北欧神話−Nordiske Myter

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「ヒュミルの歌」3

ヒュミルさんの災難。 


 このとき、どういうわけかトールとヒュミルさん(チュール父)の間には、ちょっとしたライヴァル心が芽生えておりました。
 トール=人間の守護者=巨人殺し。
 ヒュミルさん=人間の敵(たぶん)=巨人。
 真っ向からケンカはしなくても、なんか力を競ってみたい気分になるのも分かる気がいたしますよね。で、船を漕いで沖へ沖へと。

 ヒュミル「もうこのへんにしようではないか。あまり沖へ行ってもな」
 トール「(フッ、と笑う)怖いのかい。」
 ヒュミル「……。(ムカっ)」

 あーあーあー。大の大人が大人気ない…。巨人は大きいのでさらに大人気ない…。(ギャグかよ)
 釣堀で隣どうしに座った釣り人たちの如く、彼等の間には「釣りキチ腕自慢大会」さながらに、どっちが大物を吊り上げるか勝負の取り決めが、無言のうちに交わされていたとか、いないとか。
 ヒュミルさんは腕自慢で鯨を二匹、どどーんと吊り上げます。

 ヒュミル「(ニヤリ)…勝ったな」
古エッダ写本より。(それ…本当に蛇…?)
 しかしトールは、さらに餌に凝って、イッパツ逆転の大物を狙っていました。
 そう、何をかくそうソレは、大物中の大物、神々の憎しみを買う大地の帯---ヨルムンガンド(ロキの息子のひとり。別名ミズガルズオルム)。ミッドガルドを取り囲む蛇ですよ。デカすぎだって。

 とかなんとか言いつつも不可能を可能にしたがるのがこの男、若気の至りとでも言いましょうか、いやはや。
 牛の頭の餌でもって、大蛇をおびき寄せて---ガバチョと。

 ヒュミル「うわ゛ー!」
 トール「いっくぞォォォ! 我が渾身の一撃をォ受けてみろォォォォ!!!」

 どっかーん!
 船べりに吊り上げた蛇の脳天に破壊の鎚ミョルニルで激しく一発。それ普通、船沈むって。無茶しおりますな…雷神トールどの。
 結局、蛇にはトドメをさせず逃げられてしまいましたが、吊り上げたって喰えないでしょうよソレ。つか、この蛇、ロキの息子さんです。(いやがらせ?)
 戻って来たときヒュミルさんは当然ながら相当きげんが悪く、「こんなムチャクチャしおる客なんかいらんわい」などと思っていました。鯨をヒュミルさんが、船をトールが運び、お屋敷に戻ります。

 釣り勝負では獲物を獲ったヒュミルさんの勝ちっぽいですが、さすがのヒュミルさんも、いきなり蛇つりあげるトールに、不覚にも本気でビビってしまったので何だか気分が収まりません。お食事のあと、なおもトールに挑戦します。

 ヒュミル「船が強く漕げるくらいたいしたことはない。この、ガラスの高脚杯くらい壊せんようではな。」

 そのガラスの杯は、ヒュミルさんのMyコレクションの中でもかなりの価値のあるもので、ものすごく硬いものでした。「絶対壊れるはずないし」と、思っていたんでしょう。
 ためしにトールが力任せに柱にぶっつけてみても、石の柱のほうが粉々に砕け散ってしまう丈夫っプリ。
 おいおい。それ本当にガラスか? 特殊ガラスとかじゃないのか。もしくはエーテルコーティングとか。(違)

 困っているとそこへ、チュールの美しいお母さん(※原文でも「美しい」と書かれています。)がやって来て、こっそり助言を与えてくれました。

 チュール母「ヒュミルの頭にぶっつけなさい。あの人、超石頭だから。」

 そこでトールは言われたとおり、油断しているヒュミルさんの頭を杯で強打!
 ヒュミルさんの頭は無事。しかし杯は木っ端微塵。わぁすごい、石の柱より硬いよ。さっすがヒュミルさん。がんこおやぢの名に相応しい石頭です。

 トール「おお、本当に割れたぞ。すごいな」
 チュール母(予想として、ニコヤカに微笑みながら見ている)
 ヒュミル「…わ、わしの宝が…。」

 頭が痛かったのと、心も痛かったのとでヒュミルさんちょっと涙目。こんな奴等に関わるんじゃなかった、とか思っていたかもしれません。

 ヒュミル「二度とはいわん。とっとと鍋持って出てけ! ただし、持っていけたらの話だがな。」

 そこでチュールが鍋を持とうとしてみますが、重くてどうしようもありません。チュールは、パワーキャラじゃないのです。(美しいお母さん似だし。)かわりにトールが鍋をヨイショとかつぎあげ…

 トール「じゃ、そういうことで。」
 チュール「…。」

 なんか、実家荒らすだけ荒らしてトンズラって感じ。しかも当面入り用なもの(石鹸とか洗剤とか)かっぱらっていくあたり自分に似ていて非常に心苦しいのですが、ヒュミルさん的には、このまんますんなり帰す気はなかったようです。

 しばらく行ってから振り返ると、ヒュミルさん家のほうから、頭がいっぱいある人々が手に手に武器を翳して物凄い勢いでおっかけて来るのに気がつきました!

 トール「お、おい、あれって…。」
 チュール「あぁ、うちの一族かな。(さらり)」
 トール「…マジ?」

 どうやら、母似のチュール以外は、みんなこんなカンジ(祖母似)の人たちだったようです…。

 トール「チィ?! おいチュール、鍋見張っとけ! 奴等はわしがヤる!
 チュール「頑張れよー。(わりと他人ごと)」

 トール大奮戦。頭いっぱいある人々をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。ま、頭いっぱいあるんで、一つ二つ砕かれてもどーってことは無し。チュール見てるだけ。
 しばらくして、トールは全員かたづけて戻ってきました。

 トール「ふゥゥ…。いい汗かいた。」
 チュール「ま、これで、あの頑固親父も手出ししてこなくなるだろうけど。」
 トール「そうだな…んん?!」

 歩き出して気がつくと、トールの連れていた山羊が怪我をしていました。どうもロキがちょちょいっとやって来て、戦いのドサクサに紛れて何かしていった模様。
 さりげに息子の仕返ししてるし…ロキ…。

 と、いうわけで、二人は、ヒュミルさんちで大暴れし、鍋を奪い、追いかけて来た人々を殴りたおして、無事にアスガルドへ帰還したんだそうです。
 めでたし、めでたし。

−おしまいの言葉へ



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