俺たちの夢、関ヶ原
第七話 六馬・雪見の諸国漫遊記

     (1)
 六馬がぷいっと出て行った。『関ヶ原』近畿地区大会〈ろ〉組二回戦で足利将軍に勝っ
た次の日の事だった。
 私はびっくりして、何も考えずに『はつはな』に飛び乗って、必死になって六馬を追い
かけた。『はつはな』は、私の愛する白馬。六馬の『そらあお』には適わないまでも、日
本では五本の指にはいるくらいの名馬じゃないかしら。何て言うか、気品があるの。
 六馬の行き先は望羊から聞いたわ。全国で行われている『関ヶ原』予選を見て回るんだっ
て。偵察らしいけど、早い話が、足利将軍をちょっと汚い手で討った事のほとぼりを冷ま
すというのが、本当の目的じゃないのかなと思う。
 雪待姉さんに話しても怒るだろうから、勝手に出て行く事にしよう。
 それで、六馬の最初の目的地は、中国・四国地方大会の決勝戦が一番早いからそこだろ
う、って望羊が言ったから、私は山陽道をめいいっぱい飛ばして下ったワケ!

《中国・四国地方大会》
「どうも、ありがとう。本当に助かりました」
 お礼を言っているのは私。
「お安い御用だよ。よかったら、帰りも乗ってったらどう? 雪見と一緒にいるとなんだ
か楽しいから」
 相手の娘は、毛利水軍の将で、名前は村上早緑。男勝りの性格だけど、とっても親切な
んだ。
 中国・四国地方〈い〉組の決勝戦が安芸国(つまり広島のへん)沖に浮かぶ小島で行わ
れるの。でも船が無くて困っていた所を、ついでだけどって、早緑が軍船に乗っけてくれ
たのよ。
 早緑の毛利氏は〈ろ〉組の決勝で四国の長宗我部氏を破って、すでに『関ヶ原』出場を
決めているんだって。だから、敵情視察ってワケね。
「六馬、とかいったね、雪見が追っかけてる彼は。見付かるといいね!」
 こう言って、早緑は毛利氏が集まる場所へ戻った。小早川って大将と一緒に観戦するそ
うだ。
 〈厳島合戦場〉は瀬戸内に浮かぶ小さな島がそのまま合戦場になっている。今日決勝戦
を戦うのは、岡山の宇喜多氏と山陰の尼子氏なの。
 狭い島だから、六馬はすぐに見付かると思ったんだけど、狭いだけあって合戦に巻き込
まれてしまったわ。宇喜多氏が、港や神社に放火したり(どさくさで毛利氏の船も燃やし
たそうだ。このへんは雪待姉さんと似ていて、セコイ)して、観客も右往左往して逃げ回
りっ放し。これじゃ、六馬を探すどころではなかった。
 試合は、尼子氏の優勢勝ちで終わった。尼子十勇士と名乗る変なお兄さんたちが、すぐ
に降参しようとする尼子の大名様を大木に縛り付けて、好き勝手に暴れたら勝ってしまっ
たらしいの。宇喜多氏の秀麗な顔をした御曹司は、すごく悔しがっていたようだけど、気
持ちは分かるわね。

《九州地方大会》
 厳島には、六馬はいなかった。早緑も、毛利氏の皆んなに聞いて回ってくれたんだけど、
それらしい男は誰も見なかったって。
 じゃあ、どうしようかと考えていたら、早緑が誘ってくれた。
「私、これから九州大会の偵察にいくんだけど、雪見も一緒にこない? 瀬戸内海を船で
走った方が速いし楽だよ」
 私は、すごく嬉しかった。これこそ渡りに船ってことね。しかも早緑と一緒に船旅がで
きるなんて。
「こんなの旅とはいえないよ。散歩みたいなもんよ」
 と、早緑は軽く言ってのける。カッコいいわ。
 私たちが乗っているのは、関船といって、細身の快速船。私たちの一の谷氏は、大きな
港はもっていても、情けないけど海軍はないの。だから、こんなにいい船に乗るのは初め
てだった。
 ウキウキしていると、早緑が一人の武将を連れてきた。
「今日も良い天気じゃ。梅雨は晴れたのかのう。おっと、お初に御目にかかります。小早
川隆景と申しまする」
「わっ、私は天神雪見。姉一人、兄一人がいます…」
 私はびーっくりした。毛利氏の両川といわれる、小早川と吉川の二人の有名な武将のう
ちの一人じゃないのよ。その後の会話でも、緊張していて、とんちんかんな返事を続けた
ようだ。
 その小早川さまは、じゃ、と笑顔を残して去ろうとして、思い出したように足を止めた。
「そういえば、近畿地方予選で一の谷氏はまた勝ったようですよ。次は準決勝ですね。い
や、失礼を承知で申し上げると予想外の快進撃ですよ。はっはは!」
 そして、白い歯を豪快に見せつけて、自分の乗船へと帰っていった。
 うーん。確かに一の谷氏はいつ負けてもおかしくない弱小大名の筈なんだけど。雪待姉
さんもやってるわね。
 早緑は、小早川さまに憧れているんだって。年上の頼れる人、しかも知性派で歯が白い。
分かるような気もするわね。それとも早緑って、有名人好みなのかな。

〈チェーッ!〉
〈キェーッ!〉
 私の目の前で行われているのは、開始直後から一方的な試合だ(ラッキーさんなら、ワ
ンサイドゲームと表現するだろう)。それにしても、相手がもう弱気になって崩れそうな
のに、手を緩めない突撃と射撃のすさまじさといったら、本当に怖い。これに比べたら、
近畿地方の戦いなんて穏やかなものだわ。
 私がいるのは〈耳川合戦場〉。で、行われているのは九州地方大会〈い〉組の決勝戦、
薩摩の島津氏対日向の伊東氏。
「九州地方はね、島津と大友、そして龍造寺の三大名がずば抜けて強いの。だから、いつ
も予選でこの内の一者が潰れるんだけど、島津氏は組分けの抽選結果が、幸運だったよう
ね」
 早緑が教えてくれた。〈ろ〉組の決勝は大友氏対龍造寺氏だそうだ。
 それにしても、今、合戦場では敗勢の伊東氏も強いと思うよ。両軍の先鋒がぶつかった
時の音で分かるもの。それを軽々と崩すんだから、島津氏は恐ろしいわ。万一私たち一の
谷氏が『関ヶ原』に征けても、お相手したくないわね。
 結果は(それでも伊東氏の大将だけは頑張って踏み止どまったけど)二刻で島津氏の圧
勝とあいなりました。
「六馬って子、いなかったわね。空色の馬って珍しいから、見ればすぐに気が付くんだけ
どさ。でも、次の二強対決の試合には絶対に来ると思うよ」
 早緑が励ましてくれる。
 でも、私はすさまじい九州の合戦に驚いていて、六馬のことはすっかり忘れていたのだ。
私としたことが…。六馬っ、御免!

 雨が降っている。蓑を着ているとはいっても実際はびしょぬれだ。もうっ、なんてツイ
てないの!
「せっかくの大決戦なのに、雨なんて。残念ね。九州の人は『関ヶ原』まで観に行ける人
は少ないの。その代わりに、多くの人々は、この決勝戦を楽しみにしているのよ」
 早緑もトビ色の髪を濡らしながら、私に同意してくれた。
 ここは肥後国、熊本からちょっと北に行ったところにある〈田原坂合戦場〉。でも、ど
うしてわざわざこんな所で、決勝戦をするのかな?
「大友氏も龍造寺氏も、敵の領内で戦うことを拒否したのさ。それで、加えて島津氏の領
国でもない肥後が会場に選ばれたのよ」
 うーん、さすがは早緑、なんでもよく知っているワ!
 今度も六馬は見当たらない。というよりか捜し出すことが不可能なの。なんせ、この雨
だし、合戦場には対戦する両大大名の兵と九州中から集まって来た観衆が、合わせて十万
人以上いるんだから!
 そんなことを考えながらぶつくさ言っていたから、合戦が開始されて、あたりを轟かす
大声援が起こった時には、びっくりして尻もちをついてしまった。これで、服は泥だらけ
になってしまった。泣きたいワ…。
 でも、そんな事も合戦が始まると気にならなくなった。
 凄まじいのよ。両軍とも思いっ切り、死力をつくして押し合って、斬りあって、突き合っ
ているの。策も連携もあるように思えない。ただ、全隊が重量級の馬力を出して驀進して
いるのよ。
「雪見、あそこを見て。大友氏の立花隊が突破するわ!」
 私と同じく無言だった早緑が、一点を指した。
 あっ、すごいすごい。杏葉を描いた大友氏の旗が、ぐいぐいぐいと押している。それを
止めようと、龍造寺氏から茗荷の旗印の遊軍が側面から食らい付く…。

「道雪殿、いざ勝負!」
 龍造寺氏遊軍の若き武将が叫ぶ。鍋島直茂、龍造寺氏の副将である。
「迅速に兵を率いての急襲は良し!」
 籠に乗った法体の武将は立花道雪、相手をまず褒めた。
「しかし、この雷の化身道雪とやりあうには、まだ若い。ムーンッ」
 気合いで太刀を振るうと同時に、ドーンッと雷音が轟き、合戦場が揺れる。
「無念っ、この次こそは鬼道雪の首を…」
 弾き返されるように突破された直茂は、唇を噛んだ。

「大友氏が勝ったわね。感動したわ…」
「雪見…。六馬クン、いなかったわね」
 早緑が慰めてくれる。
「神戸港まで、送るわ。もう西国では今年の『関ヶ原』は終り。合戦はもう残ってないの
よ…」
「早緑、ありがとう。あなたと会えて良かったわ」
 私は、早口になっていた。
「ううん、私なら大丈夫よ。元気なんだから…」
 ところが、それ以上言葉が出なかった。私は、合戦の興奮から覚めて、現実に戻って、
急に体が震えてきて、どうしてか涙を流していたのだ…。

     (2)
 梅雨の合間の五月晴れの日に、僕は京にいた。そして、鴨川に沿って『そらあお』と一
緒に、思いっ切り駆けたんだ。
 僕の住む、一の谷氏の土地、神戸藩は平な平地が少ない。山と海がくっつきすぎている
んだ。それは、僕と『そらあお』にとっては、少し残念な点なのだ。
 だから、梅雨で雨が続いていたせいもあるけど、京での野駆けで(正確には京の町の通
りだったんだけど、平地は平地さ)僕と『そらあお』は、久し振りにすっきりした気分を
味わった。
 実際は、おてんばでそそっかしい雪見と、美しい白馬『はつはな』もいたんだけど、あ
まりにも気持ちが良かったから、僕は彼女たちの存在をすっかり忘れていた。
 で当然、雪見は怒った。そして、手をばたばたさせながら言ったんだ。今日は『関ヶ原』
合戦選手権の近畿地方予選の試合日だから、さぼっちゃだめだって。
 実を言うと、こちらの方も完全に、僕の頭の中から放り出ていた。
 それで、さすがに『関ヶ原』は無視したくなかったので、少し休んでから〈洛中合戦場〉
に駆け込んだんだ。京の町は混雑していたけど、僕の騎馬隊ならどうということはない。
いつも地元で曲りくねった山道を、木々を避けながら走っていたから。人だって、同じよ
うに躱したらいいだけさ。
 望羊に皆んなの居場所を聞いた。将軍様の御所にいるって言うから、乗り込んで、味方
じゃない武将を倒して、さっさと引き上げたよ。
 そして、もう一度野駆けに戻った。だって、梅雨だったから、また今度いつ晴れるか分
からなかったから。
 そうして、『そらあお』を飛ばしていたら、いい考えを思い付いたのさ。つまり、『関ヶ
原』の前に、もっと広い平野へ行って『そらあお』と楽しく自由に駆け回れないかな、っ
て。
 で、帰ってそれを大将の望羊に話したら、じゃぁついでに他の地区の偵察もお願いしま
す、と言って、笑って許してくれた。うちの大将はもの分かりがいいね。
 こうして、僕は『そらあお』と旅立った。馬を駆るなら関東、坂東平野がよさそうだ。
 さあ、『そらあお』東へ征こう!

《関東地方大会》
 東海道をひたすらに突っ走って(これもかなり気持ちが良かった)ようやく関東に辿り
着いた。
 宿で情報を仕入れると、『関ヶ原』関東地方予選の一方の決勝戦が、一週間後にあると
いうことだった。その試合には、徳川将軍が出場するらしい。
「将軍さまが自らご出馬されるなんて、カーッ、いきじゃねえか!」
 なんてことを、酒場で同席した威勢のいい兄ちゃんは言っていたっけ。でも、大名本人
が出なければいけない、ってのは、合戦の決まりだったんじゃないのかな。
 ちなみにもう片方の組みの『関ヶ原』出場大名は北条氏に決定していた。手堅いところ
だね。
 それで合戦日までの一週間、僕と『そらあお』で関東中を走破したのは、言うまでもな
いかな。大満足さ。
 あっという間にその日が来てしまった。合戦は下総の〈国府台合戦場〉で行われる。僕
は〈江戸城下合戦場〉を見たかったんだけど、仕方ないか。
 徳川将軍家の不運な相手は房総の里見氏である。
「な、なんなんだよ、これは!」
 合戦場に着いて、僕は驚愕した。『そらあお』も興奮している。布陣の時点から、戦場
の大半が徳川家の兵で埋まっていたのだから。
 国府台の台地を占める里見氏五千兵を、四方から包囲する体制で徳川氏八万の大軍勢が
ひしめいているのだ。台地の側を流れる利根川の中にさえ、徳川家の葵の旌旗が立ってい
る。
 合戦は一刻でカタが付いた。十倍以上の兵を相手にしては、里見氏も抵抗のしようが無
い。
 将軍の御出馬を見にきた江戸の観衆は熱狂して、喝采したり喚声を上げたりで、まった
く満足のようだ。
「行こうか、『そらあお』」
 僕が促したら、『そらあお』はすぐに同意する嘶きを上げてくれたよ。
「江戸の町民って、圧倒的に強い軍が相手を叩き潰すのを、安心しながら観戦するのが、
好きなんだろうね。まぁいいや、さあ、次は奥州に行こう!」

「圧勝で御座りましたな。祝着至極に存じます」
 本多忠勝、徳川家一の武者である。
「しかし、全軍を動員しなくとも良ろしかったのでは…」
「いや」
 将軍家康はかすかに笑んだ。
「大坂の豊臣家を畏怖させる必要がある。猿面の秀吉めを、今回の『関ヶ原』で叩けるだ
け叩いておくのじゃ」
「御意。そして、弱ったところで、例の計画を発動するのでご座りますな」
 傍らに控える軍師、本多正信が追従する。
「例の計画、遂に大坂攻めを…」
 忠勝は、絶句した。家康公と軍師めは、『関ヶ原』までを、政治の延長として利用しよ
うとしている。戦を愛する彼にとっては、好きになれない考え方だった。

《東北地方大会》
「あーっ、残念だよ。『そらあお』も観たかっただろう。昨日とってもいい合戦があった
そうなんだ」
 そう、本当に惜しいことをしたよ。
 東北地方予選〈い〉組決勝が、昨日〈摺上原合戦場〉で行われた。最近めきめきと力を
つけてきた米沢の伊達氏が、大激戦の末に、前回『関ヶ原』出場大名の芦名氏を破ったの
だ。
 会津では、その話でもちきりなんだ。地元の芦名氏が負けたことで皆んな悔しがってい
たけれどね。
 東北地方予選〈ろ〉組の方は、山形の最上氏対常陸の佐竹氏。合戦日はまだ先だが、双
方の大名とも謀計が得意なので、その日までの毒盛りとか闇討ちとかの策略の成否で、勝
負がつくのではないか、という予想を合戦通の人々はしている。
 面白くなさそうだから、会津磐梯山の勇姿を見ながら、のんびりと『そらあお』と野駆
けを楽しむことにした。

《北陸地方大会》
 日本海を見ながら駆けるのは初めてだった。瀬戸内海の穏やかな波とは違う顔を持った
海は、新鮮な印象を心に残した。
 でもそこで、もっと心に焼きけられる合戦を、僕は見たのだ。
 場所は加賀の〈手取川合戦場〉。ここで、僕は軍神を見た。
 『関ヶ原』北陸地方大会決勝戦に出馬したのは、強豪上杉氏。
 上杉謙信、の名なら僕も聞いたことがあるが、まさかこれ程に強いとは…。
 謙信公の相手は、地元加賀の一向一揆。おいおい、そんなに不思議そうな目で見ないで
くれよったら、『そらあお』。僕だって、幕府がどうして一揆に出場権を与えたのか、な
んて知らないよ。とにかく、上杉氏八千人の相手は、一向一揆二十万人だったんだ。
 これは、関東大会の徳川家の合戦よりも酷い、と僕は思い込んでいた。でも『そらあお』
は何かを期待しているようだった。
 合戦が開始されても、上杉氏は動かなかった。一刻、二刻と経っても微動だにしなかっ
た。三刻の後に、やっと一隊だけを進ませたら、その隊は圧倒的な兵力差で破れて敗走し
た。一揆勢が得点を取った。
 ここで、合戦経験のない一揆勢は命を惜しんだんだ。時間切れ逃げ切りの判定勝ちを狙っ
たのだ。四刻経った日没直前、謙信は一揆勢の勝利を目前にした慢心を突いた。上杉軍の
猛撃が始まったのだ。
 僕は、その上杉軍の攻撃が今だに信じられない。僅か一刻弱で、二十万の軍を全て壊走
させたんだから。
〈戦の最中に勝利を手にしたと思い込んだ者は、それを無事、持ち帰りたいがために命を
惜しむようになる〉
 突然、僕の心に声が、空中を漂う波のように、染み込んできた。『そらあお』もきょろ
きょろとあたりを見回して、動揺している。
「謙信公なのですか!」
 反射的に勘で叫んでいた。
「でも、敵の心を読むなんて、神技です…」
〈戦勝の神、昆沙門天が教えてくれる。正義のこころを持つだけで良いのだ〉
「正義の心?」
〈いづれお主にも分かろう。『関ヶ原』で戦おうぞ!〉
 それを最後に、謙信公の声らしきものは、僕の中から消え去った。
 その時、僕と『そらあお』は、月毛の立派な馬と擦れ違った。乗り手は精悍な気を放ち、
兜に白絹を巻いていて、武士のようだ。
 その武士が、僕に囁いた。
「一の谷氏は決勝進出を決めたぞ。そろそろ戻らなくても良いのか」
 はっとして、あやうくその武士の名を呼ぶところだった。上杉謙信、と。
 だが、謙信公はそれを目線で遮ると、『そらあお』にちらと視線を移し、すぐに去って
行った。
 僕は、知らずにあの上杉謙信と直接話をしていたのか。感動で、眩暈がするよ。それに
しても、僕を知っているとは、上杉氏はすごい情報網をもっているようだ…。

 そろそろ旅を終りにするか。本当に良い旅だった。名残り惜しいや。
 それでも、決心した僕は『そらあお』を駆って、北陸道から琵琶湖を回って、長く留守
にした神戸藩に辿り着いた。
 待っていたのは、雪見と『はつはな』だった。
 雪見は、僕を見るなり手をわさわさとさせながら怒った。怒りながら泣いていた。
 肩が震えていた。手を差し延べると、僕に飛び込んできた。
 そして楽しかったか、と聞いてきた。
 僕が、「うん」と答えると、濡れた目を光らせながら笑って、一の谷氏が『関ヶ原』に
出場が決まったの、と教えてくれたよ。