5. いつか、
「高瀬」
「はい?」
中将をロビーで待っている最中だ。
絢乃が入る学校は基地とは反対方向であるのに、中将は愛娘を自分で送っていきたいらしかった。
「あたしのこと、好き?」
「? はい」
「嘘ばっか」
「信じて戴けないのですか?」
「うん」
拗ねているのかと窺えば、絢乃は硬い表情で前を見据えている。
「高瀬の言う『好き』は、あたしが主筋だからでしょ。あぁうん、それは嘘じゃない、って解る」
初めて会った絢乃の頭は見下ろす位置にあった。
お互いに背は伸びたが、今でもあまり変わらない。
その髪が不意に翻る。
「でもね。あたしの欲しい『好き』はそんなんじゃないの」
双眸が真っ直ぐに高瀬を見据える。
「――『好き』でも、嫌」
何でもないふうを装いながら、高瀬は次第に大きく刻む鼓動を、辛うじて抑えていた。
「…高瀬は、」
視線が絡んで、外れない。
「…違うの?」
喉が、乾いて。
声が。
「絢乃、出るぞ」
「はい、お父様」
緩くカーブを描く階段を中将が下りてきた。絢乃はさっさと歩き出し、高瀬は深く礼をして出迎える。
正直、救われたと、
「高瀬」
扉の開け放たれた玄関、逆光の中。絢乃は振り返る。
「…、はい」
「帰ってきたら、同じ質問するからね。覚えといてね。絶対言わせてみせるから」
「何を言わせるんだ?」
「お父様には内緒よ」
素っ気無く言って絢乃は車に乗り込む。
fin
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落ち着いた筈の、鼓動が
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