日常茶飯事U
−女性限定−




「いつも騒がしい空戦隊オフィス。
その原因は約8割方、俺かポプランの所為…だったりして(笑)。
ま、別に問題ないから構わんだろうとは思ってるし。
たまにはまぁ…自分の所為じゃ無い事もあるけど。
世の中、(自分が)楽しいのが一番だから…なぁ。騒がしさも楽しみの一つ。
…うん。
たとえ、どんな要因であっても…である。







「アキヤマ隊長、横暴!」
「えこひいき!」
「うるせぇ!とっととやらんかいっ」  部下一同のブーイングを一喝してみる。
 …一喝するんだが…、実は今回も仕事とは無関係。ともあれ、『お楽しみ』に加担させてやってるんだから、感謝の一つや二つ、してみやがれ。罰は当たらんぞ。
 何がえこひいき。
 するに決まってるだろうが。
 むさ苦しいのとそうじゃないのとの差はデカいんだぞ。
「とにかく!夜までにセッティングしなきゃならないんだからな。とっととやんな」
「一空と二空は〜?」
「二空は料理の仕込み。一空は薔薇の騎士連隊と共同開発中」
 もっともな(…どうだかな)質問に一応は答えてやる。
 元々、他人、他部署を巻き込んでこそのお楽しみだからなぁ。ポプランやコーネフ、ついでに薔薇の騎士を巻き込むのは当たり前。
 ましてや、あいつらの弱点つついたし(…難点は、俺にとってもアレは弱点だって事か)。予想以上に快く協力してくれたからな。この期に及んで文句を言うこいつらとは豪い違いだ(まぁ、下っ端たちはこいつらと似たりよったりなんだろうが)。
「あぅ〜」
 逃げ場をさっくり閉ざされて、その場の全員が項垂れる。…まぁ、どんなに哀れっぽい姿を見せても、こいつらである限り俺の同情が買えないのは決定しているので、落ち込んでいるだけ無駄なのではあるが。
 っつーか、のんびり落ち込んでいる暇を与えてやる程俺は優しくない。
 何せ、夜までもう、時間も少ないしな。


 …と、そこへ血相を変えた一人が駆け込んでくる。
「隊長〜!たたたた大変です!」
「あん?」
 何をそんなに慌ててるんだか。世の中、それ程パニくるような事はないぞ。
「アリスが”いつもの”です!」
「あー…。いつもの、ね」
 叫ぶように報らされた内容に脱力。そうか…。いつものか…。そういや、そんな時期だったか…。やれやれ。




「た〜い〜ちょ〜」
 おどろ線を背負って現れたアリスに周囲が逃げる。…良いけどな?別に。作業放棄しなきゃ。それにしても機嫌悪そうだな〜。
「はいはい」
「う ────────── !」
 がぶり。
 まずは腕を噛み付かれる。…手加減ねぇなぁ。痛いぞ、こら。
 ひっぱり。
 次は髪。無造作に掴んで引っ張る。取り合えず、ハゲ家系じゃないが、必要以上に抜けたらせっかくの男前が台無し(笑)になって困るだろうが。
 たこ殴り。
 胸板叩かれる分には然程痛くないんだけどな…。
「なにすんだよ」
「ぅき ───────────── !!!」
 びしばしびしばしびしばし。
 文句を言うと、手加減なし(その前も特に手加減されていなかったが…)の連打。
 的を定めず、腕をしならせて叩かれると、流石にちょっとな。柳の鞭で殴られてるようだ。コレの腕は細い上によくしなるから。
「…わかった。悪かった。俺が全部悪い。だから取り合えずこれを飲め」
 頭を軽くぽんぽんと落ち着かせながら、後ろ手に渡されたカプセルと水を渡す。…こういう時だけ気が利くってのは…慣れたんだな。多分。
「…ふ」
 こっくん。
「…飲んだな?じゃ、あっちに行って寝てろ。今日はもう、仕事しなくて良いから」
 カプセル剤を飲み込んだのを確認。…よし。ちゃんと嚥下したな?変なところに引っ掛かってないな?
「…ん」
 薬を飲んで、落ち着いたらしいのを確認する。実際、薬が効き始めるのには三十分位かかるだろうが、『薬を飲んだ』という事実に安心感があるんだろう(…単純だから)。
「…あー。わかった。忘れずにちゃんと起こす。だから寝て来い」
 上目に縋るような目付きをされてはどうにも分が悪い。ついつい頭を撫でて、機嫌取り。それにほっとしたのか、素直に頷く。まったく。過去一度たりとも起こし忘れた事ないってのになぁ。信用ないんかね。
「…はーい」







「隊長無事っすか」
 いつの間に調達したのか、俺の上着を引き摺って(どこぞのライナスの毛布のようだな)アリスが退室したのをしっかり見届けてから口々に集まってくる。
「…気にするくらいならお前らでなんとかしろよ」
「いや。怖いし」
 即答するな。…確かに、なかなかの迫力はあるが。いつもぼけぼけな分、豹変ってな感じだよな。
「隊長とのスキンシップ奪ったら悪いかな〜?とか」
「…ほほ〜う?」
 いつもは邪魔してくるくせに、こういう時だけそう言うか。そういう口は引っ張ってやれ。
「ふひゃふひゃ、ひゃいひょお、いひゃい〜」
 天誅だ、天誅。
「触らぬアリスに祟りなしってヤツですよ」
「だから、俺が祟られてちゃ意味ねーだろ」
 言いえて妙だが、素直に頷けないぞ。何せ、腕に残った見事な歯型が我ながら微妙に痛々しいんだから。…いやはや、本当に綺麗な歯型だ。虫歯もなし。だからそうじゃなくって!
「隊長、アリス係だから」
「あのなー」
 それ自体は認めてやっても良い。扱い易さも天下一品だが、一応は取扱要注意小娘だからな。
「ほらほら隊長。とにかく続き続き」
 お前が言うか。おい。
「…しっかし台風だな。まるで」
 そりゃ、大昔は台風に女の子の名前を付けていたと言うが。…アリス台風。…被害デカそうだな。
「…ま、あれでも女の子だから」
 男だったら困るだろうが。あのノリで。
「うん。あれも怖いけど可愛いし」
「じゃ、お前対応しろ」
「…う」
 しみじみと感慨深げに言い合う奴らの言葉に内心で突っ込みを入れながら、一睨み。
 そういう科白は対応してから言いやがれ。
 …まぁ、これもまた『お楽しみ』の一つと言えばそれまで、なんだけどな〜。よくよく甘いな、俺も。
「ま、良い。とにかく時間がないからな。とっとと準備しちまおう」
 声が揃う辺り、ノリが良い奴ら…。
 いいか。いつもの事だ。








「隊長!カキ氷食べたい!」
「今日は止めとけ」
「じゃ、わたがしとりんご飴」
「許す」
 薬も効いて元気に復活し、現金にも屋台を物色中のアリスをコントロールしながら、巡回当番中。
 …ちゃんと設置出来てるな。突発だった割にはなかなか。…何せ、今回のイベントを思いついたの、一週間前だったからなぁ。ちょっとばかし無茶なスケジュール組んだよなぁ。
 ちなみに、今回の屋台のにいちゃんズは各空戦隊員だったりする。
「隊長、隊長!大尉に焼きそば買ってっても良い?」
「そら構わんが…。どこに居るか知ってるのか?」
「知らない」
「…連れてってやっても良いが…、特等席って訳には行かないぞ?」
「だいじょぶ!だって遮蔽物ないし、花火ってどこから見ても同じ形でしょ?」
「まぁ、な」
「せっかく大尉が作った花火!一緒に見たいですもん!」
 蛇足ながら、今日のイベントは花火大会で、花火師役を薔薇の騎士に押し付けた訳である。…所有資格に問題がなかったしな。『アリスの大尉』ことブルームハルトも、当然持ち場行き。そうでもなければ、こんなイベントの時はヤツに貸し出すんだがなぁ。

「…じゃ、行くか。とうもろこしとたこ焼きとイカは?」
「買う〜!」
「…買ってやるから、薬飲んどけ」
「はぁい」











 日常生活の信条は、楽しいことが一番。
 いつも騒がしいし、わざわざ騒ぎも起こすけど、それもまた楽し。
 要因は問わない。
 …まぁ、噛み付かれても…だな。
 多分。


おしまいですぅ…。



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