12. それはおやすみの挨拶のような



 ユノイを抱きしめる。治癒魔法は効かなかった。器は永遠に壊れてしまった。
「決心は変わらない?」
 訊かれて、あたしは首を振った。
 次の主を求めようとするカケラの入った袋を懐に抱き込む。
 仕方なさそうにサールが嘆息する。ふふん、残念でした。
 でも笑おうとして失敗した。口の端の筋肉を動かすだけが精一杯で、それはきっと笑顔と呼べるものではなかっただろう。
 キマナが目の前で片膝をついて屈む。
「代わるか?」
 これにも首を振る。
 その大きな掌であたしの髪をくしゃくしゃに掻き回す。
「残念」
 ルオが擦り寄ってくる。
 ちゃんと村に帰るかな。
 鼻先を押し付けて甘えるルオの、すべやかな頭を撫でる。ピンと立った柔らかい耳。
「一緒に封じてあげる。守りとしてね」
 サールが撫でながら言ったら理解したらしく、足元に蹲る。
 立ち際、キマナが贖罪のようにあたしの頬を親指で拭ってくれた。
 2人を見る。上向いても涙は止まらなかった。
「お休み。いつか会えるよ」
「すまん、俺は無理だ」
「僕と同じ魔法かけてあげようか?」
「御免こうむる。だが復路の護衛は引き受けよう」
 遣り取りに思わず笑う。

 ユノイ。
 あたし達は村に帰れないけど、良いよね。ルオも居るよ。見守ってくれる人も居る。
 寂しくないよ。

 目を閉じる。


「それでは。”魔王”の魔力を媒体に、少女を贄に。最大最高の魔術を執り行う――」


 何処か遠い場所で、
 声が聞こえて、
 それで、――





fin

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