小論文の書き方


 くつり。
 不安そうな顔をしたのかも知れない。横目でこっちをちらりと見ると、教科書を閉じて、白紙のルーズリーフを一枚、テーブルに置く。右手にはシャーペン。
 教えて、くれるのかな?
「設問。うみのイルカは、はたけカカシをどう思うか?」
「へ」
 いきなり、何?
「答え」
「好きです」
 大好き。ほんと、凄く好き。
 最初にね、新任の挨拶で見た時から好きだった。先生には、ナイショだけど。
 …って、何メモってるの?
「何で?」
「え?」
「答え」
 聞き直すと促される。仕方がないから、いつも思ってる事を簡単に。
「カッコいいし」
「次」
「優しいし」
「も一つ」
「頭良いし」
 …も、何を訊いてくるんだろう。一々メモってるし。
「はい。小論文完成」
「はい?」
 な…何で?訊かれるままに答えた、だけだよ?
「だからね?まず問いに対する回答。これが結論」
 くるりと回したシャーペンが、ルーズリーフの一点で止まる。そのまま、設問に丸して、矢印が引かれる。
 えっと、好き…てヤツ?
 自分で答えたクセに、対象の人に指摘されるとかなり、気恥ずかしい。
「その後が結論に対する理由付け。三つあったね」
「はぁ」
 カッコいいのと、優しいのと、頭良いの。
 一から順にナンバリングされて、強調するようにアンダーラインが引かれる。
 …やっぱり、恥ずかしい。
 先生が、淡々と真面目な顔で言うから、より一層。こういうのって、普通は照れたりするんじゃないの?
「言葉とかは整えなきゃいけないけどね。入試の場合は、とにかく結論を先に言うんだよ」
「何で?」
「結論のない論文は論文と言わないからね」
 あ。そうか。
「今の設問に当てはめてごらん」
「えっと」
「この問いに対し、イルカの答えは」
「あ。はい」
 改めて丸が引かれた設問を見ながら、手元の新しいルーズリーフに書いてみる。
「何故なら、第一に」
「カッコいい」
「第二に」
「優しい」
「最後に」
「頭がいい」
「為である。…ほら、小論文でしょうが」
 …ほんとだ。
 言われたままに書いただけだけど、なんかレポートみたいになってる。少なくとも、ラブレターって感じはしない。
 内容は…というか、設問自体は変なんだけど、言う事は解る…ような気がする。
「試験なんてタイムアタックだからね。結論を先に書いて、後は時間の許す限り理由を書く。時間がなくなった時点で『以上の点から自分は〜だと思う』とか書いて纏めれば体裁は整うんだよ」
 …ら、乱暴な。
「納得した?」
「…はぁ…」
 釈然としないけど、一応頷く。内容はさておき、構成方法は理解出来たから。
 …でもって、もう、絶対忘れないと思う。って言うか、忘れる方が無理。いつも思ってる事だって、こう何回も繰り返して言ったり書いたりしたら、恥ずかしい。
 もう、顔熱いし。絶対、真っ赤になってる。
「…じゃ、お礼は?」
 まだまだ熱い顔に両手を当てて冷やしてると、無駄に爽やかな感じでにっこり笑う先生。
「え」
「担当教科でもないのに、小論文の書き方を教えてあげた、優しい先生に、お礼」
 更に、にやにや笑う先生。…こんな顔までカッコ良いなんて、絶対何か間違ってる。
「ありがとぉございます」
 言いながら頭を下げる。ちゃんと教えてくれたんだから、お礼は言うべきだし。
「言葉だけじゃ感謝の気持ちは伝わらないよ」
 くつり。
 いつもの笑い方をするのに顔を上げると、人差指でトントンと口をノックしてる。
 これって…やっぱり…だよね?
「先生ぇ」
「態度で示して欲しいなぁ」


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