11. 悲しみの居所



 斧の先端が、床に落ちる。

 この気怠さは何だろう。
 握るのに慣れている筈の、皮の巻かれた柄が血と汗で滑る。


「俺がやろう」
 キマナがあたしの肩を掴んで押し退けた。
「お前に”人”殺しは無理だ。俺は職業柄、慣れてるからな」
「……っ」
 見上げて睨みつけると、彼は歪むように笑んだ。
「お前の幼馴染みを殺す罪を負おう」
 サールが更にあたしを後ろに追いやる。
 振り払おうとしたけど、魔術師は細いくせに、その腕はあたしの力では退けられなかった。
「僕達にも犠牲を払わせてくれないかな?」
「……え」
「女の子1人に何もかもやらせるのは趣味じゃないしね」
 キマナは一気に距離を詰める。カマイタチに切り裂かれても止まらない。
 ”魔王の器”はその速さに反応できない。

 尖端が埋め込まれる。
 あたしは、悲鳴も上げなかった。


 玉座に縫い付けられ、四肢が力なく傾げてる。項垂れた首から、表情は窺えない。
 その胸からは一滴の血も流れてなかった。
 既に人じゃなくなってたのかもしれない。
 それでもキマナに感謝しなきゃ。
 あたしには一生掛かってもできなかっただろうから。

 歩き出しても、キマナもサールも止めなかった。ルオも来ない。
 抜け殻の彼の首に腕を回す。






「――リ、オ?」
 耳元で発せられた、掠れた声。身体を離す。
 至近距離で視線が絡む。
「ユノイ……?」
 幽かに口の端が上がる。ありがとう、って唇が形作る。
 そして、それきり。







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