春恋祭


「…ね、ねぇ。アンコちゃん」
「なーにぃ?」
「…部活、良いの?」
 家庭科室を出て、ダッシュで校舎裏まで。奥に、道場があるんだよね。アンコちゃんの目的地は、何だかそこみたいだけど。
 ただでさえ、ちゃんと出て来る部員は4人だけなのに。2人も抜けちゃって大丈夫なんだろうか。
「だいじょぶよぉ。ゲンマ、ハヤテ狙いだもん。今頃二人っきりでちょうど良いよ」
「…はい?」
「だからさ。うちの部長様はハヤテが好きなの。ハヤテも部長が好き。何の問題があるの」
「…な、ない…かな?」
「そーでしょ?イルカこそどーなのよ。アタシはカカシ狙いと見てるんだけど」
「えっ」
「いや、だからさ。イルカは、はたけカカシ先生が好きでしょ?幼馴染ナメんじゃないわよ」
 …うん。凄いと思う。
「脈アリっぽいから心配してないけど。」
「そ、そーかな」
「うん。大蛇丸が言ってたし」
「お、大蛇丸先生?」
 何でそこに顧問の先生が。
「忘れないでよ。うちの保護者よ、アレでも」
「…忘れられません」
 一風変わった大蛇丸先生(実は教頭先生でもある)は、アンコちゃんの戸籍上の親でもあって。…『お父さん』と呼んで良いか『お母さん』と呼ぶべきなのか、悩んだ挙句に呼び捨てにしている…そうだ。
 流石のアンコちゃんも本人に希望は聞けなかったらしい。
「まぁいいや。大蛇丸と理事長と校長の三人組ってさ、カカシと小っこい頃からの知り合いなんだって。だから、なんか解るみたい」
「…それ、怖いなぁ」
 だって、ナイショなのに。アンコちゃんやハヤテにもナイショにしてるのに。センセイと『オツキアイ』してるのは。
 たまに淋しくなるけど、それは先生にもナイショ。
「えー。レンアイ is フリーダムよぉ」
「…なんか違うって」
 楽しそうに言うから、釣られて笑っちゃう。明るくて、大好き。
「そう?でもアイツ、競争率高いから頑張んないと」
「そんなに凄いんだ」
 やっぱり人気あるんだ。解ってても、人に言われると違う。…ちょっと、嫌、かも。
「もー。そのつるつるな胸に手を当ててよく、考えてみなよ。授業終わる度に女子が張り付いてるでしょおが!」
「…質問、多いみたいだよね」
「…そこでそう思うアンタが可愛くて仕方ないわよ、アタシはっ」
 だって、そう思わないと要らないヤキモチ、いっぱい妬いちゃうし。
「とにかく、頑張んのよ、イルカ。アタシは朗報だけを楽しみにしてるから」
「アンコちゃんは?」
 …頑張ったって、教えてあげられなきゃ同じだよね。
 アンコちゃんだったら。ナイショにしなきゃイケない事、教えてくれるのかな。
「…ふっふっふっ。勝負はこれからよ。ぜーったい、オトすんだから!」
「頑張れー」
「おう!じゃ、発見したから襲撃してくる!後でね!」
「行ってらっしゃーい」
 ちらりと見えた、森乃イビキ先生を襲撃しに、走ってくのを見送って。ついでに、その襲撃を察知したイビキ先生が逃げ出すのも見送ってしまう。
「…アンコちゃんがんばれー」
「…いやぁ、既に名物化してーるね、あの二人の追いかけっこ」
 いきなり上から降ってきた、くつくつ笑う、聴き慣れた声にびっくりして、キョロキョロしてしまう。
「こっちこっち」
「あ」
 呼ばれて、聞こえる方に顔を上げると、樹の上にカカシ先生。片手に持ってる本は、この前買ってた『オトナの恋愛小説』…かな?
「何でそこに?」
「ん?チョコ攻撃から避難」
 …やっぱり、たくさん貰うんだ。
「…むかつく」
「何?」
「何でもないです。そっち、行く」
 ちょっとジャンプして、大振りな枝に取り付いて登る。…木登りは、アンコちゃんやハヤテとよくやってたから得意だもん。
「身軽だねぇ」
「うん。…先生、チョコ、いっぱい貰ったの?」
 あっという間に先生の横に到着すると、落ちないように支えてくれる。…大丈夫、なんだけどなぁ。
「貰ってないよ」
「え?」
「貰いたくないから避難してたんだし。イルカ以外の子からは欲しくないからね」
「…用意してない、です」
 だって。いっぱい貰うと思ってたし。甘い物嫌いって言ってたし。…混ざっちゃうの、嫌だったし。
「…おや残念」
「ごめんなさい」
「んじゃ、今日はうちにお泊りね」
「…え…」
「バレンタインくらい、一緒に過ごそうね」
「…ん…。うん」
 それは、凄く嬉しい、けど。
「…ん?何か、困った事でもあった?聞いてあげるよ?…って言うより、お願い事、してくれるのがチョコ代わりになって良いね」
 おでこ同士をコツンと合わせて。優しい優しい先生の声。
 だからって訳じゃないけど。
 バレンタインに、我侭言ったらダメな気もするけど。
 ナイショ、ナイショ、ナイショの事、だけど。
 でも、ね。
「…あのね、センセイ」
「ん?」







──────────── …幼馴染たちに、教えても良いかなぁ…?』


そんな訳で。
『週末は恋人』のバレンタインネタ。
といっても、何を書いているのやら…なんですが。
イロイロと、頑張れ女の子。(トキドキ男の子も)

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