大人用音楽
YUMI'S CD REVIEW

山崎まさよし 「全部、君だった。」 2003.3.19 マキシシングル

 

ソロモードのヤマちゃん、そしてこのタイトル。それだけで予想したイメージピッタリの曲だ。初再生でほとんどフルコーラス歌えた。ハマる曲、好きな曲、というのは3回でだいたい覚えちゃうもんである。FMで耳にしてた時点では、あんまり好きじゃない、ハマらない。過去の恋の歌は、「振り向かない」が一番好きだなって思ってた。それでちょっとがっかりもした。抑揚はあまりなくキャッチーな部分はない。だけど、違う世界にグッと引き込まれる楽曲パワー。『ステレオ』や『ステレオ2』に入ってるバラードに共通しそれが好きだったりするんだけど、過去と未来を想う歌には、全然新鮮さが感じられなかった。が、しかし、歌詞まで覚えてるってことは、十分ハマってるんだよ(笑)。

家でCD再生音は全然質感が違ってて驚いた!こだわったなー、この音の質。FMといってもスカパーでJ-WAVEで聴いてるのが多いんだが、音がいいとはいえ、もわっと響く音になりやっぱり違う。それは、何を聞いても言えることなんだけど、こうスカスカな音になると、その違いは顕著。ライブな音と比べたらデッドな音っていえばいいのか。声の聞え方まで違い、それがふと孤独感に支配されちゃった深夜から早朝を思わせて…。この歌詞、ありふれた言葉しか使ってないのに、この強い惹き付けはなんだ?静かな深みがあって、ラストのコーラスは恐ろしささえ感じさせる。

ひとつ、びっくりした言葉があった。「セロリ」の〈否めない〉に匹敵する驚き。新鮮。
〈諍い〉…言い争いの意味ね。この言葉ひとつで〈あの夜〉の空気を表してしまう…。

そんなCD一聴の感想だった。

この曲には、寂しさも悲しさも虚しさも当てはまらない。今の感情が表われていない。あるのは孤独感…。だからって、どうしようという意思がここにはない…。これは、この恋が終わった直後ではない。かなり時間が経ってる。数ヶ月じゃなく数年を感じる。どのくらい経ってるんだろう。その間、ずっと独りだったんだろうか。少なくとも「君」を越える出会いはなかったんだろう…。しかし、〈全部、すべて、君〉なんてことはあるんだろうか。

最初聴いた時はスルーッと抜けてくようだったけど、聴けば聴くほど沁みてくる。CDを買ってすぐの感想よりも、時間かかって印象が変わっていって、その時より全然良くなった。私の中では珍しい。それだけ深みのある曲なんだろう。


どうして今、こういう詞が生まれたのだろう。ヤマちゃんはいつも、「歌いたいことなんてまったくない。だからいつも詞には苦労する。全くのフィクションは書けない。」と言っている。だからね…、気になるんだわ!だって、この〈君〉には、過去曲の〈君〉と重なって聴こえちゃうから。ノンフィクションなん?って思ってしまう。それがこの曲の持ってるリアリティー?…。独りで制作したってことと、詞の独り感と、かぶりすぎる…。

ひとりモードで作られたアルバム、『ステレオ』、『ステレオ2』、『SHEEP』は、詞も寂しい感じの曲が多い。詞曲を書くときなんて、ひとりでいる時に決まってるんだろうが、どうしてかな?その相関関係は?って思うんですが。聞いてみたいねぇ。是非とも。ずっとひとりで籠もる時間が長いからか?それとも、そもそもプライベートアルバムというのは、そういうものなのか?孤独を唄うソロのシンガーソングライターは多い。

この曲のプロモーションで〈ひとり〉を前面に打ちすぎだと思ってた。彼はインタビューで、「インフォメーション上」と言うのに思わず私も笑っちゃっていたんだが。何か特別、宣伝文句が必要なんでしょうな。だって私は今度のアルバムは、ひとりだなって勝手に思っちゃっていた。しばらく情報がなかったから、ひとりで作ってるんだろうなーって。
もうほんと、順番になってきちゃってるから、そんなに毎回同じこと訊かなくても…、って思う。なにを見ても、全部同じような質疑応答してる…。しょうがないのかな。インフォメーション上…。もっと個人に迫るインタビューが読みたい。

音人のインタビューで、「バンド組もうと思ったことはあるか?」という質問も、何度も読んだことあったが、「気持ちはあるけど、そういう出会いがない」という答え。「弾き語りが基本だから、それを軸にやっていく」と、以前にも言ってたような記憶がある。
ヤマちゃんは、「バンド…運命共同体で生きていく、そんなのムリやろ!」という考え方、すっごくらしい!自分のことは自分で責任とる、いい意味で自己完結している!ひとりで音楽で飯食って行こうって決めて、まず必要なのは経済的自立と、高校出てから沖仲仕のバイトで生計を立てていたヤマちゃん。バンドのメンバーでプロ目指して上京!って感じではない。誰でも、バンド気質とソロ気質に大別できるというのは、インタビュアーの説だが、それには私も同感。ヤマちゃんは完全にソロ気質。別にひとりが好きではない…独りに慣れていて、そのほうが楽だとということだが…。

ヤマちゃん曰く、「一人のぼんやりとした感じを、ひとりのだめ〜な感じを、こよなく愛してる気はするけど。」 同感!なんだかんだ言って、この感じが心地いいような気もしないでもない。「二人でいてすごくいい感じでも、それがすべてにはならない。一人でいるぼんやりとした何気にいいって感じと、二人でいて乾杯っていう感じ、どっちがいいって言ったら、やっぱ一人でいるほうがいいかな。たぶん東京と言う場所やからかもしれないし。田舎とか行くとまた違うんだろうと思うけど。」

ん?「全部、君だった。」のではないのか?独りではなかったのではないのか?ヤマちゃんのラブソングは、一方的に「君」を求めてるのが多い。どっちが本当だろう?二人でいても所詮、人は孤独である」という基本的な哲学感か。ではなぜ求める?〈互いの拭いきれない寂しさを〜うやむやにしてきた〉と唄っているが…。ヤマちゃんは自分の恋愛経験談をまず話さない。ナゾなんだ。シカオちゃんや杏子さんも聴いたことがないと言っている。

話がそれたが…一人でいることに慣れてるか、誰かといることに慣れてるか、それによるんじゃないかとヤマちゃんの説…「たぶん人は同じ感じで寂しがり屋だと思う」 ってヤマちゃんは言ってるが、私も同感!いいこと言ってくれた!

ヤマちゃんは〈ひとりになる〉んじゃなくって、〈ひとりに帰る〉という表現を使っている。うまいですね。って、私は毎晩、自分のためだけの時間を使ってますが…。

ヤマちゃんの生活に欠かせない、ひとり酒。これね、いい時間ですよ。私も、これなしで暮らせない!って感じ。私は毎晩ではないが、もう習慣づいている。素敵な時間ですよ、まさしく。
インタビュアー「自分がイヤになる時はないですか?」と訊いているが、あるに決まってる!あるんです。一人で呑む人というのは、いい時も悪い時も呑む。酒が友達ってわけじゃないんだけど、鏡の役割をしてくれて、自分を客観視できたり、自分と対話したりできる。そうして、なんか悩みの答えを見つけたり、明日を思ったりするわけですよ。
今日にケリをつけるって言うかね、そんな働きしてくれる。毎晩やってるとヤバいと思うけど…、必要だなぁ。ヤマちゃんもきっとそう! (しつこいか(笑))

〈見えない明日に向かうため 本当の孤独を教えて欲しい〉
『SHEEP』収録の「タイム」で、そう唄っているが、本当の孤独なんて、普通に暮らしてる中にはないと思うけど、ひとりぼっちで好きなことしてるのって、素敵な孤独な時間だと私は思う。

ヤマちゃんは孤独の中から名曲を生む。私は二酸化炭素ぐらいしか生まないが…。

いつも一人で酒飲んでギター弾いてばかりいるイメージがあるが、一般的にはそうではないのかもしれない。さわやかなイメージ?音楽バカのイメージがあるが、独りこもって制作していてもオタクなイメージはない。ソロとセッションの作品を繰り返すヤマちゃんが特異なようにいわれることが多いけど、私はそんな珍しいことだなんて思ってなかった。(ちゃんとローテーションになってる人はそういないと思うけど。)
日本人にも他にもいるでしょう?斉藤和義もそうだし、矢野顕子さんは典型。
でも、マルチプレイヤーは日本にはそんなにはいない。自分の生演奏を重ねてアルバムを作ってしまうという人は。(海外ではスティービーやレニクラが有名か。)

私は好きなんだ、ひとり濃いいのが。
ヤマちゃんは強い。自分自身で生きてるような気がする。自立して人生築いてる。
彼の楽曲には、そんな彼のひとりの人生が刻まれているのだろう。カッコいいよ…。

私は、誰かに(唐突に)好きなアーティストは?って訊かれると、山崎まさよしって答える。なんか最も無難だなと思っちゃって…。パブリックイメージがいいから。
「セロリ」のイメージが強いのが明るいからか?でも、他有名なのは、「僕はここにいる」、「One more time, One more chance」の2曲だろう、暗い…。だけど、サビで開けてる感じだ。歌が強い。

この「全部、君だった。」にはサビはない。これがJ-POPにカテゴライズされるシングル曲という意味では、非常に特異なことだ。なのに、このような孤独な詞でも、なんか開けてる感じがする、ヤマちゃんの歌が。明日がやってくる。光が見える。これがヤマちゃんの曲の人気を支えている重要な要素のような気がする。ネガティヴに傾きがちな感情も、ポジティブに明日を迎えるための支えになる。ブルースが聞き手の心に届き、昇華するのだ。そして、ヤマちゃんの歌はいい匂いがする!匂いの記憶は強烈だ。いい匂いは何度も何度も飽きることなく嗅ぎたくなってしまう。そして離れられなくなる。健康的な中毒症状だ。

どうにもならない過去を持ち、立ち止まってしまうこともあるが、明日(未来)はやってくるだろう?歩いていかなければならないだろう?
それは誰にでも当てはまるはずだ。すべてのひとにすぅ〜っと入り込んでいく曲だと思う。是非、聴いてみて欲しい。

※以上のテキストは、4/7に書いたものを、再編させていただいたものです。ご了承ください。

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