10. 再会の果てに叩きつけられる



 居所の主は、最奥の、玉座の前に居た。
 久し振りに見る、懐かしい姿。


「我に遣せ」
 他人に対するような冷たい声。
 来たのが誰かなんて、気づいてないみたい。

 彼が待ち望んでいるのは、カケラ、だけなんだ。

 あたしの事も、村での暮らしも、覚えてないのかな。
 解らない。

 解るのは、カケラを渡せば彼は”魔王”となる。
 世界を災厄が襲い、皆が”魔王”を忌む。
 ”魔王”――ユノイを。

 そんなの、嫌だ。
 サールやあたしみたいな思いを、誰かにさせたくない。
 村の皆が例え知らなくても、ユノイを、嫌いにさせたくない。
 だから決めた。
 代わりに、永遠に一緒に居るって誓うから。

 斧の柄を握り直す。重い。
 彼の硝子のような双眸が、僅かに細められる。拳を正面に向けて伸ばす。
 五指を開く。
 反射的に腕を上げて頭部を庇う。
 風が音を立てて空を斬った。
「リオ!」
 キマナが身をもって庇ってくれる。
 裂けた皮膚が熱い。
 視界の端を、断たれた髪が幾筋か舞う。

 迷うな。

 腹に力を篭める。
 一歩、踏み出す。重い斧を引き摺って。持ち上げる。更に風が生まれ、傷が増える。痛い。
 迷ったら、駄目だ。
 どうしよう。足が動かない。
 ――でも。
 でも。







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