<誘いの時 >



「ねぇ、ルフィ。話があるんだけど ・・・・・・。」
俺は、いつものように船首に登り遠くの海を見つめていた。
その背にゆっくりとナミが近づいてきて いたのは知っていた。
だが、いつもと違うナミの声音にほんのちょっと首をすくめて振り向いた。
「何だ。なんかあったのか?」
こんなふうにナミが話しかけてくるのは珍しい。ナミは、いつだって明るく俺をどつき倒す。
だから、何も気付かない振りを装いながらナミの話に意識を集中する。
案の定、少しだけこわばった顔で言うか、言うまいか思案し、それでも俺の笑顔の中に隠された目の光に 心を奪われ決意したように話を紡ぐ。
「あのね。サンジくんのことなんだけど・・・・・・。」
「・・・サンジが、どうかしたか?」
俺の瞳に陰りが落ちる。あいつがからむとなると、おのずと理由も見えてくる。
俺の唯一の人。ゾロに関係することだ。
ゾロに関連することで俺の怒りが爆発した場合の被害は尋常 ではない。
ナミが言い渋るわけだ。
だが、俺は仲間としてのサンジは、気にいっていてもゾロを間に挟んでライバルとなりうるのなら容 赦する気はさらさら無い。
俺の目に映る密やかな怒りを感じたのか、ナミが小さくため息をつく。
「こんな事、言いたくないんだけど、でもどうせばれちゃうんでしょうしね。」
ナミが、いいわけをするように、目を伏せる。
自分のしたことでサンジに何が起こるか、考えるのも 恐いのかもしれない。
そんなナミの肩を引きよせ目をあわせると俺は夜の顔で微笑んだ。
それは、束縛。あるいは、魅了。昼の俺からは想像がつかないほどの凄絶な微笑み。
そしてナミは、 その微笑みに逃げ出すことも出来ずに震えるように口を開いた。
「あ・・・あの・・・偶然だったんだけど・・・・・・。」
言いながら今日見たことを俺にすべて話し出した。

「あーぁ、ほんとにもぅ。」
別に何か予感がしたわけでもないのに、ナミは暗い気分でキッチンへ歩いていた。
この船に乗ってい るのはいわずとしれた麦藁の帽子をかぶったキャプテン・ルフィとその唯一である剣士のゾロ。狙撃 手のウソップにコックのサンジ。
そして、ルフィとゾロの仲に関しては周知の事実であり、三猿、つまり、 見ざる言わざる聞かざるの不可侵の出来事となっていたのだ。それなのに・・・・・・。
「困ったものよね。サンジくんにも。」
一番、最後に加わったサンジくんはルフィとゾロの絆を知らない。
だから、ゾロがルフィに抱かれて いる事に最初は困惑し嫌悪し、それから・・・・・・。
「こういうのも、ミイラ取りがミイラにっていうのかしら?」
そう、どういうことかサンジくんは、ゾロに惹かれてしまったのだ。
どこに、惹かれるものがあったのか、 ナミにはよくわからないのだが。
いや、ルフィの事があるからわからない振りをしているだけかもしれない。
「どうしたって、あの二人は引き離せやしないのに・・・。」
引き離せるものなら、離してやりたい。そして、私の物にしてしまいたい。
ただ、ナミの目的はサン ジくんとは別の人物の方にあるのだが。
だけど・・・・・・。
「出きっこないわ。無駄なことだもの。」
どんなに自分が望んでも、それをしてしまえばルフィは狂う。いや、それではすまないかもしれない。
(消えてしまうかもしれない?)
ブルッと体を震わせてそんな最悪の事態を頭から追い払う。
「ほんと、早くあきらめてくれればいいんだけどね。」
トコトコと、キッチンへ足を進めドアを開けようとして手がとまった。
中からゾロの押し殺したよう な声が聞こえてきたからだ。
「いいかげんにしろ。俺はもう、あいつ以外と寝る気はねぇ。」
怒りをかみ殺したように呟くゾロの声に、サンジも言葉を叩きつけるように返す。
「なんでだ?弱みでもにぎられてんのか?惚れてるわけでもねぇだろうに・・・・・・。」
「てめぇに説明する義務はねぇな。」
怒りのまま、ドカドカとキッチンを出ようとするゾロの腕をサンジが捕まえた。
「てめぇ、離しやがれ。」
殺気を込めたゾロの声を受け流し、サンジはゾロへ迫って行く。
「俺は、本気なんだぜ。あんな、クソゴムよりいい目見せてやるから・・・・・・。」
だから、ゾロ、俺に抱かれろ。そうサンジは言外に伝える。
ハッと息を吐き出すとゾロはサンジの手を振り払い
「そんなもんで、落ちるほど安くねぇよ。」
そのままキッチンを出て行こうとし、あわてて隠れたナミに気付かず甲板へと足を向けた。
そのゾロの背に、聞こえるか聞こえないかの声でサンジの声が追いかける。
「落とすさ。今晩にでも・・・・・・。もう、我慢なんかしねぇ。」
そう言うとキッチンのドアを乱暴に閉めた。

「ル・・・ルフィ。あの、あんまり酷いことは・・・・・・。」
ナミがすべてを告げた後サンジをかばう発言をする。俺の目がよほど恐かったのだろう。
俺は、ニィッと笑うと
「しねえさ。酷いことはな。」
言って、右手で片目を隠す。ナミをこれ以上恐がらせたくなかったから。
「だけど、ほおって置くわけにゃいかねえだろ。」
ほんの少し考えて、もう一度ナミの肩を抱く。
ピクンと震えるナミを柔らかな笑顔で落ち着かせると 俺はナミにお願いをする。
[お願い]
それは逆らうことを許さない絶対の命令。
ナミは、泣きそうになりながらそれでもコクリと肯いた。
俺は夜の顔で笑い、触れるか触れないかの口づけを与えるともう行けとアゴをしゃくり、また海を眺める。
小さくため息をつきながらナミが去っていったのを背中ごしに感じると俺の心に怒りが燃えあがる。
サンジ、サンジ、俺は忠告したんだぞ。ゾロは、俺のものだと。手を出すことは許さねぇと。
おとなしく 忠告にしたがっていれば、こんな目に会わずにすむのにな。
「可哀想にな・・・・・・。」
ポツリと呟いたのが、いったい誰のためなのか。ルフィ自身にもわからなかった。

夕食後、思い思いに消えて行く仲間たちを見ながらサンジの頭の中には、今夜ゾロを犯すのだという 狂暴な思いが占めていた。
自分がバラティエで、クソジジイに抱かれていたから、男同士ということに禁忌はない。
ただ、ゾロのような男があの脳天気を地で行くようなルフィに抱かれるのに納得できなかった。
確かにルフィは強い。そして、時に信じられないくらいの気迫がある。
だが、船長としてのルフィを認めていても、 色恋挫汰に関しては別だ。
あの疲れたように自分を誘ったゾロの顔がいまだに心から離れない。
その後、ゾロとルフィの間に何が起こったか、 分かっていてもルフィを許せない。
所詮お子様でしかないルフィにゾロがなにもいわずに体を与えていることが許 せなかった。
二人の間に自分とクソジジイのような愛があるとは到底思いつけない。
ならば、その行為はただの処理でしかなく、そんな行為に縋りつくゾロを放っておけないくらいゾロに惹かれていた。
今日の見張り役はルフィの番で、ウソップが寝付くころゾロを格納庫へとつれ込む。あとは・・・。
「成り行きまかせだ。」
そう呟くと夕食の後片付けを始めた。

キッチンを出た四人は別々の行動をとる。ルフィが思い描いたシナリオどうりに。
まず、ナミがウソップに耳うちをした。
それを、エーッという顔で聞いたウソップはナミの真剣な顔に、 ハッとなにかに気付き蒼褪めた顔で肯いた。
そのまま、二人は姿を消す。
ルフィは目の前を歩いていたゾロの手をつかみ唐突に自分の方へ引き寄せる。
「なんだよ。ルフィ。」
戸惑った顔で見つめてくる恋人を抱きよせルフィは耳元で囁いた。
「ゾロが、抱きてぇ。」
カッと赤くなるゾロが、慌ててルフィを引き離そうとする。
「ばっ・・・馬鹿か。今何時だと思ってんだよ。」
夕食が終わったばかりとはいえ、まだまだ深夜には程遠い。
「こんな時間から、盛ってられるか。」
だが、そんなゾロの抵抗もむなしく、ズルズルと引きずられるように格納庫へと連れていかれる。
「やめろって、ルフィ。」
必死な声で逃げ出そうとするゾロを、格納庫の中へ放り込むとカシャンと鍵をおろす。
「お前、まじかよ。」
呆れと、怒りが混じった声でゾロがルフィを睨みつける。
だが、そんな声も意に介さずルフィはゆっくりと ゾロに近寄っていく。
じりじりと壁際へ逃げるゾロを楽しそうに見ながらルフィはゾロを追いつめた。
「時間がねえんだ。」
「・・・・・・???」
意味不明の言葉を呟くと、ルフィはゾロの唇を奪う。
「んっ・・・・・・んんんっ・・・。」
激しいキスにゾロは一瞬ボウッとなりながらも、いやいやをするように首を振る。
「やめろよ。誰かきたらどうすんだよ。」
サンジは、後片付けと明日の仕込みが終わるまではキッチンから出ることはないかもしれないが、ナミや ウソップはいつ何時あらわれるかわからない。
知られているからこそ、できればゾロはあからさまなことは したくないのだ。
どんなに我慢しようとしてもルフィに煽られれば最後には理性が飛んでしまう。
そうなった時、溢れ出る矯声や、喘ぎ声を押さえる自信はゾロにはないのだ。
「大丈夫だから、おとなしくしてろ。」
ルフィの言葉にほんの少し眉を寄せる。
「ルフィ、何をしたんだ。」
「いいから、おとなしくしろって。」
伸し掛かろうとするルフィを中途で止めるとギッと睨みつけゾロは本気で抵抗し始める。
「お前が俺に隠しごとすんなら、絶対抱かれてなんかやらねぇ。」
そんなゾロをハァーッと深いため息とともに見つめ、ルフィは奥の手を出す。
帽子をとりノブへと放り投げ 前髪で目許を遮る。
そして、ゆっくりと顔をあげた時、そこにはルフィの夜の顔が現れていた。
「きっ・・・汚ねぇぞ。」
ゾロの顔が強張る。絶対者の瞳で見つめられ抗う力が徐々に抜けてゆく。
ゾロを支配するもう一人のルフィ。
ニヤリと笑うと耳元に口を近づける。
「ゾロ。お前が欲しい。」
ヒクンと体が震え、ゾロの中心に熱が灯る。
何もかもなし崩しにされるのはしゃくに触るが、こいつが 出てきた以上ゾロに逆らうすべはない。
「お前、やっぱりずりいぞ。」
すでに上着を脱がされ、胸の突起を弄ばれ、快感の波にさらわれそうになりながらゾロは小さく抗議をする。
その声にかすかに笑ってルフィが啄ばむようにキスをする。
唇が離れたわずかな瞬間に
「ごめんな、ゾロ。」
と、素直に謝られ、ゾロはそれ以上何も言えなくなる。
ほんとにこいつはずるい奴だ。昼と夜の顔を使い分け俺を翻弄し絡めとり抱きしめる。
だが、それ を許してしまう自分がいる。いや、それこそ惚れた弱みとでもいうのだろうか。
「情けねえったらありゃしねぇよな。」
呟くと、ルフィの背に腕をまわし、身をまかせる。
そんなゾロが愛しくて、愛しくてルフィは手 加減を忘れてのめり込む。
しばらくして、ぐったりと意識を飛ばし眠り込む恋人に、きちんと服を着 せいつも常備してある毛布をかぶせる。
「起きねえとは、思うけど・・・。」
そうっとルフィは部屋を離れる。優しい優しい瞳をいつのまにかすりかえて・・・・・・。

「さて、決着をつけなきゃな。」
そう言ったルフィの顔には苦い笑みが浮かんでいた。

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戯言:続きます。なんとルサン!!おいおいって感じですね。
ですが、ゾロを奪われないためのルサンなので、サンジファンの方がいらっしゃいましたら、
もうごめんなさいするしかないのです。