「…あれは…」
晴明達が去った後。不意に二つの気配が同じ場所に現れる。隠れていた訳ではなく、晴明と同じように何かを追って来たらしい。
こちらは、背の高い男と艶やかな黒髪の女の二人連れ。薄茶色で柔らかい髪質の晴明と違い、闇に溶けそうな風情である。
晴明達の立ち去る様を視線で追い、女の方が眉を寄せる。微かに記憶に引っかかるものがあったらしい。
『陰陽師のようですね。それもかなり力のある』
「…高知麻呂」
低い呟きに視線を上げる。
それは、現代社会において殆ど重要視されなくなった職業。職能として、『ない』とは言わないが、基本的には認知されない物である。
『調べましょう。事によったらいい餌になる』
「…そうだ、な」
男の言葉に一瞬躊躇する。気取られないように息を吐き、表情を隠す。
『では報告もあります故、宮に戻りましょう。王がお待ちです』
「…あぁ」
女が頷くのを合図に、二人はその場から音もなく掻き消えた。
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