聖夜スペシャル
第七章 食べて辛ガポール
シンガポールでの食事でいちばん印象に残っているのは、ボート
キールで食べた中華料理です。流れる運河、この流れ沿いに屋外に
テーブルが並べられていて、黄昏になるといい雰囲気になります。
ここで食べたオイスターソースをかけた青梗菜(チンゲンサイ)が
美味かったことを覚えています。
それは現地の関係会社の方とのお食事でした。その帰り道に、道
端で売っていたドリアン(季節になると街路商がでます)をその現
地の方が買いました。
食えとおっしゃいます。
どうやって食うのだと問います。大きなトゲトゲのドリアンを割っ
てもらったら、中は濃い黄色でぐちゃーっとしてます。そこに手を
突っ込むと、ゴルフボール1個くらいの大きさの種を掴むことがで
きます。その周りにシュークリームのようなぐちゃーっとした粘体
物がからみついています。
これを食すのだと。
鼻づまり気味の僕は、匂いはあまり気になりませんでしたが、こ
れは食えるのでしょうか。
食ってみます。パクッ。おえーーーっ。
笑ってます。皆が笑ってます。子犬も笑っているようです。
…現地の人は、出張に来る日本人にドリアンを食わせてその反応
を楽しむことがご趣味のようです。
まるでアメリカ人に納豆を食わせようとする日本人のようですね。
でもでも、慣れましたよ。ドリアン。食えますよ。ドリアン。
しかしあれが果物とは認められない…です。甘果ではないような
気がします。
シンガポールは華僑7割と言われるだけあって、中華料理屋が多
いです。出張で現地に行くと、なかば接待で中華レストランに連れ
ていってくれます。旨いですが、最初に出るつけ出しの緑色の物体
を食べてはいけません。激、激、激辛いです。トンガラシです。僕
の人生でおしぼりで舌を拭いてもまだダメだったのはこれが初めて
でした。
中華料理は懲りたので、あちこちにある屋外屋台村(ホーカセン
ターというらしいです)で食べます。チキンライス(日本でいうオ
ムライスの親戚のようなチキンライスではなく、あっさりした蒸し
鶏ライスです)なんかが現地っぽくてお勧めです。でも安いホーカ
センターのチキンライスは、なんだかチキンがベトベトしていて骨
が残っていて気持ち悪かった記憶があります。ホーカセンターでは、
インド人向けのベジタリアンフードのほうが口に合いました。でも
ホテルで食ったチキンライスは旨かったです。教訓。旅先で、食に
はケチるべからず。屋台で不味いものをむりやり旅の思い出スパイ
スで脚色して美味いと思うよりは、金を出してまともなレストラン
に行きましょう。
ということで、ホテルでポット(鍋)料理を食べました。鍋が土
鍋ではなくて銀色のポットであること以外は、日本の鍋と同じです。
食材はバイキング方式で自由に取ってこれるので楽しかったです。
でもそこは日本人、日本の同僚の方と一緒に食べたのですが、やは
りここはということで、ライスと生卵をとってきて、最後はおじや
を作りました。隣の欧米人が物珍しそうに見ています。ちょっと誇
らしかった瞬間でした。
バイキング形式ということで、現地の方に伺った話を思い出しま
した。シンガポールでもバイキング形式というものがあって(日本
でファミレスが昼食バイキングとかを大々的に始めたのはこれより
後の年代だったような気がします)、それで食いきれないような量
を山盛りにしてテーブルに持ってきて、そして残すと。あさましい、
欲張りだ、と現地人の同僚は嘆いていました。当時はリ・カンユー
さんも健在でして、シンガポールでも「欲張りは止めよう」運動が
実施されていたということです。まぁなんとも道徳的というか、平
和ですねー。欲張りなのは中華系の文化なのでしょうか。後年、米
国で中国人の先生に中国語を習ったのですが、その女性の先生もこ
んなことを言っておられました。
「ひさしぶりに故郷に帰った。みんな列をつくらずに押し合いへし
合いでモノを買っていた。米国に慣れてしまったので、その強さに
割り込めずにうろうろしていたら、お母さんに『アンタ何(行儀よ
く)してんの?!』と言われた。ショックだった」
そんなものかもしれません。が、よく考えると、後年の日本のファ
ミレスでの子供連れマダム族も同じような批判を浴びましたね。
あぁ、アジアなり!
関係ないですが、シンガポールでもキティちゃんが大人気。マク
ドナルドが販促品としてキティちゃんのグッズを付けるキャンペー
ンを始めると、親御さんたちは大変らしいです。子供のために、子
供のために、マクドナルド行ってキティちゃんを貰わねば!
マクドナルドで思い出しましたが、シンガポールでは「お持ち帰
り」は「テイク・アウェイ」でした。さすが英国流。
といって、米国流は「テイク・アウト」かと思っていたのですが、
10年後に米国に行ったときに試してみるとさにあらず、「トゥ・
ゴー(to go) でした。ファーストフード、あなどれず。しかし一番
難しかったのはサブウェイでした。あれやこれやと聞いてくるし。
話が飛びまくりますが、サブウェイで思い出したのですが、シン
ガポールから日本に人を迎えたとき、その方が日本で一番美味しかっ
たものはサブウェイのサンドイッチだと仰ってました。
シンガポールは島国なので、生鮮野菜と飲用水はマレーシアに頼っ
ています。熱帯で生野菜って貴重品なのかもしれません。
次は飲用水というお題での思い出しですが、シンガポールはマレー
シアから飲用水用のパイプを延々と引いています。マレーシアはシ
ンガポーリアンの生命の水を担っているのです。でも経済の発展度
合いから、シンガポーリアンはマレーシアのことを格下扱いしてい
ます。マレーシア人はそれが気に食いません。仲、悪いらしいです。
実はこれは、アメリカ合衆国のカリフォルニア州とオレゴン州も
似たような関係です。カリフォルニアって降雨量が少ないから、水
は他州から貰っているのですよ。でも偉そう(というより他州に気
遣い無し)でしょ。
あぁ、今日も仕事が終わり、シンガポールの日が暮れる。職場で
あるワールドトレードセンター2階のカフェテラスで、現地定食を
頼むと、インドネシア風のピリ辛料理が椰子の葉にのってでてきま
す。うー、辛い。海外暮らしのストレスも相まって、胃がシクシク
してきます。
そこで今日は前から気になっていたピンク色のジュースにトライ
してみました。ゴクゴク…うげぇ。バリウムにトロピカルフラワー
の絞り汁を入れたような、例えようのない不味さです。うげぇ。
あぁ、シンガポールの夕日、胃が泣いている。涙が、涙が、椰子
の葉へと一雫(ひとしずく)。
ホテルに帰って、明日はミーゴレンを食べて口直しをしよう。
そう決意する、シンガポールの夜でした。
(やっとシンガポール編は終わりね)
……あの頃はメールなんて無くて、FAXが頼りで大変でしたよ。
(次はどこなの、ユキちゃん?)
……えと、九州と四国と北海道でしょうか。
(またまたお仕事なのね、ユキちゃん)
……そうなんですよ。とほほです。
(楽しんでるくせに…)