点ばかり。
 佐藤さんは苫小牧在住です。
 22日まで。

 さいきん読んだ本で、おもしろかったのが
全日本顔ハメ紀行」(いぢちひろゆき著、新潮OH!文庫)。
 顔ハメというのは、観光地とかによくある、たて看板の人形の顔のところに穴があいていて、そこに顔をはめ込んで記念写真をとるヤツで、著者が命名したそうです。
 東大で美術などを教えている木下直之教授もこの「顔ハメ」について研究しているそうですが、まさかここまで研究調査をしている人がいるとは… 驚きです。
 そして、こんなに妙な顔ハメがあるというのも驚きなら、外国にあるというのもびっくり。かなり笑える1冊です。

 7月19日(木)
 花火は25日に延期になりました。ざんねん。

 7月18日(水)
 今週は、札幌市資料館(中央区大通西13)が面白い、かも。

 まずはD.HISAKO展
 例によって、猫と月のある小品20点ばかりが並びます。すべて無題です。
 なーんか、ほのぼのとしていて、それでいて、生命の存在の根源的な寂しさが描き出されているようでもあり、心にしみます。
 今回、あらためて思ったのは、マチエールに細心の注意が払われているなあ、ということ。
 作品によっては、キャンバスの目を生かした薄塗りのこともあるし、陶器と釉薬を思わせるつるつるしたものもあります。
 春と夏にかいた絵のせいか、前回見たような針葉樹のある寒々とした絵は減って、2匹で月光の中を走っているような、わりあいポジティブな感じの絵が増えているようです。

 第10回水の会作品展は、札幌の大ベテラン画家・八木伸子さん(春陽会、全道展会員)がNHK文化センターで教えている水彩の教室展。
 小池清さん「冬の防風林」が、水墨を思わせる、たくさんの色が溶け合う作風で、面白いと思いました。

 第2回プチノール展は、女性4人によるグループ展。
 なかでは、久保田道子さんの「風の道」が、明度の高い色を散らすことで疎林の風景を描いていて、佳作だと思いました。ほかの作品はふつうなんですけどね。黒田博子さんは水墨画のようです。

 いずれも22日まで。

 コンチネンタルギャラリー(南1西13、コンチネンタルビル地下1階)では、上田恵子/松林恵子 キルトとガラス展
 不勉強にも知らなかったのですが、上田さんは首都圏在住で、パッチワークキルトの世界では有名な方のようです。
 松林さんは3年前に名古屋から北海道に移住してきたとのことで、クラゲをモチーフにした「Jellyfish」、インドネシア・バリ島の不思議な泉をテーマにしたインスタレーションふう大作「Titra Empul 癒しの泉」など、楽しい作品が並んでいます。
 ガラスって、作るときは暑いでしょうけど、鑑賞するには夏がぴったりですよね!
 22日まで。

 あしたは、札幌・豊平川沿いで花火大会があります。
 会場の近くのマンションが実家なので、見に行く予定です。仕事は休み。

 
 7月17日(火)
 見て回れたのは、札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)のみ。
 A室は、丹野信吾展
 書を思わせる黒々とした太い線がうねる抽象画23点(油彩。一部版画)です。
 作品タイトルにはこれまでも宇宙や気象に関する言葉が使われていましたが、今回も「惑星状星雲」「超新星残骸」「タランチュラ星雲」といった作品が並びます。直接、惑星状星雲を表現しているというよりも、もっと茫漠とした宇宙的なイメージを表しているといった方がいいでしょう。あるいは、以前から作者が言っているように「脳の中のイメージ」というべきでしょうか。
 吉田豪介さんの的確な批評が入り口に貼ってあるので、いまさら筆者が付け加えることはありません。そこに書かれていることをちょっと紹介しますと、ひとつは、余白の美の発見ということです。
 西洋絵画にはありえない「余白」、あるいは「地」が、ここでは積極的に用いられています。丹野さんは丹野さんらしいやり方で、「日本の絵画」に取り組んでいるといえるかもしれません。

 B室は、梅木陽一展
 梅木さんは書家ですが、展覧会には、書の枠にとらわれない洒脱な絵が並んでいます。タブローの端から端までゆるがせにしない洋画とは異なり、「軽み」が特徴の作品です。絵によっては、クレーを思わせます。

 E、F室は、グループ『HAN』木版画展
 8人からなる木版画グループ展ですが、デフォルメに各人各様の個性が感じられて楽しめました。ただ、今年の全道展の出品作と同じものが多いです。
 なかでも、吉川勝久さん「明日の方角」は、力強い抽象的フォルムを真っ赤な地と組み合わせ、静と動を同居させた佳作です。
 白山久美子さん「追憶-JULY」は、緑や黄色といった色彩が浮き出た作品。北井淳子さんは、赤や青の色斑がリズミカルに配置されています。複数の版を使っているのにあえて色を混ぜず、シンプルに徹しています。
 近藤貞子さん「緑陰U」は、ごつごつした模様を大木の周りに配したダイナミックな作品です。
 以上4人はいずれも全道展の会友です。伊勢陽子さん、大澤あい子さん、藤澤英雄さん、宮前明義さんも入選作などを並べています。

 いずれも21日まで。

 DMが届いていないものを紹介するのは慣例に反しますが、ふだんみなさんが行かないであろう会場なのでひとこと。
 水曜からHBC三条ギャラリーで開かれる佐々木敏光個展は、風景画ファンなら楽しめると思います。どこにもないけれど、どこにでもありそうな風景です。
 7月16日(月)
 ハードだった1週間の疲れを取ろうと15日はひねもす寝ておりました。
 つい「せっかくだからたくさん寝よう」として、寝すぎてしまい、かえって頭がぼーっとしてしまった…。

 これだけじゃなんなので、追記。
 市立小樽文学館
で28日から始まる「小樽論」。なんだかスゴイ、コンセプトで小樽の町の現在を切ってやろうという展覧会です。一原さんも良かったけど、こんども期待できそうです。筆者はちらっとしか写真は見てませんが、凡百のグループ展の写真なんかよりずっとイイ! とだけは言っておきましょう。

 ことしの「東川町フォト・フェスタ」のメーン行事は、29日なんですね。
 その日は、参議院選挙の投票日。新聞記者は、投票日の昼間は実はヒマなのですが、夜はお祭り騒ぎです。
 受賞作家や審査員らが勢ぞろいするフォーラムには、午後2時から5時半までなので、ちょっと出られそうにないなあ。
 ただ、この日の12時45分から1時間にわたって佐藤時啓さんが行う「漂白する家[カメラ]プロジェクト」はオモシロそう。佐藤さんは東川のことを、社交辞令じゃなくて心底気に入っているみたいな感じがして、そこが好きです。

 
 7月14日(土)
 空き時間に、今週見落としていたものをざーっと駆け足で見て回りました。

 その中で、とりわけ版画好きにはぜひ! という、おすすめの展覧会が「北海道版画協会展」です(大同ギャラリー=中央区北3西3、大同生命ビル3階)。
 道内の主な版画家のうちかなりの部分が集まっている団体なので、多彩な作風が楽しめます。
 17日まで。

 パークギャラリー(南10西3、パークホテル中2階)では原田玉嶺漆芸展
 専門的なことは分からないのですが、この分野では道内でも屈指の作家だけに、朱塗りの美しい盆や食器が並びます。絵のほうはちょっと高めです。
 16日まで。

 次に行ったのが、クレセール・アートバーグ。
 北大通西9の札幌デザイナー学院の1階にあります。
 ここでは植田伊都子(いつこ)イラスト展が開かれています。
 丸井今井の立体イラストや、空知信金のカレンダーなどの原画が中心です。街並みや風景、なかなかかわいらしい作品です。
 19日まで。
 ちなみに、同じフロアに「オットマンカフェ」なる飲食店が9日オープンし、なかなかにぎわっています。

 市資料館に寄ってから、ついBook of Saturday(南1西15の古書店)で長居をしてしまい、ギャラリー市田(北1西17)へ。大島龍個展は、ユリイカと全然違って、いかにも木版画らしい荒っぽい、オオカミを題材にした作品が並んでいました。

 7月13日(金)
 きのうの続き。
 七月展はこちらを参照。
 
 市民ギャラリーでは「HANPA LIFE」なるグループ展も開催中。多彩なイラストレーションが並びます。

 9月で幕を閉じる北2条ギャラリー(中央区北2西2、STV北2条ビル)では、中村哲泰小品展
 先月の「グループ環(かん)」展では風変わりな作品を出していた中村さんですが、今回は普通の風景画や静物画の油彩が並んでいます。
 ただし、中村さんらしいのは紫の使い方でしょうか。「樽前山」「十勝の山脈」など、現実にはないところにアクセントとして紫が入っているのが、効いています。
 「ヒマラヤケシ」など静物画は、乾いた感じのストロークが独特です。
 14日まで。

 this is gallery(南3東1)では、八木保次 真夜中の抽象展
 抽象画家の八木さんは、近年の全道展ではわりあいモノクロームに近い作品が多かったのですが、この個展では、青・緑・黒からなる作品、紫が目立つ作品など、なかなかカラフルです。しかも縦長の絵は、引き締まって見えていいですね。
 21日まで。14、15日休み。

 スカイホール(南1西3、大丸藤井スカイホール7階)の名木野修油彩展は、風景画の好きな人にはおすすめです。
 名木野さんは「札幌のバルビゾン派」とでも称すべき、階調豊かに緑を駆使した風景画をかく人です。
 個人的には、「家路」が好きです。林の中を羊群が帰っていくという、なんだか「都ぞ弥生」みたいな情景ですが白樺の林が黄色に色づいています。何が美しいといって、斜光の中の白樺の幹が美しい。写真で撮ると、逆光のものは真っ暗に写りがちですが、夕日の中のほの明るさを、この絵はよく表現していると思います。
 「道庁の庭」は、木々の緑を反射する緑の水面と、前景の青い水面とがえがき分けられています。
 「6月の窓」も、白い窓と新緑の取り合わせが清新です。

 札幌の版画家、福岡幸一さんが、2月の個展を記念して作った小冊子「桂と北の樹々たち展」を、わざわざ会社まで持ってきてくれました。ディレクターの吉田茂さんらが文章を寄せています(拙文もあります)。
 福岡さんのページはこちら
 
 7月12日(木)
 三越札幌店(中央区南1西4)で市野元和展
 陶芸です。丹波…だったと思う。
 デパートの陶芸というと茶器に特化したものがけっこうあって、筆者には縁遠かったりするんですけど、今回は釉彩皿などの簡潔な美学に魅せられました。細かい円の文様が描かれているのが、イイです。

 札幌市民ギャラリー(南2東6)で道教大札幌校・美術科の学生有志による、恒例の「七月展」。
 おもしろい作品がありました。詳細は後日。

 この4日間、平均睡眠時間は5時間を切っていますが、意外と元気です。
 参院選も無事スタートしました。
 別に示し合わせたわけでもないのに、道新と読売の1面の見出しが、字体まで含めてほとんど同じというのは、おもしろい現象です。
 7月11日(水)
 なんども繰り返すようでしつこいですが、「一原有徳 新世紀へ」は、小樽の美術館と文学館が同時に開催したところに意味があるのです。
 今回は、市立小樽美術館の所蔵品だけで展覧会を構成しているのもすごいです。
 いろいろ書きたいことはありますが、後日。まだの方は、ぜひ。

 北海道示現会展は、全国の公募展の道内支部展。
 ほとんどが写実的な油彩です。
 草刈喜一郎さん「牛の居なくなった牛舎」は、相変わらず光と影の強さに敏感な草刈さんの個性が現れている、明るい風景画。
 吉村昌一郎さん「老船」は、雪の中の古い漁船がモチーフですが、雪を表現する白や灰色の階調の豊かさに目を瞠りました。
 いつもは雪景色の多い米澤榮吉さん「林間の道」は、珍しい新緑の森林を描いた大作。
 中村正雄さん「浮島湿原」はピラミッド型の構図が安定しています。
 下田敏泰さん「早春の漁川」、村山貢さん「冬の採石場」は丹念な仕事が目に付きました。
 ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)で、16日まで。

 
 7月10日(火)
 「光・風・水の大地−大島龍展」の青が、なかなかのものです。
 大島さんは石狩在住の版画家。パリ展を終えての今回の個展は、まさに、青一色。聞くと、国産こうぞを原料に、1000年以上も前の手法で漉いた特別の和紙を使っているとのこと。岩絵の具も使い、不透明な、しかし深みと奥行きのある青の世界を現出しています。
 写真を撮ったのですが、パソコンとデジタルカメラのマッチングが悪くてここに掲載できません。すいません。
 ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階)で、22日まで。

 絵って、なんだろうなあ、としみじみ考えてしまったのが、第20回みちの会作品展(大同ギャラリー、北3西3大同生命ビル3階)です。いや、筆者が勝手に考えすぎてただけかもしれないけど。
 西洋人って、物とは何か、存在とは何かという、すごく抽象的な思考にはまる習性があると思うんです。ただ、文学や哲学の場合、言葉で考えるのに対して、セザンヌやモネやジャコメッティは、造形で答えを出そうとしていたと思います。
 中田やよひさん(全道展会友)「丘の月」などは、物の存在する部分とその周囲の部分のあわいをどうやって表現したらいいのかを、考え続けている作品ではないか。あるいは、緑の階調のなかからどのように物が立ち現れるかを、目時智子さんは追っているのではないか、濃い色の地の上にモチーフが見え隠れしている和田雄次さんの「裸婦」はどうなのか…
 いや、考えすぎかもしれませんが。
 全道展会員のおしどり画家八木保次さんと伸子さんの絵画教室展。残念ながら10日まで。

 すなおに
懐かしいなあ
と思えたのが、写真展「海峡の記憶 語り継ぐ青函連絡船の世紀」(富士フォトサロン札幌、北3西4、12日まで)。
 函館生まれの元国鉄専属カメラマン、白井朝子さんが、廃止直前の1988年1月に撮影した写真です。
 個人的な話で申し訳ないけど、連絡船には30回は乗ってます。だから、船影も海も桟橋の風景も、みな懐かしい。そういえば、操舵室も1回入ったことがあるぞ(なぜだろう)。
 貨車の入る船腹のレール部分など、見たこともない部分ももちろんたくさんありました。
 ただ、何気なく利用していた船だけど、多くの人たちが縁の下の力持ちとしてもくもくと働いていたんだなあ、という感慨をあらためて抱きました。
 芳名帖の代わりに、乗船名簿が置いてあり、名前を書き込むようになっていました。
 函館のメモリアルシップ摩周丸でも、20日から8月20日まで開かれます。道南の方はぜひどうぞ。

 斉藤嗣火個展は、札幌時計台ギャラリー(北1西3)A室で。
 札幌の画家、全道展会員です。名前は「つぐほ」と読みます。
 以前は、牛とロボットが合体したようなモチーフでしたが、今回は、干物のような魚と、中空のトルソが中心。重々しい描法はあまり変わっていません。
 今年の全道展にも出品した「遥」は、中心に縦線が入ったトルソを真ん中に配し、右上に巨大な人の顔、右下に黒い群像、左上に何かをつかもうとしているような大きな手、その下にガラスの破片のようなものと、うつむく女性を、それぞれ配置しています。なんだか妙な構図ですが、「読ませる」絵です。へんな表現かな。

 同じギャラリーのB室では、松井多恵子個展
 松井さんは札幌在住、全道展会友です。
 セザンヌが、自然を球、円筒に解釈すべきだ、みたいなことを言いましたが、それを真に受けた(という言い方は失礼かもしれませんが)ような、円筒的な人物を主なモチーフにした油彩の大作が並んでいます。
 興味深いのは、ひとりないし二人の裸婦、あるいは白衣の女性のほかに、周囲にはコンピューターや顕微鏡など、いかにも理工系の学部の実験室などにありそうな器機が、背後には遠い街の風景が、見られることです。題名は「無機的実験」「無機的時間」など、ある種の否定的なニュアンスを含んでいますが、画面は意外にも開放感があります。
 この、あらためてキュビスムをやり直しているような画風がどう変化していくか、楽しみです。

 いずれも14日まで。

 きょうは分量が多くなってきたので、残りはあした。

 
 7月9日(月)
 梅雨前線の北上による「えぞつゆ」もひと段落し、さわやかな晴天です。

 仕事の合間をぬって、芸術の森美術館(南区芸術の森2)へ。ようやく、樹氣−砂澤ビッキ展を見ました。
 感動しました。抽象彫刻なのに、すくなくとも筆者には、ぜんぜん難しくなくて、すっと分かる感じがしました。
 美術作品を風土性で片付けてしまうのは筆者のポリシーに反するんだけど、やっぱり、じっと見ていると
「北海道だなあ」
としみじみ思いました。

 時間がなくてフェルマータはお預け。

 週末あれほど一生懸命張った、全道展のリンクが、うまく機能していないようでガッカリ。
 どういう仕組みになっているのか知りませんが、複数のファイルのURLが同じになっているようなのです。
 一版入選者の名前をクリックしても、会員の名簿のところにいってしまいますが、となりの「入選作品」のところをクリックすれば比較的早くお目当ての画像にたどりつけます。あきらめないでトライしてみてください。
 7月7日(土)
 休み。
 道立三岸好太郎美術館であすまで開催の「個人美術館散歩 7人の洋画家」の紹介をようやく書き上げました。
 7月1日まで開かれていた「第56回全道展」の評の、登場作品すべてに、作品写真へのリンクを張りました。NTTの関連会社がつくっているHPに、道内の主要公募展の出品作品全部がアップされているコーナーがあるのですが、ことしの全道展の写真が数日前に登場したのを機に実行しました(すごい手間がかかったけど)。
 筆者自身のHPには、会場写真が1枚あるのみですが、これで作品写真のたっぷり掲載された展評と同じ感じになったのではないかと思います。

 7月5日(木)6日(金)
 昨日は仕事の帰りが遅くなって更新をサボりました。すいません。

 で、CAI(中央区北1西28)で見たのが「現代美術夜間スクール展覧会 open.」です。
 出品者は、狩野立子さん、松本綾子さん、森谷緑さんの3人。
 狩野さんは抽象の油彩。「morning light」など、淡くやわらかな色遣いです。
 森谷さんは、樹脂の円筒を3つ天井から吊り下げた「a wind bell」と、木の枠を壁に取り付けた「窓」です。これは、壁じゃなくて、空間の中に設営してもおもしろかったかも。
 松本さん「金魚」は、大きく引き伸ばしたボディーペインティングの写真を、いったんいくつもの長方形に切り離して再構成したもの。もう少しうまい見せ方がありそうですが、素材はいいと思います。
 7日まで。

 札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)では、A室が香西冨士夫個展
 香西(こうざい)さんといえば、平坦な灰色の地に、デフォルメされた人物像と、絵の具のチューブをカンバスに直接押し付けて描いた極細の線が躍る絵ですが、今回の個展では、人物像が大きく、配置も単純になり、しかもユーモアが誇張されてきているようです。どこか土俗的な香りもします。
 香西さんは主体展と新道展の会員。

 B・C室は新出ヱリ子展
 一貫して、枯れたヒマワリの束をモチーフに描き続けている人です。
 といっても、描き方は全く写実的ではなく、色彩も青を主体にした絵、ピンクが基調のもの、黄色が中心のものとさまざまです。
 ヒマワリといってもこれほどまでにバリエーションが可能なのか、という妙な感慨を抱きます。
 と同時に、ヒマワリといえばファン=ゴッホですが、彼から100年して枯れたヒマワリが、こうして絵画の中で生き延びているというのも、なんだか妙であります。

 3階の「第5回木耀会展」では、松岡とも子さんの「遥かな旅」の、木の枝の処理がおもしろい。

 いずれも7日まで。

 新聞社にとっては選挙というのは一つの大イベント、お祭りであります。
 ようするに忙しくなります。
 あーあ、であります。
 7月4日(水)
BABACTHI「コイズミギンイチロー」 仕事の合間を縫ってギャラリーたぴお(中央区北2西2中通り、道特会館)でBABATCHI展
 ババッチさんは札幌在住の日本人ですが、こういう名前で活動している廃品アーティストです。ピアノ、自転車、その他の機械など、さまざまな廃品を組み合わせ、着色してゆかいなオブジェに仕立てます。だれにでも分かりやすいアートです。
 左は、その名も「コイズミギンイチロー」。時事ネタですね。ババッチさんには珍BABATCHI「宇宙を持つ歯車星人」しい。
 右は「宇宙を持つ歯車星人」。なんだか、かわいいですね。
 来年から使われる美術の教科書(開隆堂)にババッチさんの作品が掲載されるということで見せてもらいました。
 昔に比べると美術の教科書はずいぶん薄いです。表紙は舟越桂さん。川俣正さんやクリスト夫妻の作品の写真なども載っています。

 一原有徳さん(小樽在住の版画家)がかつて出したエッセー集「脈・脈・脈」(現代企画室)を読みました。
 今は版画が有名な一原さんですが、俳句や山の知己もずいぶんたくさんいらっしゃるようです。その交友をまとめています。
 一原さんはとても腰の低い方で、どんな相手からも謙虚に学ぼうとしますが、その姿勢がよく文章に表れているのを感じました。

 
 7月3日(火)
 ギャラリー大通美術館(中央区大通西5)で百島忠雄油彩展
 F3からF100の「主峰晩秋」まで44点が並んでいます。
 百島さんの絵はグループ展などで何度か見ていると思うのですが、正直言って、こんなにうまい方だとは知りませんでした。
 一水会ふうの写実的な風景画なのですが、タッチに落ち着きがあり、色も、たぶん白の混ぜ方がいいんじゃないかと勝手に推察しますが、ほどよい階調を保っていて、しかも全体的に明るい。構図もみな安定しています。F50号の「道庁雪景」などは、手前に落葉樹、その次に針葉樹、中景に雪の積もった池があり、遠景に道庁赤れんがが望まれるという、複雑な構図ですが、それを無理なくまとめています。
 ただ、百島さんの個性みたいなものが出るともっといいのにと思いました。

 同会場で、第7回光画会展。油彩と水彩のグループ展です。
 砂場忠子さんのヒマワリシリーズは色数を整理して続けたら面白くなるかもしれません。

 いずれも8日まで。

 7月2日(月)
 それにしても菊地又男さんの死亡記事は欠陥原稿ですね。
 彼がどんな絵をかいたのか、読者にまったく分からない。どうしてあんな原稿が通るのか、不思議でたまりません。
 芸術の森美術館での個展にもふれていないし。
 「自由美術展」って、聞いたことあります? 筆者は、道新でしか見たことのない表現です。

秋山知子ドローイング展 さて、大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)では、秋山知子ドローイング展が開かれています。
 秋山さんといえば、これまで量感豊かな裸婦彫刻に取り組んできたのが、この春の「さっぽろ美術展」でろうそくを使った抽象に転じた人です。
 本人に話を聞いてみると、これまでのような彫刻は、あまり意識しないでもできるようになったので、作りたくなくなってきた、とのことでした。旧来の方法で人体を作るとどうしてもボリュームがどうの、というとらえ方になってしまうのがいやになってきたようです。
 今回の個展は、転換を図って彫刻を作る暇がなくて、ドローイングにしたようです。
 支持体の板などには、着色が施されているくらいで、主にニードルで線が引かれたり人物がかかれているのは、その上のアクリルや塩化ビニールの板です。透明のアクリルや塩ビは2、3枚重ねられている場合もあり、しかも裏表に線がかけますから、不思議な奥行き感が作品に生まれます。
 写真は、手前が「雨」。やや俯瞰ぎみに人物をとらえた作品。足元には水溜まりができています。こうした角度で人物をとらえること自体、一般的な彫刻の発想からは生まれてこないかもしれません。
 中央は、比較的よくある裸婦デッサンに近い「立つ」。奥は、筆者がわりと好きな「夏の窓」。着衣の男性、というだけで、従来の彫刻家にないある種のさわやかさを覚えます。
 秋山さんは札幌在住、道展会員。

 同じギャラリーでは大橋郁夫個展も開かれています。
 漁港などの風景画が中心。大橋さんは道美展を退会したと話していました。
 いずれも3日まで。

 それにしても疲れた。当日じゃなくてあとから疲れが出てくるのはトシをとった証拠かも。
 
 そういえばいつの間にか5000ヒット超えてましたね。
 7月1日(日)
 菊地又男さんが亡くなりました。84歳でした。
 菊地さんは新道展(新北海道美術協会)の創立会員で、まさに新道展の精神的支柱だったといえます。98年には札幌・芸術の森美術館で大規模な個展も開かれています。
 悪い脚をかばいながらも熱心に札幌のギャラリーを回り、女性画家をひやかしていた姿が思い出されます。話術が巧みで、面白い方でした。
 5月に、札幌のコンチネンタルギャラリーで開かれたグループ展「私の1点」に新作を発表したばかりでした。がんということは、筆者は全く知りませんでした。
 謹んでご冥福をお祈りします。

 私用で帯広に行ってきました。
 駅前の「ホテルノースランド」に泊まりました。客室には藤倉英幸さんの版画が飾ってありました。
 JR系のホテルらしく、オレンジ色のディーゼルカーが走る風景でした。2歳3カ月の長男がそれを見て
「JR北海道! JR北海道!」
と叫びます。
 北海道ホテルにも寄りました。
 ここはロビーなどに能勢眞美の絵が大量に架けてあります。
 能勢眞美「白樺の小径能勢眞美は全道展の創立会員で、緑の階調豊かな風景画で知られています。
 右の写真は「白樺の小径」という作品。ここでは、地面や幹さえも、緑色で覆われているようです。
 ほかに、1936年の「池畔(浅草)」、57年の「静かな日」などが飾られていました。
 また、園田郁夫さん(二科会員。新道展会員。帯広在住)の油彩もありました。

 道立帯広美術館で十勝の新時代W―多賀新展を見ました。
 本別町出身、東京在住の銅版画家。その作品は、エロスに満ちていますが、しかしそれは性的であることを超えて、人間の不思議さに達しています。
 銅版画もすごいですが、数点展示されている立体作品にも筆者は興味を抱きました。
 なお、荒木経惟写真展―十勝平野喜怒愛楽も開かれていますが、こちらは、はっきり言って
「バカヤロー、1000円返せ」
という感じでした。知り合いが写っているという人以外は見る必要なし。アラーキーだというのに、裸もありません(多賀新のほうがずっとエッチ)。

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