The Summer feature





 …ハイネセンの北半球が夏になりました。
 だから、イゼルローンも夏になりました。
 毎度おなじみの、空調ぶっ壊れの夏です。
 アキヤマ隊長が、変な事をする、夏です。
 …あ、いや。
 隊長はいつでも妙な事を企画してるんだけど。それがまた結構、楽しいんだけど。
 じゃなくて。


 とにかく毎日暑いなぁ…って、事です。


 なんか、楽しい事ないかな?
 どうせお休みなんて殆どないんだし。


 ねぇ?







「夏と言えば?」
 隊長室のデスクに突っ伏したアキヤマ隊長が唸るように言い出した。
 …暑さにあたったのかな?
「水着の美女」
 即答したのは、斜向かいのポプラン少佐。
 なんでそんな所に居るかって言うと、元々は個別に隊長室があったのに、いつも誰かの部屋が溜まり場になってるからって、この前お引っ越ししたから。
 そんな訳で、第一空戦隊〜第三空戦隊の隊長室は、メデタク共同になりました。…ポプラン少佐のトコとウチは、すぐ行方不明になる隊長の、捜索の手間が少なくなったんで助かってるけど、コーネフ少佐はこのお引っ越しには微妙な顔してたのをゴホーコクしておきます。
 ちなみに、毎日入り浸ってる私の机はありません。
 …まだ。
 書類不備の多さに、「アリス専用特別席を用意しようか」って言う、苦渋に満ちたような、聞こえよがしな隊長の独り言は聞いた事あるけど。
 聞かなかった事にしてます。
「…水着ねぇ…。他は?」
「夕立、雷、雹、蝉時雨、打ち水」
「浴衣、下駄、サンダル、日傘。…あぁ、カブトムシにクワガタ?」
 クロスワードパズルから目を離さないまま言うコーネフ少佐に、水着の続きを言うポプラン少佐。ポプラン少佐は、女の人の格好から離れないところが素晴らしい。…虫は違うけど。
「アキヤマは」
「あー。葛桜に水羊羹、水饅頭だろ?紫陽花も見た目涼しくて美味いし。後は…」
 うわぁ。美味しそう。…お腹空いちゃうよぉ。
「…菓子から離れろ」
 呆れたポプラン少佐の声。いやでも、今度作ってもらおう。食べたくなっちゃった。その前に、隊長の夏、なんだけどね。
「じゃあ、団扇、簾、風鈴、蚊帳、蚊取りブタ。神輿、山車、盆踊り。怪談、肝試し」
「肝試し反対っ。怪談嫌いっ」
 怖いの嫌い!何て事言うの、隊長ってば!お化け屋敷とか、一人じゃ入れないんだからね!
「んじゃ、そういうアリスは」
「アイス、かき氷、スイカ、金魚、ひまわり、朝顔っ」
 こういうのが、普通の夏だと思うの。
 皆、ちょっとズレてるよねぇ。そう思ったのに、
「…エレメンタリの夏休み絵日記」
 だって。
「ほっといてください」
 ふんだ。
「…シェイクスピア、なんてのはどうです?」
 書類の枚数を確認してたコールドウェル大尉も、手は休めないで参戦。流石、ちゃんと聞いてる。どうやったら、お仕事しながら隊長のタワゴトまで聞けるんだろう?私ならお仕事中断しちゃうのに(←修行不足)
 でも、え?シェイクスピア?
「何で?」
「うちの地元じゃ、夏になると野外劇場でシェークスピア演ってたんだ。『夏の夜の夢』とか」
「へー」
 面白ぉい。
「あぁ。そういや薪能も夏だよなー」
 たきぎのう?
 何それ、知らない。
「…今度、能の説明からしてやる」
 疑問符だらけになった顔を見て、隊長が深い溜め息。
 失礼と思うけど、教えてくれるなら良いや。
「んで、イキナリ何で夏と言えばなんですか?」
 確かに夏だし、腹立つ位暑いけど。
「あ〜。いや、何となく」
 なんだそりゃ。
「…盆踊りもやった(平成十年)。花火大会もやった(平成十六年)。…となると、次は何をやろうかってなるだろう?」
 ああ!確かに。
「だからってなー。暑気払いなんかはただの飲み会になっちまうし。ネタ出ねぇぞ」
 ポプラン少佐も唸る。
 うーん。そっかー。
「何かしなきゃいけないって事もない筈だけど」
「えー。でもでもコーネフ少佐。何かあった方が楽しいです」
「…はいはい」
 コーネフ少佐が苦笑気味で頭を撫でてくれる。だって、やっぱり楽しい方がいいもん。それも、みんなで。
「スイカ割りでもするか?」
「人数考えろ」
 いつもの規模だと、物凄く大量に要るよね。でも、ちょっと見てみたいかなぁ…?


 ヤン艦隊総出のスイカ割り。


「金魚すくい」
「だけ?」
 …金魚すくいは、夜店の中に紛れてるから楽しいんだよ、きっと。
「…ダメか」
 今回は、隊長、ダメダメさんだ。暑いからかなぁ…?項垂れてるのを見るのは、あんまり楽しくないや。でも、なぁんにも思いつかないし。
「コーネフ〜。何かない?」
 とうとう、助け舟を求め出しました。ほんっとぉに、ネタがないんだなぁ…。
「…そういえば」
 ぱたん、とパズルの本を閉じて、首を傾げて、コーネフ少佐が何かを思い出す。
「リンツ中佐に聞いたんだけど」
「何々?」
 ゆっくり、にっこり笑うコーネフ少佐はすごく怖い。綺麗に笑うから、本当に怖い。隊長やポプラン少佐みたいに悪巧みのにやりのが、ずっと可愛いよ。
「マイナスレベルのフロアに、エラーが出るらしい」
「エラー?」
「そう。何もない筈の空間で物音がしたり、監視カメラの画像が乱れたり」
 うえっ。
「…誰か入り込んでるんじゃねぇ?」
「前みたいに?」
 前…って言うと、ポプラン少佐とコーネフ少佐とミンツくんで探検隊ごっこしたアレだよね。…まだ、変な人が残ってるのかなぁ?
「それが、人と判る生命反応はないそうだ。前回の幽霊騒ぎの轍を踏みたくないって、かなり調査したらしいんだけど」
 げっ。
「…本物?」
「さぁ?」
「イゼルローンも軍事基地だしなぁ。そういう話の一つや二つあるよな」
 うんうんと、尤もらしく隊長が肯く。…や、だから、怖い話は嫌いなんだってば。飛行学校の時だって、なるべくそういう話は避けてきたのに。
「今度こそ首なし美女のユーレイが…」
 前回、スカを引いた(でも、人命救助はしたよぉな)ポプラン少佐がにやり。
 …あ、でも。
「…首がないと、お話できませんよ、ポプラン少佐」
「それもそーだ。…賢いな、アリス」
 えへへ。褒められちゃった。
「同じ振られるにしても、会話が成立するかしないかは大きいからね」
「確かに、言葉にしないと良いように解釈するからなぁ」
 えぇっ?そっち?
「…お前ら…」
 ポプラン少佐がフルフルしてるけど、アキヤマ隊長一人ならともかく、コーネフ少佐がついてると、口じゃ勝てないと思う。うん。空戦隊の人は誰も勝てないよ。…イゼルローン全体でも、勝てそうな人って、滅多にいないと思うし。無理無理。
「ともあれ」
 うにゅ?隊長ってば、楽しそうな顔になってる。
「今回のイベントは決まったな」
「何ですか?」
「今のコーネフのネタの検証…」

怖いのやだって言ったでしょ!

別に団体で行きゃあ怖かねーだろが!


 えー。やだぁ。
「大丈夫。ソースがリンツ中佐なんだから、危険は少ない」
「たいちょの言う事は、タマに信用出来ないっ」
 だって、悪戯大好きなんだもん。
「なんなら、薔薇の騎士連隊も誘うから」
 それって…。
「まぁ、件のフロアを監理してるのは薔薇の騎士連隊だそうだから。それなりに安心だよ」
「ほらみろ」
 それは、人とか、物理的なモノに対して安全なだけで、お化け相手じゃ意味がないと思うの。
 …どーせ、聞く耳なんか持ってくれないと思うけどっ。
「ブルームハルトと行かせてやるから」
「それなら…」
 って、違うっ!
「アリスはさておき」
 さておくなっ。
「…ほれアリス、アイス」
 むぐむぐ。…あ、美味しー。
 や、だから。
「やっぱり胆試しなら夜だよな」
「風情楽しむなら浴衣だよな」
「何でも良いけど」
 アイス食べてる内に、話はどんどん進んで行く。フロアの立ち入り許可を取りに、コーネフ少佐が薔薇の騎士連隊のオフィスへ。ポプラン少佐は、怒られる前にヤン提督の所。
 そんでもって隊長は、機嫌よく、持ってく予定のお菓子のメニュー作り始めちゃうし。
 本当にお化け出たらどうするんだろ。食べられたって知らないよ。
「…本気でお化けに食われるんなら、お前が先」
 心読まれた!
「なんで」
「俺らは不味そうだろうが」
 確かに。…って、だから違うってば。もー。知らないんだから。楽しかったら困るから、結局行くけど。
 あー。まったくもぉ。




「アリス?足元気をつけてねー」
「はーい」
 夜。言われた通りにユカタ着て、ゲタからころさせて、集合場所に行ったのに、隊長達は居ませんでした。
 …代わりに、ブルームハルト大尉が居たけど。
 私服もかっこ良かったけど。シンプルで。
 他の人は先に行っちゃったとかで、二人でのんびり目的地へ。明るかった待ち合わせ場所から、目的のフロアまで下りると、後は最低限の明かりしかない通路へ。明かりの殆どない通路を、ライト片手に歩いてると、足音が響いて、すごく怖い。
「そこ段差」
「ふぇ?」
 がくん。
 言われた瞬間、足元がなくなって。前に転ぶ途中で、空中停止。
「セーフ」
「ごごごごめんなさいっ」
 うわっ、うわっ。助けて貰っちゃったーっ。何で、こういう時に隊長たち居ないのー。緊張するのにぃ。
「平気平気。アリス軽いし」
「准将より?」
「それは論外。…ってか、准将殿は重すぎるでしょ」
「そーですね」
 すっごく大きいもんね。体脂肪率とか考えると、滅茶苦茶重そう。だって、アレ、ほとんど筋肉。うちの隊長たちも筋肉質と思うんだけど、薔薇の騎士連隊の人達って根本から違ってそうだもんね。大尉も…かな?
 うぎゃ。
「どしたの?」
 余計な事考えて、思わず頭を振ると、不思議そうな声。…でも、とても言えません。
「なんでもないです〜」
 ああ、もぉ。顔真っ赤だよー。
「後ちょっとだからね。皆、居るよ」
「はぁい」
 何で置いてっちゃったんだろ。
「…お化け退治?」
「何が?」
「え、あの。隊長たち先に行っちゃったの、お化け退治かなって」
 バカな事言ったって、思われちゃうかなぁ?
「んー。お化け退治はしてないと思うよ」
 やっぱりバカな事、言っちゃった。笑われちゃったよ。いつもの事かもしれないけど。
「お化け退治はしてないけど」
「はい?」
「火の玉は飛んでるかも」
 にこにこしながら、大尉。ふええ。にこにこ大尉もかっこいいけど、そういう怖い事は言わないでくださいよぉ。
「結構、綺麗だよ」
「こ…怖くないですか?」
「大丈夫。怖いの苦手?」
「苦手です」
「でも、今回は大丈夫。…あ、着いたよ」
 言われて、正面を見ると、ぽっかりと空間が開いている。その奥には、隊長とか、少佐達とか、いっぱい、ちゃんといて。
 暗いのに、よく見え…うにゃ?
「何、これぇ?」
 ふうわりふわふわ。
 ちっちゃな火の玉がヘロヘロ飛んでる。ちょっと黄緑色で、可愛くて、綺麗。大尉が言ってたみたいに、怖くなくて、綺麗。
「あ。アキヤマ少佐」
「よぉ」
 ぼけっとしてたら、隊長が見つけて、こっちに来てくれたみたい。大尉とご挨拶してる。
 うわ〜。綺麗だぁ。
「たいちょたいちょ、これ何?」
 ふわふわ火の玉の正体が判らなくて、訊いてみる。初めて見るよ、こんなの。
「何って、蛍」
「ホタル?ホタルって、ファイアフライ?虫の?」
「そ」
「実はね、森林公園に作ってあった池の水が漏れて、こんなトコに水場作っちゃったんだ」
 …はい?
「降雨装置が壊れた時な。池の水が増水して、慌てて排水したんだと。それが失敗して、ここに水が溜まり。気づいた時には土やら何やらまで流れ込んでて。まぁ、他にも色々理由があるらしいんだが、馬鹿でかいビオトープが出来ちまったんだそうな」
 へええええええ。そりは間抜けだ。
「それでね?訓練半分に薔薇の騎士連隊で調べたら、ホタルとか色んなのまで入り込んでて。よくわかんないけど、そのまんまにする事になったんだ」
 それって、生き物がどうとかじゃなくって、撤去するのが大変だからって理由なんじゃないのかなぁ?
「…あ、じゃあ、ここって立ち入り禁止なんじゃないんですか?」
 今日まで知らなかったし、見渡す限りで見えるのは軍人集団だけ。ヤン提督も遠くに居るし。民間の人は居ないしなぁ。
「それは…」
「立ち入り禁止だよ」
 真後ろから声。
「コーネフ少佐」
 ホタルが周りを飛んでて、髪がキラキラ。一緒に居るのはリンツ中佐で、ポプラン少佐は…あ、あっちで通信のお姉さんと一緒に居た。
「放っておく訳にもいかないから、定期的に調査してたんだが、まぁ、妙な音はするわ、画像が変になるわ」
 …それって、昼間に少佐が言ってた事かな?
「誰かの悪戯かとも思ったんだが、(人間の)生体反応もないし。埒が開かないんで昨日の帰りに寄ってみたら、この有様だったと」
 そっか。虫さんなら、人間の反応は出ないよねぇ。音は羽音と水音とかかな?マイクで拾うんだから、何もないトコより音はするもんね。成程ぉ。言い方によっては怪談だ。
 …ん?あれ?
「中佐が一人で来たんですか?」
 中佐はすごく強いけど、一人だと危ないと思うんだけど。ほら。お化けが居たりしたらさ。
「コーネフ少佐が行ってくれたんだって」
 へぇ。
「…帰宅途中に拉致られたんだ」
「綺麗で良かったですね」
 少佐なら、お化けの相手は大丈夫そうだけど(悪い人の相手は中佐がいるもん)、そういうのより綺麗なのがいいもんね。
「…そうだね」
 何か変な事言ったかな?
「…アリスだな…。ま、それはさておき。和菓子作ってきたんだが、食べる人」
「「はいはいはい!」」
 隊長の和菓子、美味しいもん。
「良い返事だこと」
「たいちょたいちょ、何作ってきたの」
「アキヤマ少佐、アンコのお菓子ですか?」
 お菓子♪お菓子♪




 よく判らないけど。
 夏だし。暑いし。こういう夜遊びって楽しい。
 次は何かなー。
 まだまだ暑いもんね。
 隊長たち、また何かやらないかなー。
 勿論、お菓子つきで。


もー書けないー。



戻る