<誘いの時 2>



サンジが部屋へ戻った時、すでに船室の中は薄暗く目が慣れるまでに一時を要した。
それでも、ハンモックの上に人影を見つけ、ニヤリと笑う。
ルフィがいないのは当然として、 ウソップの姿が見えないことに一瞬戸惑ったが、今ならゾロを連れ出すのに最適とばかりに 人影へとちかづく。
「おい、おい。起きろよ。」
この男が一度寝入ったらなかなか起きないことは承知の上でユサユサと揺さぶる。
「おい、てめぇ。起きろっていってんだろ。」
強引に毛布を引き剥がし、そのまま担ぎ上げようとしたサンジの手がグイと引っ張られ、その まま床へと引き倒される。
うまく受け身が取れず、したたか背中を打ちつけうめくサンジの 上に誰かが圧し掛かる。
「てめぇ、起きてんなら返事くらいしろよな。」
毒づくサンジに冷ややかな声が返ってくる。
「返事なんかしたら、ばれちまうだろうが。」
その声に、弾かれたように伸し掛かってくる人物を見る。
「ル・・・ルフィ。」
ギクリと強張る顔を必死で立て直し、サンジは伸し掛かったままのルフィを睨みつける。
「ゾロは、どうしたんだよ。」
ルフィはニヤリと笑い、返事を返す。
「格納庫でいい夢を見てるさ。散々鳴かせたから、明日まで起きれねえと思うがな。」
「ウ・・・ウソップは・・・・・・。」
「ウソップは俺の替わり、ちなみにナミは今夜ここで何が起ころうと決して起きてこないぜ。」
その言葉で、ルフィが何もかも承知の上で行動を起こしているのを知った。
少しだけ上擦る声で サンジが言葉を放つ。
「それで、俺をどうする気だよ。クソ野郎。」
「決まってんだろ。二度とゾロに手が出せないようにするんだよ。」
「はっ・・・。どうやって?」
「こうやってさ。」
言うなり、サンジの服に手をかける。
きちんと留めていた上着のボタンを引きちぎられ、シュルリ とネクタイをはずされシャツに手をかけられた時、思わずサンジは叫んでいた。
「やっ・・・やめろー。」
ジタバタと暴れようともがこうと、下半身はがっちりとルフィの足に絡めとられ、動かすことも 出来ない。
単純に腕力だけならば、ルフィに敵うわけもない。
サンジは服を剥ぎとられルフィが 笑いながら自分の胸に唇を落とすのを見ていた。
カリッと胸の突起を噛まれ、サンジは声にならない悲鳴をあげる。
「てっめぇー、正気か?」
上半身につけられる朱色の刻印にサンジは顔を蒼ざめさせる。
「言ったろう、サンジ。ゾロには手ぇ出すなって。」
「・・・だからって、俺がそれに従う義務はねぇ。」
あくまでも、強気なサンジの台詞にルフィはしょうがないという風にため息をつく。
「あぁ、義務はねぇよ。だから、サンジ。お前が従うようにしてやるよ。」
「抱かれたくらいで、俺は従いなんかしねぇぞ。」
言外に、抱かれたことがあることを匂わせてサンジがニヤリと笑う。
所詮、子供の浅知恵だと。 抱かれたくらいで心まで渡しゃしねぇ。俺の心はゾロと、もう一人。
「バラティエのおっさんだろ。」
どこか悲しげな声でルフィが問いかける。
ギクリとするサンジに、なにもかもわかってると言う ようにルフィが顔をあげる。
だが、前髪に隠れてルフィの表情は見えない。
「だから、逃がしてやってたのに。
お前がゾロに執着なんかしなければ、無事におっさんのとこ ろへ返してやれたのに・・・・・・。」
ルフィの台詞に言い返そうとした言葉が止まる。
ゆっくりと顔をあげたルフィの、サンジを見つ める瞳と目があった瞬間、思わずゴクリと息を飲んだ。
それは夜の顔。誘惑の、魅惑の笑みを浮かべた悪魔のような、それでいて天使のような微笑み。
その顔を見た瞬間、サンジはゾロがルフィに捕まっている理由を知った。
そしてまた、自分も魅 入られてしまったことを絶望とともに理解した。
「あっ・・・ああっ。」
心が悲鳴をあげる。抱かれるのは愛情の果ての行為なのだとサンジは思ってきた。
だからこそ、 今ルフィに抱かれたところで心まではやらないという意志があった。
なのに、この瞳を見た瞬間からサンジの心はルフィに引き寄せられた。
それは、ゾロに感じてい た感情に近く、刹那の生き方をする男に対する憧れであったかもしれない。
陰と陽、光と影、すべてが調和しルフィという男を形造る。
その瞳に宿る意志は、絶対者の、あ るいは王者の持ちうる光。
(クソジジイ、わりぃ)
囚われたことに気付いた時、サンジは心の中でゼフへと詫びる。
(あんた以外に、心を奪われてしまった。)
ルフィの瞳を見つめたまま、サンジの目から涙が一筋流れ落ちる。
それでも、服をゆっくりと脱がしてゆくルフィの腕を押し退けることも出来ないまま、流されて いく。
涙だけが後から後から流れ出し、後悔とはこういう時に使うのか?と、心の片隅で考える。
だが、そんなサンジの涙を片手で拭うとルフィは優しく囁いた。
「大丈夫だ、サンジ。そんな風に泣かなくてもいい。」
サンジのモノを扱きあげ、快感を引出しながらルフィは瞳の力を変える。
「お前は、俺のものになる。だけど、お前は帰ればいいんだ。」
その言葉にサンジは自分が許されたことを知った。
ルフィのものになりながらも、心はゼフのも とに帰ればいいのだと、夢が叶った時、帰る自由を与えられたのだ。
サンジの顔に笑みが浮かび、 そのまま快感に身をゆだねる。
「んぁっ・・・ル・・フィ。」
「久しぶりで、ちっときついかもしれないけど勘弁な。」
その声が、いつものルフィのままで、サンジは何故かホッとする。
あのままのルフィに抱かれて いたら、たとえルフィの許しがあっても帰りたくなくなっていたのがわかるから・・・。
腰を抱え上げられ、ゆるゆると指がサンジの中を侵食する。
「あぁ・・・ん・・ふっ・・・うぅ・・・。」
ゆっくりとだが、確実に後ろを慣らされていき指の滑りが良くなってくる頃。
「入れるぞ、サンジ。」
低い声が耳元で囁かれ、サンジの奥にルフィの熱いモノが挿入される。
「あぁっ・・・・・・。」
その熱さにビクンと跳ねる体をルフィに押さえられ、サンジは自分がルフィのものになったのを 感じた。
だが、それは決して不快なものでないことに気付き、微苦笑する。
そのまま、抽挿を繰 り返され熱を高められ二人同時に果てた時、サンジにはルフィに逆らえない鎖が付けられた。

力無く横たわるサンジの体をタオルで拭いてやると、ルフィはくるりと背を向けた。
ゾロを奪わ れないそれだけの為に、サンジを陵辱した自分に多少の自己嫌悪を覚えていた。
だが、その背中を見てサンジが優しい声音で声をかける。
「悪かったな、ルフィ。俺は、なんにもわかっちゃいなかった。」
「サンジ。」
「お前と、ゾロの関係があんまりにも子供っぽく見えたから。
体を繋げてまでお前を捕まえてい たいゾロの気持ちがわかんなかったんだ。」
十九歳にもなる男が、子供の恋愛もどきに真剣になって、体で相手を繋ぎとめようとする姿にい っそ、哀れになってしまった。
だから、ゾロにわからせてやりたかった。
そんな事は惨めに見え るのだと。もっと、大人の恋をしろと。
だけど、ルフィは子供じゃなかった。
ゾロを自分を、そしてきっとナミさんもすべてを魅了し、 たとえどんな手段を使っても自分だけのものにしたい。
そう、切に願うほど希有な存在だった。
自分が気付かなかった、いや、気付かないようにしてくれていただけ・・・。
「サンジ。俺は・・・。」
謝罪の言葉なんか言わせたくなかった。
ゾロの為であったとしても、ルフィとの行為を喜んでい た自分がいるのがわかっていたから。
だから、サンジはだるい体を起こしルフィの背に抱きついた。
「俺の自業自得だ。もう、気にすんな。」
耳元で囁かれるサンジの言葉にルフィは首を落とし、何かを決意したように顔を上げるとサンジの 腕を捕まえる。
一瞬、何事か?といぶかしむサンジの耳にルフィの声が聞こえた。
「サンジ、何が欲しい?」
「あ・・・・・・?」
意味がわからず、サンジは返答に困る。
「俺から、何が欲しい?」
「ルフィ?」
くるりと向きを返ると、サンジの目を見てルフィははっきりと言い切る。
「俺は、お前の大切なものをきっと奪ってしまったから。
俺がやれるものは少ないけど、俺の持 っているもので欲しいものがあるなら、お前にやる。」
その言葉にサンジはギュッとルフィを抱きしめる。
お前が欲しいと口から出そうになり、それだけは叶えられ ないのだと心で理解していた。ルフィのほとんどはゾロが占めているのだから。
だから、何もいらないと答えかけて一つだけ、思いついた。
「言葉。」
「?言葉・・・。」
「そう、お前の言葉が欲しい。」
ルフィはちょっとだけ困った顔をする。
「それは、これから先誰とも喋るなって事なのか?」
うーんと頭を悩ますルフィを見て、サンジは笑いながら違う、違うと首を振った。
「これから先、どんなにうまい料理を食べてもお前の『おいしい』って言葉は俺だけのものだ。」
「それだけで、いいのか?」
「あぁ、それでいい。」
ルフィは、サンジの言葉ににっこりと笑う。
「わかった。お前以外に『おいしい』って言葉はやらねぇ。」
「約束か?」
「あぁ、約束する。」
サンジはルフィの約束の言葉に至上の喜びを感じる。
料理人にとってこれほど嬉しく、大切な言葉 があるだろうか。
ゼフと同じくらい魅かれた男の、最大の誉め言葉が今この瞬間から自分だけのも のになったのだ。
その心のままルフィを抱きしめ、ちょっとだけ躊躇しながら聞いてみる。
「なぁ・・・俺とはこれでしまいか?」
「???」
「俺とは、これ一回きりかって聞いてんだよ。」
意味がわかって、ルフィは真剣に悩み出す。
「う・・・。だって俺、ゾロのこと愛してるから・・・・・・。」
「かまわねぇよ。お前が誰を愛してようと、俺が欲しいだけだから。」
「うう・・・。でも、ゾロにばれたら俺殺される気がするんだけど・・・・・・。」
「なぁに言ってんだ。一回も二回もかわんねぇって・・・。」
暗に今日抱いたことをどう説明するんだと言われてる気がした。
「ううう・・・。そーなんだけどなー。」
そして、ほんの少し意地の悪い目で見ながら、サンジは止めとばかりにルフィに迫る。
「俺、船に乗ってからはずっと我慢してたのに。
お前に抱かれちまったから、体が我慢できなくな っちまったんだけどな。」
その言葉を聞き、ルフィはサンジの肩にパタと顔を伏せ、唸るように言った。
「うぅっ・・・、わかったよ。でも、ゾロにばれた時はお前も一緒なんだかんな。」
ルフィの台詞にサンジはクックッと喉の奥で笑う。
こんなところがなんとも可愛い。
夜の顔を知っ てしまうとあまりのギャップに笑い出してしまいそうだ。
もともとは、サンジの方が悪かったのに サンジの無茶ともいうべき要求にそれでも答えようとしてくれる。
あぁ、いいよ。お前の心はゾロのもの。だけど、体くらいはたまに借りたってバチはあたらないだ ろう?
ニヤリと笑うと、唇を寄せキスをねだる。目をパチクリとするルフィの腕を引く。
「朝まではまだ、時間があるぜ。」
言ってルフィを抱きしめる。
ルフィはなーんでこんなになったんだ?と思いながらもサンジに引か れるままチュッとキスを送る。
ばれた時のゾロの怒りを恐いと思いつつ、自分が捕まえてしまったサンジの腕をいまさらふりほどく ことも出来なくて、ルフィは内心で大きな大きなため息をついた。

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戯言:終わりましたね。いつのまにかルフィったらサンジのペースにはまっているし、
ゾロはどうすんだ?とお考えになった方がいらっしゃいましたら、とりあえずこの後のゾロとルフィを
書いたものもありますので、そちらへどうぞ。