おもしろエンターテイメンツの宝庫、北欧神話の中でも一、二をあらそうヘンさ加減なのが、この物語。絶対ヘンだって。いや何がヘンかって、あの雷神トールとミスタージャスティスなチュール氏がですよ、二人してなべ奪いに行くんです、この話。
なんで鍋。
つーか、鍋なんか人様んちからもらうなよ神様なのに…。
もちろん心の中でツッコミ入れつつもマジメな学者さんはマジメに翻訳してまともな研究をなさいます。私はマトモじゃないから堂々とツッコミ入れていいんです。
こういうとき趣味でやってる人間つーのは、いいですね。
と、いうわけで聞いてやってください、「ヒュミルの歌」。状況を想像しながら読むと、なおGOODです。さあ笑え。そして崇めよ、遠きいにしえの偉大なる神々の物語をッ!
※この物語には、ツッコミ、脚色、勝手な解釈がバッチリ入ってます。そこんとこはご了承ください。
<<語りSTART>>
---物語は、戦い大好きな荒くれ神様ズが、腕試し兼ねた狩りから戻って来たときに始まります。彼ら、狩りで得た獲物を料理して腹ごしらえする前に、何か飲み物が欲しいと思い始めました。神様も、やっぱ運動したら喉渇くんです。
そこでトールは、
宴会部長エーギルに「飲み物つくれ」と、言いつけました。
このエーギル、実はアース神の一族ではなく巨人族です。アース神族というのはオーディンの血を引く神々のことで、アース神に属する者はみな、何がしかの形でオーディンの血を引いているわけなのですが、エーギルはオーディン子孫じゃありません。よそもんです。
だからなのか、扱いがとても悪い。
けんか腰の(いかつい)トールに脅されて、楽しそうにしていたエーギルさんはちょっとビビってしまいました。エーギルさん家には鍋がたくさんあるのですが、それを使ってこの神々に酒を造ってやるのはちょっとイヤでした。
だいたい、何だってオーディンの息子なんかにコキ使われなきゃならんのか。
そこでエーギルさんは、ちょっとイジワルなことを言いました。
「いいよ、ただし、あんたたち全員のぶんを作れるくらい大きな鍋が手に入ったらね。」
自分ちのおなべはみんな小さいので、十分な酒は造れない、というのでした。(もちろん言い訳)
トールたちは困ってしまいました。デカい鍋?? エーギルさんち以外に、鍋なんて持ってる神いたっけ。
…オイオイ、鍋も無しに君らどうやって料理してんだ。
っていうか、無ければ作ればいいじゃない、とかいうツッコミは彼等の前には無意味です。無ければ奪え、貴様のものはオレのもの。略奪大好き、ヴァイキング。
そこへチュールがやってきて、
偉大な神々に助言を与えました。
チュール「エーリヴァーガルの東の天の縁に、賢者ヒュミルが住んでいて、とてつもなくデカい鍋を持ってるんだ。まあぶっちゃけた話、そのヒュミルってのがウチの気難しい親父なんだけど。」
なんだチュールさんの実家ですか。
じゃ話は簡単じゃん。
と、思いきやチュールは
実家を飛び出しているカンジなので、今さらのこのこ帰って「鍋ちょーだい」とは言えないのでした。
トール「その鍋、手に入るだろうか…。」
チュール「ああ、なんとか。策を弄せばね。」
何がなんでもエーギルに鍋おしつけてギャフンと言わせてみたい血気盛んなトール大将。ひさびさの里帰りにインパクトを与えてみたいチュール氏。
かくして、トール&チュールの「なべ強奪大作戦」が始まったのでした。