俺たちの夢、関ヶ原
第八話 大名勢揃いの大坂城

     (1)
『         7/17/1612
 一の谷氏、優勝!
 親愛なる遠くヨーロッパの読者の皆さん、私はここに素晴らしいニュースをお届けしま
 す。そう、我らが一の谷氏の『関ヶ原』合戦結果です。
 快挙、壮挙、そして暴挙とも言えるでしょう。さる七月七日に〈姉川合戦場〉で行われ
 た『関ヶ原』近畿地方予選〈ろ〉組決勝戦にて、なんと強敵浅井氏を破り、『関ヶ原』
 初出場を決めたのです! しかも堂々と一本勝ちで!
《七月七日・姉川合戦場》
 前日の〈い〉組決勝戦で、日本の西の君主である豊臣氏が『関ヶ原』進出を決めた、興
 奮の余韻がまだ残る(戦死者までもが残っていた!)合戦場は、快晴に恵まれた。天候
 は浅井氏に味方をしたのだ。なぜならば、正攻法が苦手な一の谷氏は、奇襲や伏兵戦術
 を使い易い大嵐を望んでいたからだ。
 合戦序盤は、美人武将、お市の方を中心とする密集重点突撃で、浅井氏が押しまくる一
 方的な流れとなっていた。防戦に徹する一の谷氏。
 だが、まず一人の男が試合の流れを変えた。一の谷氏先鋒騎馬隊の将が、勇猛果敢な反
 撃で、浅井氏の猛撃を食い止めたのだ。
 そして、攻勢限界点を迎えたかのように矛先が鈍った浅井氏を次に襲ったのは、地中に
 伏せていた一の谷氏伏兵隊の天神火牛と、忍者として浅井氏内部に潜入していた奇襲隊
 の青葉脱兎だった。天候が味方せずとも、兵を地に伏せ、闇に潜ませる、一の谷氏のあ
 くまで普通の戦はしない、という執念には恐れ入る。
 これにはたまらず、浅井氏は総崩れとなり、幕府の合戦奉行から派遣された審判の指示
 で、一の谷氏が勝鬨を上げた瞬間、優勝が決まったのだ!
《勝利者インタビュー》
 勝った一の谷氏の若き大名、一の谷望羊武将の、喜びの談話だ。
 「何もしていないのに、いつの間にか勝っていましたよ。まぁ、楽して合戦を楽しむと
 いうのは、我が一の谷氏の家訓ですから、それを忠実に守っただけですよ」
 確かに彼は何もしていなかった。
《敗戦者インタビュー》
 次に、負けた浅井氏の勇敢な大名、浅井長政武将の、悔しさがこもった談話だ。
「おのれぇーっ、南蛮人! 貴様、お市に何をしたのだ! お市は、あのような仕打ちを
 受け、おなごの屈辱じゃ、とうわ言を呟きながら、毎晩うなされておるぞ!」
 こう叫ぶと、長政殿は単なるレポーターである私に、斬りかかって来た。『関ヶ原』出
 場を逃したショックは、私たちが想像する以上に大きいようである。
《近畿地方大会記録》
〈代表大名〉
  豊臣氏 (大坂藩)四回目(四回連続)
  一の谷氏(神戸藩)初出場
〈最優秀武将〉
  加藤清正 (豊臣氏)
〈技能武将〉
  天神火牛 (一の谷氏)
〈首取り番付〉
  一、福島正則 (豊臣氏) 78首
  二、真柄直隆 (朝倉氏) 64首
  三、お市の方 (浅井氏) 52首
  四、加藤清正 (豊臣氏) 48首
  五、鈴木孫市 (雑賀衆) 41首
  六、可児才蔵 (豊臣氏) 36首

 さあ、一の谷氏の若き戦士たちよ。『関ヶ原』が君たちを待っている!
 いざ征かん、あこがれの大地へ!
 『関ヶ原』は九月十五日に戦われる。雨天決行。もちろん私も参加し、日本中を揺るが
 す一大イベントの記事を、ヨーロッパにお届けする!
 運命の日まで、さらば、親愛なる読者よ。  レポート ラッキー・ピシーズ
             コウベにて』

 ここまで書き終えるとペンを机に置き、異国から来た勇猛な武将は、手の甲で額の汗を
拭った。
「ラッキーさん、それは故郷に送る瓦版の記事なの?」
 銀色がかった長いさらりとした髪が、ラッキーを後ろから覗き込んだ。
「雪待サン」
 ラッキーは慌てて原稿を両手で覆うように隠した。雪待は英語が読めるのである。港で
外国人相手の交渉で必要なのだそうだ。
「御免なさい、勝手に覗き見して」
 雪待は柔らかな声で謝った。
「武将として『関ヶ原』に参加していることは、内緒にしているのね。惜しいわね、せっ
かく首取り番付の七位に入ったのに」
「いえ、いいのデス」
 多少ごまかしのある記事を読まれて、ラッキーは照れた。
「他の皆サンを見掛けませんけど、武術の修行をしているのデスか」
「いいえ、今日は大坂城で『関ヶ原』の陣分け抽選会があるの。望羊、六馬と雪見の三人
が行っているわ」
「なにやら騒がしいようデスけど」
「あぁ、あれね」
 雪待は口元で笑った。
「残った脱兎たちが、抽選結果の予想をしているのよ。徳川幕府側になるのか、豊臣太閤
側になるのかってね」

 一の谷氏の屋敷の大広間では、中央に広げた絵図を取り囲んで、武将たちが議論をして
いた。
 いや、一の谷氏の毎度の軍議の時のように、誰も正座も胡座も組んでいない。好き勝手
に足を崩したり柱にもたれたりして、しゃべり合っているだけだ。当然のように、菓子や
軽食もでていて、リラックスした雰囲気になっている。
「これが、『関ヶ原』の地図デスか?」
「あっ、ラッキーさん。そうだよ、これがかの〈大関ヶ原合戦場〉の絵地図だよ!」
 脱兎が、飛び跳ねてラッキーの隣に並んだ。そして、ラッキーが頼む前から、目を輝か
せながら解説を始めた。
「東側の平地が徳川幕府側、西側の山裾にかかっている高地が豊臣側なんだよ。どちらも
基本的には北から南へ部隊を向かい合わせに並べて、戦線を引くように布陣するのさ」
「徳川将軍ドノと豊臣ドノの陣だけは位置が書かれているデスけど?」
「うんっ!徳川家は、東側の陣の後方の桃配山、豊臣家は西側の陣の最北端の笹尾山に布
陣する、というのは伝統的に決まりになっているんだ!」
「アタイは見晴らしがいいから笹尾山に陣どりたかったんやけどね」
 七夕が会話に割り込んできた。
「アタイ、よく『関ヶ原』のことは聞かされてきたのよ。ほら、雑賀衆は前回の『関ヶ原』
に出場したでしょう。アタイは、まだ子供だったから、応援にも連れて行ってもらえなかっ
たけどね」
「じゃぁ、〈大関ヶ原合戦場〉には詳しいデスか」
「ヘヘッ」
 七夕は嬉しそうに、照れ隠しに鼻の頭をこすった。
「じゃあ、説明するわね。いい、脱兎?」
「むぎゅ!」
 脱兎は、七夕に強引に押し退けられて、目に降参マークを浮かばせながら、ぴょんと一
歩下がった。
「徳川将軍側、つまり東軍ね、の多くは豊臣軍と向かい合っている戦線部に陣を構えるの。
あと残りは、桃配山の東側に布陣するわ。後方警戒ね」
「豊臣側はどこに配置するデスか」
「西軍も基本的には東軍と向かい合わせで戦線を張るの。北から、太閤さんの松尾山、天
満山、そして合戦場の西南部を占める松尾山よ」
 七夕が絵図を一つ一つ指差しながら、説明をする。
「ほら、よく見て。最南端の松尾山の陣は、西軍の戦線の一部というより、東西両軍戦線
の横腹を睨むように北を向いている感じがするでしょう?」
「だからサ」
 饅頭を噛みながら両虎が首を伸ばしてきた。
「松尾山の陣を引き当てた大名は、だれでも悩むのさ。東西どちらの軍に味方しようかっ
て」
「ご謀反デスか?」
 ラッキーは、熱心にメモを取りながら聴いている。
「おっ、ラッキーさんよく知ってるね。そう、『関ヶ原』では裏切り自由なのさ。首を取
りまくりさえすれば、幕府からの合戦後の恩賞は上がるんだからね。でも、東西の軍がい
きなり衝突する戦線部じゃ裏切り反転攻撃はしにくい…」
「だから、戦況を傍観できる、少し離れた松尾山は、行動の自由があるデスね」
「そうよっ。次はアタイね」
 七夕が、両虎に団子を渡して黙らせる。
「あとはずーっと離れた、南東部の南宮山よ。ちょうど徳川将軍家の陣の後方南に位置す
るわ」
「背後を取っているデスか」
「アカンのよ。戦場から遠すぎるの。攻めかけても、相手にぶつかる前に、逃げるなり防
戦準備するなりされてしまうわ」
 七夕は、祈るように手を前に組み合わせた。
「どうか、うちのなまけものの大将の望羊が、南宮山の陣を引き当てないように…」
 ラッキーはだんだんと分かってきたが、まだなんだかルールがはっきりしていないよう
な気もしていた。
「ラッキーさん」
 雪待が、差し入れの西瓜を持って現れた。
「もともと、徳川家と豊臣家の直接戦争の代案として始まった『関ヶ原』ですもの、ルー
ルは政治情勢によって変わるわ。だから、あいまいな部分もあるのよ」
 雪待は元気な若武者たちの感謝を受けながら、西瓜を配っている。
「それに、まだ三回目ですしね」
 まだ、出来立てのスポーツなんだな、とラッキーも自分を納得させた。
「要は暴れ回ったらいいのサ! でも俺はラッキーさんみたいに、美しい女武者を足蹴に
なんてできないけどさ」
 両虎が茶化す。
「まったくよね。倒した武将を踏んづけて恥ずかしめる趣味が、ラッキーさんにあったな
んて、意外だったわ」
 雪待が、口を軽く手で押さえて、ラッキーを避ける仕草をする。
 満座の若武者が、爆笑した。
「オー、私はよく覚えていません」
 ラッキーは恥ずかしくなって、真っ赤な西瓜にかぶりついた。

     (2)
「やぁ、すごい城だなぁ。僕が東国を旅したときには、こんなに立派な城塞には出会わな
かったよ」
 望羊たち一行がいるのは、大坂城二の丸の屋敷である。
 そこからは大坂城の五層の天守を東に望むことができる。さすが、日本一の城だ。壮麗
にして剛健な構えは、見上げるものを圧倒する。
 この大坂城と、商都大坂の経済基盤があったればこそ、豊臣氏は江戸の徳川幕府と対抗
できているのだ。
「皆んな、緊張しているね。私、神戸で待っていた方が良かったかしら」
「うん、しかたないよ。これからの抽選会で『関ヶ原』の陣や敵味方が決まるんだから」
 六馬は雪見を安心させるように、いつもよりも元気な声を出そうとしている。
「でも、なんだかワクワクしてこないかい。有名な武将が沢山ここにくるんだよ」
 三人は、広間に入っていった。すでに半数ほどの大名家が来ていて、着座している。
「さすがに、贅沢な作りをしていますね。金がかかっていますよ、これは」
 望羊は部屋の空気がどんなに重くても、いつも通りののんびりした顔で、扇子を弄びな
がら、部屋を見回している。
「ここにしましょう」
 望羊は広間の一番後方の隅の席を選んだ。
「私たちは初出場ですからね。少しは遠慮しないと」
「望羊、居眠りするつもりでしょう!」
 とからかったものの、雪見は本心では、隅の気楽な位置に望羊が座ってほっとしていた。
 望羊は聞こえなかった振りをして、扇子でパタパタ胸元を扇ぎ始めた。

 抽選会開始半刻前、続々と『関ヶ原』出場大名が大広間に集まってきている。
 各地方には、概して圧倒的に有力な大大名というものが存在している。このため、同じ
大名が連続して『関ヶ原』に出場する傾向がある。一の谷氏のように突然初出場を果たす、
といった大名は、下剋上の世とはいえ少ないのだ。
 強豪大名家同士では、以前の『関ヶ原』で戦い知り合っている場合もある。大広間のあ
ちこちでは、そのような武将たちが、再会を喜び、情報の交換をし、腹の探り合いを始め
ていた。
 一の谷氏の三人は、そんな風景をぼんやりと眺めていた。こういう場合、新参者は居場
所がなくて、手持ち無沙汰になるものだ。
 望羊は、そんな周りの光景は何も気にしていないようで、積極的に外交を実行するつも
りなどまったくなさそうである。
 雪見は退屈をしていた。六馬はさっきから天井を向いて、空想に耽っている。どうせ、
『そらあお』のことでも考えているのだろう。話し相手になってくれてもいいのに、と雪
見は不機嫌に、正装している六馬の直垂の裾を指先でつまんで弄んでいた。
「あれっ、雪見じゃないの!」
 その時、威勢のいい声が後ろから呼びかけてきた。
 振り向いた雪見の目に、トビ色の髪が飛び込んできた。早緑だ。
「そうかい、雪見の一の谷氏も『関ヶ原』に出場できたんだね。おめでとう!」
「この前はありがとう、本っ当に助かったわ。でも、またこんなに早く、早緑に会えるな
んて、思ってもいなかったわ」
「毛利氏も出場するからね。今日は小早川さまのお供なんだ」
 雪待は、急に元気がでてきて、早緑との談笑を楽しんだ。『関ヶ原』に出れてよかった、
と思いながら。

「六馬、今回の『関ヶ原』出場大名の一覧がきましたよ」
 望羊が、接待役の大坂城の若侍から受けとった紙を、六馬にも見えるように広げた。
「えっ、どれだい、望羊。僕たちの名前も載っているかな」
 六馬は、胸をときめかせながら、その紙を覗き込んだ。

『《第四回 関ヶ原合戦選手権 出場大名》
〈関東地方代表〉
・徳川氏(江戸四〇〇万石) 四回目 
  大名 徳川家康
・北条氏(小田原四〇万石) 三回目
  大名 北条氏康
〈近畿地方代表〉
・豊臣氏(大坂二二〇万石) 四回目
  大名 豊臣秀吉
・一の谷氏(神戸二〇万石) 初出場
  大名 一の谷望羊
〈東北地方代表〉
・伊達氏(仙台五八万石) 二回目
  大名 伊達政宗
・最上氏(山形二四万石) 初出場
  大名 最上義光
〈北陸地方代表〉
・上杉氏(春日山五八万石) 四回目
  大名 上杉謙信
・畠山氏(七尾一〇万石) 初出場
  大名 畠山義隆
〈東山地方代表〉
・武田氏(甲府六三万石) 三回目
  大名 武田信玄
・村上氏(葛尾一二万石) 二回目
  大名 村上義清
〈東海地方代表〉
・今川氏(駿府四九万石) 三回目
  大名 今川義元
・織田氏(名古屋一二三万石) 四回目
  大名 織田信長
〈中国・四国地方代表〉
・毛利氏(広島八三万石) 三回目
  大名 毛利元就
・尼子氏(月山富田二六万石) 二回目
  大名 尼子晴久
〈九州地方代表〉
・大友氏(大分五五万石) 三回目
  大名 大友宗麟
・島津氏(鹿児島四五万石) 二回目
  大名 島津義久
         以上十六大名家也 』

「ふーっ、凄い顔ぶれだね。一の谷氏なんて弱い大名から数えた方が早いや」
 一覧表を見終えた時、六馬の顔は紅潮していた。
「そうですね。これじゃぁ、まともに戦ったら命がいくつあっても足りませんよ」
 望羊はにやにやしながら、まだ一覧表を見入っている。
「南宮山あたりの楽なところで傍観といきたいですね。『関ヶ原』出場を決めた時点で、
まずお家取り潰しは免れたでしょうから」

 大広間が、しんと静まり返った。将軍徳川家康と、太閤豊臣秀吉が入場してきたのだ。
この『関ヶ原』合戦選手権という機構を作り出した張本人、戦国の二大怪物である。
 一斉に頭を伏せる諸大名。徳川・豊臣の二大名で、全国の石高の三分の一を占める。威
信が違うのだ。
 右と左に並んで正面に座する家康と秀吉。
「前回の『関ヶ原』で西軍が破れたために、大坂城は自分の居城でありながら、宿敵家康
を上段にあげていますね。これは秀吉にとっては屈辱でしょう」
 望羊が心のそこから楽しそうに、小声で六馬に話しかけてくる。
「双方とも、いつか相手を見下ろしたいと思っていることでしょうに」
「僕は、今回秀吉さんが負けたら危ないって聞いたけど」
「その通りです。西軍は二連敗中ですからね。これ以上徳川家との石高の差が開いたら、
いくら秀吉が経済力をもっているからって、危ないと思いますよ」
 望羊は心底から、他人の喧嘩が好きなようだ。
「『関ヶ原』に頼ったお遊び的な休戦状態を破って、直接大坂攻めの大号令を下すかもし
れませんね」
「秀吉さんが支配していた堺は、僕たちが燃やしちゃったしね。収入が減って怒っただろ
うなぁ」
 と冗談まじりに言って、六馬は、乱を期待している口ぶりの望羊に笑いかけ、目を覗き
込んだ。
「そうそう、秀吉の恨みを買っていたことをすっかり忘れていましたよ」
 望羊は、昔に成功したいたずらを思い出したように、心がくすぐったくなるのを感じた。

 抽選会が始まった。東軍か西軍か、希望は一切聞き入れられない。全ては抽選で決めら
れるのだ。
「家康と秀吉が、各大名の自陣営への取り込み合いを行うのを防ぐための処置ですよ。両
者の調停をした第三勢力の中大名たち、上杉氏や武田氏、が休戦の条件として提案したの
です。つまり、徳川氏や豊臣氏への従属化を嫌ったのですよ」
 望羊は雪見のために、淡々と説明をしている。
「でも、望羊なら頼みこまれても高みの見物をするんでしょうねっ!」
 雪見が、望羊の耳元でワッとばかりに叫んだ。早緑と会って、すっかり調子が戻ったよ
うだ。

「『関ヶ原』の陣分けは、以下の通り決定いたしました。おのおの方のご健闘を期待いた
しまする」
 司会役の坊主が、抽選会の閉幕を宣言した。
『〈東軍〉(定員八大名)
 徳川氏・最上氏・北条氏・畠山氏・武田氏・今川氏・織田氏・大友氏
 〈西軍〉(定員五大名)
 豊臣氏・上杉氏・村上氏・一の谷氏・尼子氏
 〈松尾山〉(定員一大名)
 毛利氏
 〈南宮山〉(定員二大名)
 伊達氏・島津氏          』

「決まりましたね、いやいや、西軍ですか。秀吉に謝っておかなければいけないですね」
 望羊は、自分の籤運の悪さを呪った。どうして大激戦地域の陣を引き当てたのだ! 彼
は、『関ヶ原』の広々とした平野を見渡せる山上で、他の大名が戦っているのを見物しよ
うと企んでいたのだ。
「まぁ、戦好きの雪待は喜ぶかもしれませんね」

「謙信公と同じ軍だ。一緒に馬で駆けられたら素敵だな」
 六馬は、『そらあお』と、謙信の月毛の名馬が並んで走る様を想像し、想いを『関ヶ原』
に馳せた。

「早緑と陣が同じじゃないのか。残ぁん念!」
 雪見の感心は、その一点だけにあったのだ…。