聖夜スペシャル
第四章 ガポール


 目覚めると、そこもシンガポールでした。

 ANAホテルは高いので、途中からダイイチ・ホテルってとこに
切り替えました。妙に日本語チックな名称のホテルですが、従業員
は現地の方でした。
 シンガポールは新交通システム(いわば地下鉄です)MRTとい
うのが狭い国土を横断しています。ダイイチ・ホテルの最寄り駅は
「タンジョン・パガ」って駅でした。変な駅名ですが、あまりにも
変なので10年くらい経った今も覚えています。

 関係ないですが、その後の在米時に知り合ったインド人技術者の
方もこの駅の近くで仕事をしたことがあるらしく、妙な巡り合わせ
に驚きあったものです。ま、インド人技術者とシンガポールの結び
つきはメジャーなので、彼がシンガポールで仕事をしていたことは
別に驚きではないのですが。

 話を戻してこのMRT。これに乗って西の方へぐーっと行くと、
観光地「バードパーク」へ行くことができます。鳥さんの動物園で
すね。発音は「バーパー」という心持ちで言ったほうが通じるかな。

 またまた関係ないですが、特にシンガポールでは日本語の平板な
カタカナ発音よりも、イントネーションを強調した発音にしたほう
が通じるような気がしました。タクシーやバスで行き先を言うとき
にね。例えば僕が仕事をしたワールド・トレード・センター(ニュー
ヨークのじゃなくて、シンガポールのですよ)に行きたいときは、
タクシーの運転手さんに「ワートレセンタ」と言うほうが聞き取っ
てくれましたよ。ほんとかしら。

 話をまたまた戻してこのMRT、これに乗って東の方へぐーっと
行くと動物園があります。ナイトサファリをやってくれるというこ
とで観光客にも人気です(僕は真夜中にシンガポールの東のはずれ
で放り出されるのが怖かったので、ナイトサファリは行きませんで
した)。ここに行くときは最寄りのMRTの駅で降りた後にバスに
乗る必要がありました(10年前です。今はどうだかわかりません)。
いやまぁ、知らない土地でバスに乗るってのは怖いもんですね。た
とえそれが日本であろうと。世界各地、たいがい路面バスのバス停
の地図って大なり小なり破壊行為を受けていて読めたもんではあり
ませんし、たとえ読めたとしてもローカルすぎる地名は行き先判断
のよすがになるわけもなく。バスに乗るときはこの歳になってもい
つもドキドキしています。

 そうそう、シンガポールといえば2階建てバスが走っていたので
すよ。一度は乗ってみたいと思って、仕事帰りに乗りました。当然
2階に上がってみましたよ。
 ……酔いました。ゲロ。バス酔いしました。激しく。
 いやもう2階建てバスの2階席ってのは、平底舟に乗ってるよう
なものでした。身体も赤道下の熱気で参っていましたし。2階建て
バスの2階には2度と上がりませんでした。
 あと思い出すのが、シンガポールのバスは日本の都市部の市バス
のように統一料金ではなく、距離に比例した料金体系だったこと。
そしてそれが「前払い」だったこと。つまりバスに乗る時点で降り
る停留所と料金を覚悟完了していなきゃいけなかったのです。これ
は出張中の一見さんである僕にとっては凄いプレッシャーでした。
  
 バードパーク、動物園とくると、もう一つの観光地を挙げなけれ
ばならないでしょう。そう、セントーサ島です。間違ってもマーラ
イオン像ではありません。あんなの渋谷のモアイ像と大して変わり
はありません。まぁ、その代わりにセントーサ島に巨大マーライオ
ンが出来たという話ですが(僕のいたころは工事中でした)。

 そのセントーサ島ですが、MRTでいえばちょうど東西線の中間
地点あたりでしょうか。ワールドトレードセンターがあるあたりか
ら、ロープウェイ、船、タクシーなどで行くことのできるレジャー
島です。ロープウェイが通っているくらいですから、本土からそん
なに離れていません。すぐです。

 ちなみにこのロープウェイですが、丸みがかった小さめの可愛い
ゴンドラでした。現地の方に話を聞いたところ、このロープウェイ
の開業当初、1機のゴンドラがプラプラ揺れて、本土とセントーサ
島の間の海にポトンと落ちちゃったそうです。怖ぁー!
 ……いま考えると、その現地人にかつがれたのではないかと思え
てなりません。うーん、純粋だったのかも、当時の僕は。でもその
話が信じられるくらい、海越えのロープウェイは傍から見たらスリ
ルがあります。

 このセントーサ島、いろんな施設がまったりとあるのですが、ゲ
テモノ好きな方には昆虫館がオススメです。巨大ムカデ(というよ
り巨大なミミズにうしゃうしゃ足が付いているやつ。砂の惑星デュー
ンに出てきそうな感じです)や、タランチュラを見ることができま
す。

 他には当時日本でも流行っていたライドがありました。椅子に座っ
て3Dメガネをかけて、映像にともなってその椅子がガンガン揺れ
たり動いたりするやつ。ユニバーサルスタジオのバックトゥザフュー
チャーはその派生系ですね。
 「ダブルライド」って入り口で言われて「???」で鑑賞して、
さて出ようかなと思ったらまた動き出してびっくりしました。そう、
2本立てという意味だったのですね。

 そして忘れてはならないのが、砦です。名前忘れた。セントーサ
島の奥のほうなので、夏場は歩行行軍して行くのは大変なのですが、
赤道直下で万年夏なのであきらめて歩きましょう。トラムも走って
ます。ここは日本関連の戦史を見ることができます。「イエスかノー
か!」と迫った部屋も、終戦で逆に迫られた部屋も、蝋人形館ちっ
くに再現されていて興奮した記憶があります。戦史が好きな方には
オススメです。

 まったくまたまた関係ないのですが、ここで思い出すのが土産物
屋の女の子(たぶん二十歳前)に「日本語でウェルカムは何て言う
の?」と聞かれたこと(ウェルカムかサンキューだったかは実は忘
れました)。おぉ、これがよく東南アジア旅行記でよく耳にする
「勉強熱心な現地人の売り子さん」かとちょっと感動。そして誰も
がいだく「変な言葉を教えてやりたい」(もしくは「大阪弁を教え
てやりたい」)という誘惑をぐっと堪えて、ちゃんと教えてあげま
した。うーん、まだ純粋だったのですね、この頃の僕は。
 …いや、派生系として「まいど」も教えてしまったような記憶も
脳内から湧き上がってきました。あらら。

 さてと、熱い熱いシンガポール(絶対に漢字は「暑い」より「熱
い」とするほうが正しい形容です)の観光で疲れました。露天など
で売っているウォーターメロンジュースを飲んで、一休みしましょ
う。ちゃんと店員さんに理解してもらう発音の勝利の鍵は「ワター
メロン」だと思います。

 ……美味しいね、サクラコさん。 

 (ユキちゃん、今回はワタシの事、忘れてたでしょう)

 ……ご免なさい。だって…

 (言い訳は男らしくないわよ、ユキちゃん)

 ……だって…マサムネだもん。

 (はいはい、次はマレーシアね)

 ……だって…だって…