4. 温もりを側に
そう言えば訊かれたのは一ヶ月前。
「高瀬。手、見せて?」
有無を言わさぬ口調に高瀬は掌を差し出し――絢乃は逃がすまいとするかのようにがっちり掴んだ。
怯む高瀬をよそに、絢乃は10本の指と、掌や手首周りも測って、紙に数値を書き込んだ。
「ありがと。じゃね」
後には、両手を差し出した、ちょっと間抜けな恰好の高瀬が残された。
「はい!」
3時のお茶を持って来た高瀬は、茶器の載ったトレイをテーブルに置くやいなや、何か押し付けられた。
反射的に受け取ると、包装された薄い箱状の物。
「開けてみて?」
お茶の支度はどうするのか。お湯が冷めてしまう。
当惑する高瀬に、絢乃はお茶などお構いなしに促す。
諦めて包みを解く。
入っていたのは、革の手袋だった。
「今日、誕生日でしょ。おめでとう」
「お嬢様が?」
「そうよ。革選びから、デザイン、裁断、縫うのまで全部よ。夜なべしてね」
夜なべが真実かどうかは別にして、絢乃のお手製であるのは間違いなかった。
決して揃っているとは言い難い糸目。やや稚拙な拵え。
「ね、嵌めてみて?」
言われるままに箱から出して、指を通す。滑らかな感触。握ったり開いたりして具合を確かめる。
「……どう?」
心配そうに尋ねる絢乃に、高瀬は点頭する。
「丁度良いです」
「良かった! 季節になったら使ってね」
「戴いても宜しいのですか?」
「だって高瀬の為に作ったのよ」
頬を上気させ、絢乃は嬉しそうに笑う。
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心からの贈り物。
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