春恋祭


「2月よ!日本全国、如月よ!」
「そうですね〜」
「節分もしたし」
 唐突に演説を始める幼馴染に、二人がかりで合いの手を入れるのは、いつものお約束。そこに、『2月は日本だけじゃなくって、地球規模でも2月なんじゃないか』なんて言うヤボな突っ込みは厳禁なんだけど。
 …それにしても、アンコちゃん、力入ってるなぁ…。
「あ。その節は美味しい恵方巻をありがとう、と部長に言っといて」
「…部活で言えば良いのでは」
「美味しかったよね」
 三人で一緒に入ってる、家庭科部(料理だけじゃなく、なんでもする)の部長、渾身の恵方巻は、本当に美味しかった。酢飯が絶妙で、具材も丁寧に作ってあったし。
 …先輩、カッコイイのに、なんであんなに料理とか上手なんだろう?
 そりゃ、顧問の先生も男の人…だけど。
「うんうん。あれは部長に入念なお礼をって…違う!」
「違うんだ」
「…微妙ってとこね。とにかく、節分も終わって、季節は春よ」
「立春過ぎましたもんね」
「まだ寒いけどね」
「寒さはいーから。そう、春。さて、ここからが本題よ」
「うん」
 嬉しそうに言う相手に、構えるのだってお約束。
「春、最初のイベントは何でしょう?」
 春、最初のイベント?
「…受験?」
「そんな暗いネタ持ち出さない」
「花粉症?」
「イベントって言ってるでしょ!」
「…お雛様?」
「あぁ。花屋さんに桃の花予約しましょうか」
「違う!バレンタインよ、バレンタイン!特にハヤテ。アンタ今日1日…ってか毎年あれだけ追い掛けまわされておきながら何で思いつかないの」
「…だって、女子の方が怖くて。それに、チョコならお二人に戴く分で十分なんですね」
「くくぅ〜。何て可愛いの!アタシとイルカの愛の詰まった特大義理チョコはいつでもアンタの物よ」
 …まぁ、学校で渡せないから、朝一番でおうちに届けてるんだけど。これも毎年行事だし。家、近所だし。
「帰ったらゆっくり食べますね」
「うん。そーして。…って、違うわ!そーじゃなくてさ。バレンタインって言ったら、やっぱり本命チョコは外せないんだけど」
「そんなもんですか?」
「そーよ。これ外したら女じゃないわ。憶えときなさい、ハヤテ」
「…男なんですけど」
「それはそれとして」
 あ。さっくり無視した。
「日本のバレンタインは菓子屋の陰謀で、尚且つ中元・歳暮・年始参りを欠かさない日本人としては重大なグリーティングギフトの一つな訳よ」
「そーだねー」
「…てな訳で。ついこの間も美味しい恵方巻を作ってくれて、その他イベントと言えばチョー美味しい料理を作ってくれる部長に日頃の感謝を込めて、奮発したいと思うのよ」
 思わず、二人で拍手する。
「で、アンコさん。具体的にはどうされるんですか?」
 そういえば、そろそろ部活の時間だ。…あ。5時間目サボっちゃった。三人一緒に明日、怒られるのかなぁ?
「うん。それは…」
 嬉しそうに愉しそうに口を開いたアンコちゃんと同時に家庭科室(昼休みから、ハヤテと一緒に鍵をかけて立て篭もってた)のドアが開く。
 鍵持ってるのは、顧問の大蛇丸先生と、部長だけ、だけど。
「おー。こんなトコに隠れてたんかよ。森乃氏とはたけ氏が探してたぜ」
「あ、部長。…んー。怒ってた?」
「ハヤテもいなかったから。情状酌量の余地アリ、てトコか」
 トレードマークの竹串を揺らして笑う。…先輩も、たくさんチョコ貰いそうだと思うけど。
 …センセーは、絶対たくさん貰う…よね。
「うーむ。こんな重要な日に心象悪くする事はないわよね。…よし。この時間なら敵は道場とみた。イルカ!本命チョコ持って襲撃するわよ!」
「え、えぇ?!」
「…おいおい。おじょーさん方。部活どーするよ」
「あ。うん。ゲンマ部長」
「…お、おう」
「イベント毎に美味しい料理をありがとう。これは、アタシとイルカからの、超絶愛の篭った義理バレンタインプレゼントです。どーぞ受け取って!」
 ぐい。
 真横で呆然としていたハヤテを掴んで先輩に押し付ける。
─────────────────────── …じゃ、遠慮なく」
「じゃあね!行くわよ、イルカ!」
「ち、ちょっと待って、アンコちゃん!」
 手首を捕まれて、いきなりダッシュ。…よく、転ばなかったと思う。後ろ向きなのに。
「ふ、二人共、どこ行くんですかっ」
「イビキんとこー!」
「よくわかんないー」
「…アンコー。たまには退いてやれー。相手は教師だぞー」
 …先輩の助言は、絶対何かが間違ってる。


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