盆踊りへ行こう!





 『盆踊り』って、知ってます?アキヤマ隊長が教えてくれたんだけど、むかぁしの地球で、 それも日本ていうちっちゃな島国の民俗行事でね、お盆の季節…えっと旧暦の七月十五日頃っ て言うから、だいたい今の八月十五日頃って話なんですけど、その時にね、身内で亡くなっ た人の霊(幽霊?背後霊?よくわかんない)をお家に呼ぶんだって。その時期にね、幽霊さ んも混ぜて皆で盆ダンスしながらお祭り騒ぎをするんだって。夕方から夜にかけてやるそう だから、ミッドサマーイブやハロウィンみたいなものかな。いろんな屋台が出て、楽しいみ たい。最後は花火で締めくくるんだって。面白そうだから、一度見てみたいな。







 あーつーいーなー。暑いよぉ。いくらハイネセンが夏で、猛暑だからって、イゼルローン まで真似しなくたっていいと思う。オフィスのクーラーもちょっとしか効いてないし。もう ちょっと設定温度下げても良いと思うんだけど。経費節減、て言っても限度があるよぉ。要 塞の中で夏バテなんて、シャレにならない〜。あぁ、もぉ暑いっ。制服なんか着てられるも んかっ。
 ───────どうも。あんまり暑くてちょっとキレかけてるアリス・ランドです。半年 ぶりです。前に遊園地に行った時は冬でした。今は夏です。一応元気だけど、暑くて死にそ う。毎日熱帯夜なんて嫌だよー。
「隊長っ!シャツくらい着てくださいっ!上半身ヌードになるなーっ」
 目の前を横切ろうとしたアキヤマ隊長に叫ぶ。いくら暑いからって、脱ぐのは卑怯だよね。 私だって脱げるものなら脱ぎたい(何日か前、流石に暑さに耐え兼ねてタンクトップになっ たら無理矢理上着を着せられた。男女差別だ)んだから。
「シャツがベタつくんだよ。今、オフィス内何度?」
「室温は摂氏三十二度。何故か湿度は六〇パーセントを超えてます」
 多分、街に出ると三十六度くらいあると思うんだけど…。蒸し暑いって、こういうのを言 うんだろうなぁ。うきゅう。
「それにしても…。苦情とかって来ないんですか?温度調節は効くんだから、何もハイネセ ンそっくりにしなくても良いんでしょ?」
 ここに来る前の知識。イゼルローンの中は、ハイネセンの季節気候に合わせて調節されて るって。同盟のものになる前はオーディンと同じだったんだろうな。
「苦情?そんなん山積みだろな。…でもまぁ、故障してるんだから苦情に対応出来ないらし いぞ」
 え。
「アリス、知らなかったのか?空調、いかれててな。これより温度、下がらないんだと」
 アキヤマ隊長が信じられない事を言う。信じられないって言うより信じたくない、かな。 けど、知らなかった。空調が壊れてたなんて。
 ───────ん?て事は、帝国製の部品が届いて、修理が終わるまでこのまんま?
「───────…」
 あり得ない事じゃないだけに、目が点。こんなに暑いの、耐えられないよぉ。
「アリスー。おーい。聞こえるかぁ?アイス食いに隊長室に来ないかー?コールドウェルが 買って来てる筈だぞー」
 ぼーぜんとしてた私に隊長が目の前で手をひらひらさせる。…そういえば、今気づいたけ ど、隊長、この暑いのにウサギの耳は外してないや。上半身は裸になってたくせに、変なの。
「アリス、アイスはいらないんだな?」
「あ、いる!食べます!」
 アイス大好き。



「いただきまーす」
 ん、ん、おいしー。クッキー&クリームって好き。ま、嫌いなアイスってまずないけどね。 根っから甘い物好きだし。至福。
「…ま、幸せそうなアリスは置いといて、本題に入ろう。ヤン提督の許可は?」
「取った。場所もキープ」
「薔薇の騎士は?」
「大丈夫。昨日のうちに図面も渡してあるし、もう作業に入ってる筈だよ」
「商店街は?」
「それは確認してきました。さっそく準備にかかるそうです」
 ん?アイスも食べないで何の悪巧みだろう。薔薇の騎士や商店街、ヤン提督まで巻き込んで。 うーん。なんて言うか、隊長とポプラン少佐が物凄く楽しそうで、コーネフ少佐もなんとなく 楽しそう。コールドウェル大尉は、付き合い、て感じだけどやっぱり楽しそう。この人達って 悪巧み大好きなんだもんなー。…まぁ、その悪巧みっていっつも面白い事だからいいけど。
「隊長ぉ。何かあるんですか?」
 興味、興味。出来たら仲間に入れてほしいな。わくわく。
「盆踊りをする!」
 私の質問に、アキヤマ隊長とポプラン少佐が異口同音に言い切ってくれる。えーと、盆踊り?
「なんですか、それ?」
「言い質問だな、アリス。盆踊りというのはだな、古代地球の一部地域で夏に必ず行われてい たお祭りである」
 アキヤマ隊長の得意気な説明にただただ頷いてしまう。要するに、暑いから憂さ晴らしにお 祭り騒ぎがしたいんだ。
「特に蒸し暑いこの時期にね、夕涼みも兼ねて行われていたみたいだけど。最近凄く暑いから ね、気分転換だよ」
 あ、やっぱり。でも凄く暑いって言ってる割に、コーネフ少佐の顔も格好も全然暑くなさそ う。きっちり制服着てるし、不思議なことに汗一つかいてない。涼しい顔してるから、熱中症 でもないよねぇ。…本当に人間だろうか。時々疑問だ。もっとも、隊長たちも普通じゃないし、 類友かしら。
 ちなみに、ポプラン少佐はアキヤマ隊長と一緒で上半身はほとんどヌード。コールドウェル 大尉は私と一緒。Tシャツにスラックスの平凡な格好。
「いつやるんですか?」
「本日十八時、中央フロア。あそこなら吹き抜けだからな。花火もOK」
 花火もやるんだぁ。凄いなぁ。
「それでな、アリス。お前さんにも手伝ってもらいたい」
「はい!」
 なんだろ。あんまり変なことじゃないといいなぁ。
「十ディナールで浴衣の貸し出しやってもらう事にしたから、浴衣着て歩き回るように」
 貸し出し?ユカタ?もしかして、宣伝係。
「はいはい、質問」
「はい、アリス」
 手を挙げると、指される。うーん、学校みたい。
「ユカタってなんですか?」
 こけっ。
 周囲がこける。こけなくても良いじゃないか。知らないもんは知らないんだから。
「浴衣って…俺らがジュニアハイだった頃だから…十二、三年位前か?…に流行ったよなぁ」
「あ。じゃ駄目ですね。あれ、夏限定じゃないですか。アリスは幼児だから覚えてないですよ。 俺もエレメンタリーだったし」
 ポプラン少佐が天井を仰いで、コールドウェル大尉が受ける。十二年前って…、五歳の時か な。そりゃ知らないや。
「そっか。    ま、夏の夜用の着物だよ。着物は知ってるだろ?和服はさ」
「知ってます」
 紐だけでボタンとか一切ないのに、重ね着するから着崩れしなくて苦しいやつ。
「そんなきついの着るんですか?」
 この暑い中、そんな厚着したくない。我慢大会じゃないんだし。
「浴衣はそんなにきつくないぞ。一枚だけだし。ま、Tシャツよりは暑いだろうけど」
 うげげ。
「盆踊りには浴衣が付き物。可愛いし、ブルームハルトも惚れ直す…」
「着ます」
 アキヤマ隊長の言葉に思わず握りこぶし。がんばって耐えてやるっ。
「じゃ、アリスは十七時にここに来ること。着付けしてもらうからね。それから、十六時半と 十七時半に全域で放送流すように手配した」
 なんか着々と事が進んでるなぁ。脱帽。


「はい出来た」
 和服屋さん(アリスの間違い。呉服屋さんだろう。普通は)の小母さんがにっこり笑う。う う、苦しい。あ、でもでもこれ可愛い。紺色の地に花が入ってる。帯って太いんだなー。髪は 三つ編みシニヨン。髪形自体は可愛いけど、似合ってるかな。外で待ってる隊長たちに見せて こよーっと。
「見て見てー。似合う?」
 下駄をカラカラ言わせながら外に出る。下駄って結構痛い。隊長がサンダルじゃダメって言 うから履いたけど。浴衣には下駄が良いんだって。
 あれ?隊長たちもユカタ着てる。男物って帯が細いんだ。…あれー?不思議。アキヤマ隊長 が一番似合ってる。スーツなんかだと、コーネフ少佐とかのが格好良いのにな。(ほら、アキ ヤマは日本人だから)
「似合う、似合う」
「可愛いよ、アリス」
 えへへ。褒められるとやっぱり嬉しい。
「やっぱり、浴衣は凹凸がない方がはまるなぁ」
 なに。隊長ってば失礼な。
「どゆことー」
「着てて思わんかったか?普通の服と違って真っすぐに作られてるの」
 それは思った。なんか、大小長短様々な長方形を縫い足してったって感じなの。でも何故か すごく可愛い。変だよね。
「全くないよりはあった方が良いけど、凹凸あり過ぎてもイマイチなんだよな。和服は」
「むー」
 ストロー体型だから似合ってるって言われても、イマイチ褒められた気がしない。多分、きっ と、おそらく、隊長は褒めてくれてるんだろうけど。…深いことは考えないようにしよ。
「まあいいや。それより隊長、ハンカチとかお財布とかどうしよう。リュックじゃ変だし、ポ ケットもないよ」
 女の子の服にはよくあることと言ったらなんだけど、ユカタにもポケットがない。ユカタに 関しちゃ男物にもポケットなさそう。リュックは背負えないし、ショルダーも駄目だし。
ハンドバッグでこれに合いそうなの持ってない。よもや手で持ってるなんてスリに会いそうだ し、私なら絶対落とす。その自信もある。
「浴衣の女の子って言えば、巾着かな」
「…だな。小母さん、巾着ない?」
 ポプラン少佐が和服屋さんの小母さんに声をかける。巾着?お弁当入れみたいな?ん?
「ほれアリス。これに入れろよ。それは買ってやるから」
 わーい。これもかわいー。しかも買ってもらっちゃった。ラッキー。
「浴衣は気に入ったら自分で買えよ。下駄はプレゼントだけど」
 アキヤマ隊長って、ケチなんだか、優しいんだか、判らないなぁ。
 十六時半と十七時半の放送が効いたのか、お祭り、始まってみたら大盛況。結構、イゼルロ ーン中の人が集まってたりして。商店街の皆さんが協賛だから、屋台も充実してるし。暑い思 いして歩き回った甲斐が会ったかな。ユカタの人、割と多いや。みんな綺麗。
 それはさておいて。あー、かき氷でしょ?それからわたがし、タコ焼き、焼きそば、リンゴ 飴。みんなおいしそうなんだよね。どれから食べよ…て、あれー?隊長たちがいないー。
「隊長ー?少佐たちー?大尉ー?」
 辺り見回して、やっぱりいない。うわー。はぐれちゃったみたい。こんだけの人込みじゃ絶 対見つからないよねぇ。このトシで迷子放送も情けないし、うーん。…ま、知らない土地じゃ ないから、どうせ探してくれる訳ないし。
 ───────1人でまわろ。運が良かったらそのうち会えるでしょ。
「おじさーん。わたがし一個ちょーだい」
 注文すると、なんか回転してる機械の中にざらめを入れる。しばらくして、機械の穴のあい た所から綿状になって出てくる。それを割箸の片っぽでくるくる巻き取ってく。面白ぉい。
「はい。早く食べないと空気でしぼむからね」
「はぁい。ありがとうございまーす」
 あ。袋入りでスーパーに売ってるのとおんなじ感じ。でも、こっちの方が空気がいっぱい含 まれてるみたい。ふわふわ。
「あまぁい」
 おいしー。これ食べたら次は何食べよう。焼きそばが良いかな。焼きトウモロコシも良いな。 そうだ、後で金魚すくいしようかな。射的も楽しそうだなー。
「連隊長ーぉ。准将ーぉ。あーぁ、はぐれちゃったよ」
 あれ?聞き覚えのある声。
「うーん。焼きそばでも食べよ」
「あ。ブルームハルト大尉」
「あ、あれー?アリス。アキヤマ少佐たちは?」
 やっぱりぃ。嬉しいな。今日は運が良いかも。…でも絶対アキヤマ隊長たちのおまけと思わ れてるなぁ。
「大尉こそ、リンツ中佐とかシェーンコップ准将は?」
 …こっちも人のこと言えないかな。ブルームハルト大尉には絶対、リンツ中佐とシェーンコッ プ准将が一緒だと思ってるなぁ。でも本当にいつも一緒なんだもん。
「はぐれちゃったんだよね。アリスも?」
「はい」
 二人で迷子ってのも情けないものがある。まぁ、しょうがないけどね。
「じゃあさー。一緒に回ろっか。あ、もちろんアリスが良かったらだけどさ」
「は、はい!」
 嬉しーい。良いに決まってますよー。思わずはぐれてラッキー、なんてね。もう、隊長たち 出て来なくて良いからね。…て、違う、違う。二人っきりも良いけど、やっぱり緊張しちゃう もん。皆一緒のが良いな。
「…はい、タコ焼き。半分食べるよね?」
 目の前にタコ焼き。いつの間に買ったんだろう。素早い。
「あ、はい」
 大尉と半分こ。ちょっと幸せ。タコ焼きもおいしいし(結局それか)。
「そういえばさー、それ、ユカタだっけ。女の人、皆着てるよね。皆綺麗だった」
「はぁ」
 大尉って花より団子の人だと思ってたけど、ちゃんとそういうのも見てるんだ。そうだよね。 シェーンコップ准将の部下なんだし。あうう。
「アリスも着てるね」
「はい」
 だって、貸し浴衣の宣伝係だったもん。(本人の気分的にキャンペーンガールじゃないらし い)
「似合ってて可愛いから、一緒に歩けてラッキー」
 え。
 目が点。耳を疑う。隊長たちに言われるのとは訳が違う。頭パニック。正気になった時には 顔真っ赤。あきゃ。あんまり明るくなくって良かった。顔熱いもの。
「ね」
「え?」
 聞き返す。パニックしてて聞いてなかった。反省。
「あっちでなんか音楽聞こえるよ。四拍子の変なやつ。見に行こうよ。面白そうだよ」
 あっちて、メイン会場の方かな。
「あっちにさぁ、俺たちが昼間つくった、『やぐら』っていうステージがあるんだよ。木材で ね、釘とか使わずに作ったんだよ。寸法間違えられなかったから大変だった」
「凄いですね」
「だから行こ。はぐれないように行こうね」
「あ、はい」
 ぐい。
 返事と同時に手を引っ張られる。わー、わー、わー。手、つないでる。ふ、深い意味がない のは解ってるけど、どきどきどき。
「これならはぐれないよね」
「はいー」
 顔が熱いよー。


『ただ今より、アキヤマ・シロー少佐指導によります盆ダンス、『炭鉱節』『東京音頭』『ポ ケモン音頭』を続けて紹介致します。皆様、奮ってご参加下さい』
 アキヤマ隊長指導って…。変な特技あるなぁ。
「アキヤマ少佐指導…?」
「みたいですねぇ」
 やぐらステージの高台の狭いところ(一人しか乗れないような)に立ってるし。おまけにや ぐらステージの普通の高さのところに乗ってるの、空戦隊と薔薇の騎士の人達に見えるんだけ ど…。あ。あれってポプラン少佐だ。…あ、ヤン提督もいる。ユカタ着てる。結構似合ってるー。
「───────…面白そうだし、参加して来よっか…。しないと怖そうだし…」
「────────────…そうですね…」



END



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