聖夜スペシャル
第九章 タイに行きたいかもしれないですタイ


 ……サクラコさん、今回は前回の北海道編の続きです。

 (そろそろ聖夜が近づいてきたけど、オチは大丈夫なの?)

 ……人生にオチは必要なのですか、サクラコさん?

 夏のお盆の時期の北海道観光は最高なのですが、問題があります。
お盆です。お盆ですから、出身が北海道の方が戻ってくるわけです。
また観光客もやっぱりわんさかとあの正方形を45度傾けたような
島にやってくるのです。
 やってきた方々は帰らなければなりません。
 帰る方々は海軍で帰るのでしょうか? 陸軍(JR)で帰るので
しょうか? いえいえ、それらの行路では東京に到着するのが出発
日の翌日になってしまいます。
 ということで、皆さん空軍をお使いになります。札幌の千歳空港
です。ところが空軍の便数には限りがあります。普通の出張感覚で
北海道に乗り込んだ後にその事に気づいた僕。
 …帰る便がありません。まったく皆無です。どの空港を経由しよ
うが、韓国回りという手段を探そうが、ありません。帰れません。
 この時点で、僕は個人的に「陸の孤島」に取り残されることにな
りました。次の便は連休明けの月曜日です。

 ということで、札幌で足止め観光が決定しました。

 有名な札幌の時計台は当時は改装工事中で見学できず。でもなん
だか小さな建造物だったような記憶があります。ということでバス
に乗って時代村なんかに行きました。幕末明治あたりでしょうか、
そんな建造物を集めて、あと当時のコスプレした方々が居たり、昔
風のパッケージをしたキャラメルとかを売っていたり、まったりと
して気持ちいいテーマパークでした。昔建築の中で「四ツ屋」とい
う方式の、中心の柱を囲むように正方形の4つの部屋で構成されて
いる家が、高砂にあった僕の祖母の家にそっくりで懐かしく、じー
んときてしまいました。子供のころに親戚の子たちが集まったとき
には、柱が中心にあるその家の中を、その柱の回りの4つの部屋を
ぐるぐる回りながら鬼ごっこをしたりした、良き思い出があるので
す。

 (ユキちゃん、札幌の料理はどうだったの?)

 ……札幌はさすがに都会で、気温も暑くて本州っぽい街でした。
   食事も含めて、北海道を感じるならば道東に行くべきだと
   思います。

 (それでユキちゃん、次はどこなの?)

 ……5年くらい後に、タイに行きました。

 タイに行きました。これは僕としては珍しく、個人旅行でした。
職場のOLさんのパスポートが色んなスタンプだらけだということ
に触発されたのかもしれません。
 それにタイには当時、四国旅行でお世話にもなった同期の桜ちゃ
んな友人が赴任していました。考えてみたら、彼も過酷な遊牧民人
生を送っているような気がします。

 タイです。紙幣に穴が開いていてセロハンのようなもので穴がふ
さがれています。日本は5円玉硬貨がユニークですが、タイは紙幣
が変わったデザインです。暑いです。シンガポールでも感じたよう
なその国独特の匂いをともなった粘った空気が身体を包み込みます。

 その友人の宅は広く、客用の部屋も風呂場もトイレもちゃんとあ
りました。お手伝いさん用の小部屋というものもありました。小さ
な4畳半くらいの空間でした。メイド服を着た可憐な少女ではなく、
単なるお手伝いのおばさんのようでした。

 友人には金色の大仏とか、デパートとか、カブトガニを売ってい
る屋台とか、発展場として有名なマクドナルドとか、いろいろ連れ
まわしてもらいました。専用の運転手さんが居るのが羨ましいよう
な(でも管理が面倒だろうなと思うような)そんな海外駐在さんス
タイルをマスターしていました。

 彼が仕事の日は、現地で日本語ツアーに申し込みました。タイの
三大・奇妙なとこ巡り、のようなツアーでした。
 参加者は僕を含めて5人くらい。他の2組は夫婦とカップルでし
た。ふん。

 まずは観光会社のレジャーヴィークルで3時間ほど延々と道路を
いきます。これは長い。タイも広い国です。よく考えると日本でい
えば東京から東北地方まで連れてこられているような感じですね。

 そして着いたのが山の中の小汚い仏教寺院。特に便所が激烈に汚
くて閉口しましたが、ここで最初の「奇妙」を見ました。
 「水に浮かぶ尼さん」
 15メートルプールのようなのが屋外にありまして、そこに尼さ
んがちゃぷんと浸かります。そして浮きます。水泳教室で最初にや
らされる「達磨浮き」のような感じです。ヨガっぽいポーズをシン
クロナイズドさながらに行いながらお祈りしています。
 尼さん…限りなくお婆さんに近い尼さんです。
 伊勢志摩の海女さんショーのほうがよっぽど色っぽいです。
 観光客はその尼さんが水中でヨガるのを、珍妙な心持ちで眺める
わけであります。終わり。

 次にまた車に乗って延々といったところで、メコン河に出ます。
確かメコン。支流だったかもしれません。そこで筏下りです。水は
ゆったりと流れていますので危険はありません。これはなかなか、
東南アジアチックな風情があり、頭の中でボトムズ(というアニメ
の中でジャングル戦闘編があった)を妄想すれば完璧です。

 そして筏が着いたところで、3番目の「奇妙」である「象のり」
ができます。像に乗って、スキーでいうところの林間コースのよう
に、テクテクと歩き回ってくれます。象の毛はかなり硬くて痛くて
触り心地はあまり良くないのですが、なんせ林の中の起伏のあるコー
スを辿ってくれるので、景色が変わったり象が下ったり上ったりで
生き物の背中に乗っている感が味わえて、これはなかなか良い奇妙
でした。
 最後に象と写真をとってもらえるのですが、そのときに象の脚の
下に身体を入れて踏まれるポーズをとったり、象が後ろ足で立って
くれたりと、お約束の「奇妙」をやってくれるので、それなりに満
足です。

 奇妙巡りが終ったところで、列車にも乗せてもらったりして、ま
た車で延々とバンコクへと戻るのでした。

 (ユキちゃん、バンコクの料理はどうだったの?)

 ……本場のトムヤムを食べました。

 タイ語(パックマンのような形をした文字。昔のアニメ「マクロ
ス」であったゼントラーディ文字よりも珍妙で習得できる気がしま
せんでした)では「クン」が「蝦」なので、蝦付きなら「トムヤム
クン」、蝦抜きなら「トムヤム」だって教えられました。辛かった
です。
 スーパーではトムヤムラーメンというインスタントラーメンを売っ
ていました。後年、米国にいたときに華僑スーパーで買ったのです
が、あまりの辛さに二口が限界でした。韓国の「辛」ラーメンより
10倍辛いです。人間の舌の許容限界を超えていました。
 あとは鶏料理が美味しかったです。タイ語(文字をさらに見ると、
パックマンの上にUFOのようなモノが飛んでいるような図形もあ
り。少なくとも漢字との共通性のようなものは全く無さそうです)
で「ガイ」は「鶏」ということも教えてもらいました。
 鶏を食べたければ「ガイ」ですね。

 終わり。

 (ユキちゃん…オチは?)

 ……あと1回残っていますよ、サクラコさん。
   人生、最後まで投げたらアカンのです。
   最後に真犯人がわかるのですよ。

 (……ユキちゃん、すでに投げちゃってることに、自分で気づい
  てるのかしら?)