黒金のまろうど 4

 前夜祭で振舞われる酒樽が広場に集められ、白銀の村人は酒を介して近隣の村人と交流を深めていた。
ヴォルフ族の村では山から降りてきた魔獣が家畜を食い荒らして困り果てているとか、冒険者として名高い族長の 弟がエルゼリア大陸に渡ったなどと、人々の歓談は尽きない。
各村の中継地点にある市場で出回った情報が、今夜は白銀の広場に集まっていた。
 父親達は豪快に酒を飲み、血気盛んな一部の青年は目当ての少女を巡って早くも喧嘩腰になっている。
レティシアが天幕の中で静かに縫い物をしていると、人々の愉快な笑い声が聞こえてくるのだった。
 体を動かさないと気が滅入る一方なのだが、レティシアは薬師に大事をとって安静にするように言われ、外に出ることを許されなかった。
引き裂きたくなる気持ちを押し留めて再開した晴れ着の裁縫は、先ほど終わってしまった。
明日の儀式の為に三ヶ月もかかって作った衣装だ。針を布に通す度に、兄への想いを縫い込んできた。
しかし今は、袖を通すのが躊躇われる。
巫女であるレティシアが一度舞台に立てば、長との婚礼の儀式は始まってしまうのだ。
 ファルカは村の見回りと接待で繁忙を極め、レティシアが倒れてから話をしていなかった。
客人としてもてなされているハーディーは連日女の子を連れて歩き、相手構わず自分の妻にするから国までついて 来いと誘っている。
レティシアと仲の良い娘達も一度見舞いに来たきり、着物の最後の仕上げに入って忙しいようだった。
 広場の方から賑やかな手拍子と軽快な足踏みが聞こえ始めた。舞台の上で伝統の踊りが始まったのだ。
人々の浮かれ騒ぎを聞いているうちに、レティシアに虚しさがこみ上げた。
気が付けば炎を凝視していた。
辺り一面の銀世界に一人で投げ出されたような茫洋たる前途に、彼女は放心状態だった。
「皆は宵祭りの方へ行ってください」
外で人払いをする声がした。
 天幕に誰か入ってきた。誰なのか、気配で解る。
レティシアは着物を引き出しにしまいながら言った。
「私、明日の祭儀に出たくない」
兄はまた妹がだだをこねて自分を困らせようとしていると思った。
そんなひねくれたところも愛しくてたまらないファルカは、妹の背後から腕をまわして抱きしめた。
「それは困ったね、私にはレティシアしかいないのに……それに、他の娘を選べば掟に逆らう事になってしまうよ」
妹の不安を解きほぐそうと、ファルカはレティシアの頭を撫でた。
「私達の一族は呪われているのよ。こんな力の為に誰かが犠牲になるのは耐えられない。識者を集めて話し合いましょう」
「レティシア、急に何を言い出す」
ファルカは彼女の髪にうずめていた顔を上げた。
やんわりとした笑顔が消えたのは、妹が冗談を言っているのでは無いと気付いたからだった。
 レティシアはファルカに顔を向けるのが辛くて、振り向く事は出来なかった。
「一族に体のおかしい所があっても当たり前だと思っていたのよ。お父さんもお母さんも、爺もそうだったでしょ。健康なのは村人だけ。次はどんな子が生まれるのかしら、口がきけない子、歩けない子、それとも」
「レティシア、落ち着いて」
ファルカは彼女の両肩を掴んで自分の方を向かせた。
 紫の瞳が心配して覗きこんでくる。レティシアは目を逸らし、一歩下がって彼から離れた。
そうしないと今までのように彼の胸へ飛び込み、泣きすがってしまいそうだった。
レティシアは緊縮するあまり喉が自然と嚥下したが、渇いた粘膜が引きつっただけだった。
「長の血筋に伝わる能力を濃く残す為の、先祖代々の慣わしだ。受け入れなければならない」
「そんな力無くても皆はきっとやっていける」
ファルカは眉間に皺を寄せたが、一度溜息をついてからは悠揚たる物腰でゆっくりと言った。
「村を覆っている結界はどうする。雪崩から守り、獣の侵入を知らせる仕組みは。何よりも守られている認識があ るからこそ安心して皆は生きていけるのだ。我々は精霊のよりしろだ」
レティシアは力が抜けたように背後の棚に寄りかかった。何を言っても彼を説き伏せる事は不可能に思えた。
兄は正当な理由をつけて真実を隠し、妹の名誉を守ろうとしているのだ。
「白銀の後継者を作るのが掟なら私じゃダメよ。そうでしょ、血が絶える。兄さんだって知ってるくせに」
積弊を改めたいその一心で女としての欠陥を自ら曝け出したレティシアを、ファルカは凝視した。
 驚異の目をみはる兄を見たレティシアは、焦燥感に苛まれて思いついた言葉を連ねた。
「笑っちゃうわよ、皮肉よね。力を残す為に体の正常な機能を失う代償を払ってきたのに、今度はそれを伝える為の機能までも使えなくなっちゃって、もうおしまいじゃないの。兄さんは他の娘と結婚しないと次代の……」
「やめなさい」
妹の自嘲は彼が通ってきた道だ。
彼は成長して力を使いこなせるようになるまで、目の不自由さに葛藤し苦難を味わった。
「ねぇ、そうなんでしょ。私達の祖先が続けてきたことはそういうことなんでしょ」
レティシアは激昂して兄に詰め寄った。
返事の代わりに、ファルカはレティシアを抱きしめた。
レティシアはしがみ付く様に兄の逞しい背中に手をまわし、彼の胸に顔をうずめた。
包まれるようなその温かさを失いたくは無かった。
 相思の二人は抱擁し合いながらお互いの高ぶった気持ちが落ち着くのを待った。
レティシアは兄から体を離し、悲哀の表情そのままで希った。
「ごめんなさい、兄さんは悪くない。兄さんだって自分の体の事で苦しんだのに。私はこんな思いをもう誰にもさ
せたくない。一族の為に誰かが犠牲になるのは耐えられない。兄さんはそんなに掟が大事なの」
「私には掟よりも君が大事だ。後継者が欲しいのではない、君を愛する権利が欲しい」
ファルカは妹の頬を掌でそっと包み、そう哀願した。
高鳴る胸を抑えきれず、レティシアは兄から視線を逸らした。
甘い言葉をかけられただけで撫でられたような心地良さを感じてしまうのだ。
「ど、どうして急にそんなことを言うの、そんなことを言う兄さんじゃなかったのに。皆の事も、一族の事を一番に考える兄さんだったのに」
「解らないのか」
ファルカは語調を強め、妹の手首を掴んだ。
「君の幸せが私と共にあることならば、掟もヌートの力もどうでもいい」
気位が高く理性的で、レティシアを妹として大事にする兄は演じるのを止めたのだ。
 突然のことにレティシアは動揺し、反応を示せずにいた。
掴まれた手首が痛い。
(兄さん、何言ってるの)
それが感じたことの無い空気であることを、彼女は兄の目を見て知得した。
自制心を失った紫の瞳は狂熱にとり付かれ、恍惚の眼差しでレティシアを見つめていた。
ファルカを兄と長という立場から解放してしまったことを、レティシアは解らずにいた。
 ファルカはレティシアの首を手で支えて顔を近づけた。
「兄さん」
口では抗っても体は抵抗していない。むしろ彼女の体は触れられるのを待ち焦がれ、熱を帯びていた。
「もう兄さんと呼ぶな」
兄が募る想いを行動に移したのは初めてのことだった。
 重なった唇から漏れた吐息が熱い。二度三度と唇を重ねる毎に、痺れるような余韻が二人の体に残された。
レティシアはファルカの袖を握って意識を保とうとした。
そうしなければ、この居場所さえあれば全てがどうでもよくなりそうだった。
(離れたくない、本当は離れたくない。ずっと傍にいたいの)
声にならない叫びを全て受け止めるように、ファルカは彼女の唇を塞いだ。
 兄は妹の細い腰から下へと手を這わせ、自分の体に密着させる。
広場から聞こえてくる激しい太鼓の律動と、レティシアの胸の鼓動が重なった。
彼女は背後の飾り棚に手をついて、兄の重みにしなる自分の体を支える。
運命から逃れようとする妹を繋ぎ止めるように、ファルカは手を絡ませた。
「レティシア」
彼女の耳に押し当てられた兄の唇が名前を囁いただけで、レティシアの足が力を失ってぐらつく。
兄は妹の背中を支えながらゆっくりと寝台に横たえた。
「私がどれだけ我慢していたか、君は知らない」
棚が揺れ、並んでいた香水の瓶が倒れた。
 母の墓の隣に父を埋めながら、幼い兄妹は二人でこの村を守っていくと決めた。
父の側近から宣告された掟を受け入れ、両親がしたように一族の為に尽くす誓いを立てたのだ。
夕焼けに染まる黄金色の雪を見ながら、兄は妹の手を握った。
しっかりと固く握り締めてくれた兄の手の力強さを、レティシアは今でも覚えていた。
そして、その繋いだ手を自ら離す時が来ると思ってはいなかった。
 兄の銀糸がレティシアの頬にかかった。兄の広い胸、匂い、温かさ。全てが好きだった。
「好きよ、ずっとこうなる事を待っていた。知ってるでしょう……」
レティシアは喘ぐように言った。
妹の頬を伝う涙を見て、兄は彼女の唇を解放した。
「兄さんお願い、明日のヌートでもう終わらせて。私の代わりに他の誰かを、お願い」
真っ直ぐ見つめるレティシアの瞳には、己を犠牲にして呪の連鎖を断ち切る決意が込められていた。
 ファルカは妹の愛が何処にあるのかを悟った。だが、誰もレティシアの代わりにはなれない。
「他の誰かと未来を紡げと言うのですか」
息を吐きながら、ファルカは体を震わせた。妹に重なっていた体を離す為には、強い意思が必要だった。
「君は私より長に相応しいらしい」
彼は刹那に見せた哀愁の横顔を振り切り、妹を突き放した。
狂態を曝した自分が酷く矮小に思え、ファルカの顔色は蒼然として血の気が無かった。
「だが、長は私だ」
彼は寝台のレティシアを見下ろして自分を奮い立たせるようにそう言うと、垂れ絹を跳ね除けて天幕から出て行った。
(兄さんごめんなさい、ごめんなさい)
揺れる垂れ絹を見ながら、レティシアは両手で顔を覆いながら慟哭した。
 お互い想い合っていながら何故傷つけ合う結末を迎えてしまうのか、答えの出ない問い掛けが彼女を苦しめる。
前夜祭の座興に酔いしれる人々の喧騒は終夜続いたが、来賓を饗するべき長と巫女はその姿を村人の前に現さなかった。

 山の稜線に太陽が顔を出す早朝に、山峡の村には爽涼な空気が流れ込む。
空を突き抜けるような銅鑼の音を合図に典雅な弦楽器の調べが鳴り響き、人々は霜柱を踏みしめる爽快な音をたて ながら広場に集まった。
 白銀一族の長であるファルカが母たる精霊ヌートに冬越えの祈願をすると、祭りの開始である。
続く巫女の祈祷の後で、着飾った少女達が舞台の上に立った。
恋人の告白を待つ娘達はとても華やかで美しい。
子供に混じって雪合戦をするようなお転婆な少女達でも、今日は淑やかな一面を見せていた。
 青年が想い人の前に進み出て二人が口づけを交わすと、婚姻が成立する。
夫婦となった二人は貴重な花の吹雪を浴び、白銀の長から絹一反と種芋、ヴォルフ族からは食用の動物を一頭祝いに贈られた。
十八組の結婚に父と母たちは泣いて喜び、小さな子供達は笑い声を上げながら踊った。
 誰も求婚しない少女もいれば、何人もの男に求められる少女もいた。
一人の少女を巡って決闘が起こった時には、群集は己の属する村の青年の応援に白熱して、野次を飛ばした。
ヴォルフ族の青年との戦いに敗れたある白銀部族の青年は、足を引きずって天幕の方へ戻って行った。
血が流された戦いが二、三度あり、人々の興奮は日が暮れないうちに最高潮へと達した。
 酒が人々の間に浸透して満月が山の頂点から現れた時、白銀の長の婚姻の儀が始まった。
朱色の長い衣に身を包み、金細工が施された帽子を被ったレティシアが舞台の真ん中に進み出た。
 羽毛を黒く染め、何枚も重ね合わせて翼の形に固めたものが舞台の正面に飾られている。
黒き翼はヌートの象徴だ。レティシアがその翼の前に立つと、有翼の人のようであった。
更に煌びやかな丸十字の刺繍と朱の布地の相乗効果によって、巫女は見事なまでの鮮烈な色彩を放っていた。
耳と首に下げている金の装身具が風に揺れれば瞬く星のようでもあり、眼の淵と唇にひかれた赤い化粧は彼女を成熟した女性に見せた。
己の幸せに酔っていた新婚の夫婦たちも舞台に注目した。
 巫女の顔色が心なしか悪く見えるのは、銀と金の刺繍が篝火で反射して肌に映り込んでいるからだと村人達は思った。
笑みが失われていることも、緊張のあまりいつもの調子が出ていないだけだと解釈していた。
しかし、彼らはレティシアが小刻みに震えていることまでは知らなかった。
 壇上へ上がるファルカは瑠璃色をした正装に額冠を着け、族長としての威光と品格を露わにした。
レティシアと同じ丸十字模様の銀の縫い取りは豪奢だが、彼の場合、髪の輝きの方が勝っている。
腰に下げた剣の鍔にはめ込まれている玉は、彼の目と同じ紫色だった。
長の中性的な美貌に、男女共に驚嘆の溜息を上げた。ファルカは彼らの誇りだった。
 長の結婚は、ヌートと白銀一族の青年の結婚が再現される慣わしであった。
「銀に咲く、紅の守護者は誰ぞ。そはしろがねの、しろがねの御子」
ファルカは伝統の文句を声高に語りながら、一段一段しっかりとした足取りで階段を登った。
(ここまできたら、もう手遅れね。後継者を産めない体だと言わない限り、何も変わらない)
次代の血族を率いる御子を懐妊する定めにある花嫁は、村を守る為の生贄だ。
だが、レティシアにその能力は無い。それでも兄は彼女を選ぶことを強行するつもりだ。
ファルカは美しい妹の前へ立った。
「麗しき我が妹 気高きしろがねの巫女」
歓声が沸き起こり、誰もがレティシアを祝福し羨望の眼差しを送った。
 新しい時代の幕開けを、誰もが固唾を呑んで見守っていた。
「兄さん、お願い。今ここで私達は結ばれないと皆に言って。私の体のことを言ってもいいから」
言葉と共に吐き出される息は、寒さで白い煙のようになっていた。
兄は黙して跪き、巫女扮するヌートが自分の額に手を置くのを待った。儀式はそれで終わりなのだ。
(兄さん)
レティシアの手は胸元で組まれたまま震えて動かない。
このまま村民の前で長に恥をかかせるか、夫婦になるのか。
心は決まっていた筈であったが、足元で屈んでいる兄を見たレティシアには迷いが生じていた。
 壇上で何も動きが無いことに不信を抱いた村人は舞台の下へ集まってきた。
悠久の調べを奏でる演奏者も異変に気付き、音色が途切れだした。
ファルカは妹の手が自分の額に触れるのを信じて待っている。
長の側近が舞台のそでからレティシアに口添えした。
「レティシア様、お忘れですか。御手を長の額にっ」
彼女は蒼白となって首を振った。
(私、私はっ)
巫女、巫女、と何度も自分を呼ぶ村人の声がレティシアには聞こえた。
彼女は幾つもの民衆の冷たい目に責め苛まれている恐怖にとりつかれていた。
「愛に狂った長なんてみっともない」
橙色の衣服と共布の額当てをはめた少年が、人ごみを掻き分けるようにして舞台への階段を登り始めた。
 その少年は剣を背中に固定する為の幅広い皮ひもを斜めがけにして、胸元へ引っ張りながら結んでいる。
神聖な儀式に割り込む不敬な少年を見て、周囲は騒然となった。
「おい引っ込めよ」
「長の婚姻の儀式だぞ」
「お客人、神聖なる儀式ですぞ」
非難を一身に浴びながら少年は颯爽と階段を登り、二人の男が彼を追った。
「邪魔するなっ」
少年は一喝した。彼を引き摺り下ろそうとした壮年の男は、少年に脇腹を肘で小突かれて蹲る。
槍を構えた村人が血相を変えて走り寄ったが、すでに少年は階段から滑り落ちた男を飛び越えて舞台へ駆け上っていた。
(な、なんで)
異国の客人はこの儀式の意味を知らないのだろうか。
レティシアは彼が舞台に上がった理由を考えてますます混乱した。
今はレティシアにとって、一族の行く末を賭けた枢要な選択を迫られている時である。
彼女は無遠慮な態度をとる少年に、憤慨するどころか錯乱しそうだった。
ハーディーは悪戯っぽく笑い、腕を組んだ。
 雪の上を撫でて一層冷えた風が三人の間を通り過ぎ、月は事態を静観しながら皓々と舞台を照らしていた。
「何をしているのか、解っているのですか」
ファルカは立ち上がり、訝しげにハーディーの方を振り向いた。
「北の大地に異形の長が治める国があると聞いて、オレはやって来た」
ハーディーは不敵な面構えで、誰も聞き漏らす事のない様に声を張り上げて言った。
その姿は堂々としていた。
「俺が一人で旅しているのは国のしきたりのせいだ。王族の男は十六の成人前に一人で旅に出て、自分と違う肌をした伴侶を国に連れて帰らなければ大人として認められない。生き残れる強い男、異なる血。すべては国の繁栄と安泰の為だ。そうだろ、それが悲劇の元だ」
(悲劇の元)
レティシアの目が、ハーディーのそれと合った。
 レヴィ族では強い種を残す為に成人する青年を命の危険に晒す慣わしがあり、ハーディーが国の掟に従って孤独な旅をした結果があの遭難であった。
抗いたくても奔流に逆らって泳ぐ事は容易ではない。
古から続くその流れに溺れ足掻くだけの苦しみを知っているハーディーに、レティシアは心強さを直感した。
 群集は顔を見合わせた。
ハーディーが言った意味を口々に推察したり、不遜な輩だと罵っている。
「オレはファルカとレティシアの婚姻に異を唱える。名乗りをあげるって言ってんだよ。オレは掟ってやつが嫌いでね」
尊い儀式を汚そうとするハーディーに向かって、村人は腕を振り上げて抗議した。
長の側近は宥めるが抑えきれない。今にも階段を登って来そうな勢いで、人々は悪罵を叫号する。
ハーディーは白銀の村の平穏を打ち破る、異国の敵と見なされたのだ。
 興奮する村人達を鎮めたのは、彼らが敬愛する長だった。
「愛する者への求婚を許されるのは勝者のみ。我らの儀式とて例外ではない」
ファルカはハーディーを睨みつけ、帯刀していた剣を抜いた。
月光が反射した刀身には無慈悲と清麗が共存し、冷たい光を放っていた。
「そんな、いや、やめて」
レティシアはただならぬ殺気を兄から感じ取った。
放出しようとしている力は舞台に影となって映り、兄の体から怒りが陽炎のように噴出しているのが見える。
ヌートに捧げる祭りは血の饗宴と化した。


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