手のひらの汗
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−手掌多汗症の病型と治療−

今回は,今年(2003年)4月に発行された「発汗学」第10巻第1号の中から,手掌多汗症の病型と,塩化アルミニウム塗布治療について紹介します.
著者は心療内科医の稲光先生.私はこの先生とは,たまに博多で酒を飲んだ仲であり,私の心身症を,仕事を通じて軽快させてくれた先生でもあるのです.

手掌多汗症の病型分類

 稲光は,手掌多汗症75例に対し,耳から聞いた4桁の数字を反対から言わせるというような精神性負荷(R4F)をかけたり,目を閉じてリラックスした時(CE)の発汗の様子を観察すると,3つのパターンに分かれるという.精神性負荷に対して発汗量が増えるT型,無関係なU型,負荷に対して発汗の増減を繰り返すV型となるそうだが,割合的にT型,U型が多く,Vについて考察されていないので,ここではT型,U型をまとめておこう.
 病型と発汗様式
T型(負荷反応型) U型(負荷無反応型)
精神性負荷に反応して発汗量が増加し,リラックスすることで減少する 精神性負荷やリラックスに対して反応がみられず,乏汗時と多汗時がall or noneの形で出現する
T型 U型
 プロフィール
T型 発汗様式 U型
29(15/14) 症例数(男/女) 40(16/24)
25.5±8.2 受診時の年齢 22.7±5.8
13.1±7.5 発症した年齢 6.9±3.8
6(20.7%) 家族に手掌多汗 15(37.5%)
0(0%) 同 他の部位の多汗 7(17.5%)
14(48.3%) 精神障害の合併 2(5.0%)
社会恐怖,不登校,パニック障害,統合失調症,自己臭症,強迫性障害 社会恐怖,パニック障害
 この結果を稲光は「U型は遺伝,体質が関与しており,T型は心理的要因が強く影響していることが考えられた.またT型のなかには幼少時から発汗の多い例があり,元来U型のものに精神性の要因が働いている群が含まれていることが推察された」としている.
 何かの拍子に汗が突然出だして,なにをしても止まらなくなる.そのような訴えをネットで時々見かけるのですが,それは,このU型に当てはまるのでしょうね.
 (引用・参考:稲光哲明「心理面からみた手掌多汗症の診断と治療」)

塩化アルミニウム塗布治療の有効性

 上で示した多汗症患者に,稲光は塩化アルミニウムの塗布治療を行っている.先ほどの病型別に見た有効性を見てみましょう.ちなみに上のTypeUの発汗波形の症例ですが,1分間当たり皮膚1cm2当たりの発汗量が3mgもあります.これはとても多い量(某所でいう「レベル3」に匹敵すると思います)ですよ.
塩化アルミニウム塗布治療の有効性
手掌多汗症に対する塩化アルミニウム塗布治療の有効性(引用:稲光

 T型よりU型で有効性が高い.これは意識しなくても出てくる突然の手掌発汗に塩化アルミニウムがよく効くということですね.体質,遺伝でお悩みの方には朗報かも..
 治療を始める前に,稲光はこの病型分類や心理面の評価を行う.そしてT型の場合は,塩化アルミニウム塗布に心理療法を加えるのだ.塩化アルミニウムは心理療法の効果を高めるのに役立つという.これは「上位中枢レベルで汗を止める」で紹介した音楽療法の彼女と同じ.いままで大きな悩みの種であった汗が,減らせるということを体感することで,自信が持て,認知の変化が起きるのでしょう.

塩化アルミニウム塗布治療薬の使用法

 稲光の用いる「塩化アルミニウム」は,純エタノール液に20%濃度で塩化アルミニウム6水和物を溶解したもの.しんじょうのサイトでもしばしば話題に上がるのだが,アルミニウムがアルツハイマー病との因果関係で問題となり,使用には細心の注意を払うと聞く.使用開始1ヶ月後と半年に1回,アルミニウムの血中濃度を測定されているそうだ.約60例で2例高値を示した例を検討.1例は長期使用しておらず,因果関係が薄いと判断し,もう1例は再検査の結果,正常だったとのこと.また一方,手掌多汗に加え足の臭いを気にし,大量に使用していた例での検査でも,血中濃度は正常値を示したとのことです.
 個人で塩化アルミニウム液を購入され,繁用される場合は,添付文書や購入元のサイトの注意書きをよく読んだり,この後示す使用法をよく守って,たまに医療機関で血液検査を受けてみるのも悪くはないかもしれませんね..って,そんな検査,やってもらえるのかしらん..^^;
 アルツハイマー病の件は,腎障害で透析中の患者さんであったとのことですし,アルミニウムは身体に悪いかも..なんてナーバスになるより,汗が減る喜びをかみ締めた方が,この場合,得策というものではないでしょうか.
  • 寝る前に適当量を手のひらにとり,全体に広<のぱして下さい.指先にも十分広げて下さい.睡眠中汗は止まっていますので,溶液が薄められることなく効いています.
  • 翌朝,起床時に石鹸で手を洗い,溶液を洗い落として下さい.
  • 最初は1週間上の方法を続けて下さい.その後は汗の出具合に応じて液の量や使い方を変えて下さい.通常,3,4日の連続使用で1,2日効いています.使用を止めるとまたすぐに汗が出てきます.
  • 効果は次第に出てきますので,はじめは根気よくつけて下さい.
  • 使用時に肌が荒れたりしたときには,使用しないで下さい.わきの下や手の甲など皮膚のやわらかいところでは,ときに肌荒れをおこすことがあります.
  • 使用する部分の皮膚に傷のあるときには使用しないで下さい.アルコールによって傷がさらにひどくなることがあります.
  • エチルアルコールに溶かしてありますので火気厳禁です.使用時以外はふたをしっかりしめておいて下さい.
  • 絶対に飲まないで下さい.また,子供の手の届くところには置かないで下さい.
                   (引用・参考:稲光哲明「心理面からみた手掌多汗症の診断と治療」) 
さて,心療内科の先生が診た,手掌多汗症の汗の出方による分類と,その塩化アルミニウムによる治療効果,いかがでしたか? 「全然気にしていなくても汗が突然出てくるんだよ,そして出てきたらなかなか止まらないんだ」.この訴えが見事に分類されていますよね.そしてそれにさえも,かなりの効果を持って対処できるとは,嬉しいことではありませんか.


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