聖恋祭


 ─────────── 二月十四日。それぞれのバレンタインディ。


 ・お子様。

「なぁなぁ、俺ってばさ、初めてチョコ貰ったってばよ!」
 しかも三つも!
 手に持った三つのチョコの箱を見ながら嬉しそうにナルトが叫ぶ。
 何も聞かされず、朝集合したら三班合同演習で。しかも、終了後に女の子達からそれぞれチョコが手渡されたのだ。例え義理でも、嬉しくない訳がない。
「俺も俺も!な!赤丸!」
 キバも嬉しそうにナルトに飛びつく。どうしても欲しい、とまではいかないが、やっぱりバレンタインにチョコは付き物。気にならない筈がない。
「…ま。義理でもありゃ嬉しいよな」
「…ちゃっかり本命貰ってるヒトもいるけどねー」
「ナルトとサスケだな。ナルトはヒナタからで、サスケはサクラとイノからか」
「……フン」
 ハイテンションな二人の後を歩きながら、シカマルとチョウジ、シノが楽しそうに言う。よく見ると、二人に渡されたチョコの箱はほんの少しだけ大きさが違うものが混じっている。それに、興味なさげにそっぽを向くサスケの、機嫌が悪くないのも解っている。
 何にせよ、全員一緒に貰ったのだから文句はない。
「サスケー!皆ー!一楽行こうってばよ!」
「腹減ったし、テウチのおっちゃんにも自慢しよーぜ!」
 ナルトとキバの言葉に全員で笑うと、バタバタとじゃれあいながら一楽へ向かった。





・(万年)新婚家庭。

「ただーいま」
「お帰りなさい」
「…凄い匂いだねぇ」
「ごめんなさい。一日換気してたんですけど」
「いいよ。コレでしょ?」
 家中に香る甘い匂いには閉口してしまうものの、原因が判っている以上、苦笑しか浮かばない。申し訳なさそうなイルカに、綺麗にラッピングされた箱を振ってみせる。
「そうです。昨日、三人が一生懸命作ったんですよ」
「みたいだね。ナルト達が嬉しそうだったよ」
「それは良かった。─────────── …あ。カカシさん」
「ん?」
 ちゅ。
「…チョコ味」
「サクラ達に中てられてみました」
 お礼にと置いていってくれたミルクチョコを口に含んで。甘い物がひどく苦手なのは熟知しているが、これ位なら大丈夫だろう。久し振りに里に居てくれるのだから、周囲にあやかりたかった部分もある。
「…おかわりもあるの?出来たらチョココーティングされてない方が良いんだけど」
 不意打ちに、一瞬だけ目を見開いたものの、すぐさま抱え込んでくすくす笑う相手に頬が染まっていく。それでも、応じる言葉は決まっているのだ。
─────────── …お好きなだけ…」




・恋人達の家・その一。

「…訊いていいか?」
「何?」
「お前の前にあるのは?」
「久保田。今回は万寿」
「…で、俺の前にあるのは?」
「Mozart MilkとAngel's kiss」
「…そうか」
 つまらなさそうに横を向いて告げる相手に口元を歪め、銜えていた煙草を揉み消すと片方を手に取り一息に呷る。
「甘いな」
「…無理して飲まなくても良いわよ」
 甘ったるいカクテルは正直、口に合わないのだが。それでも、年に一度位なら悪くない。相手も、常なら好む辛口ではなく、甘い酒を飲んでいるのだから。くくっと喉の奥で笑うと、もう片方も軽く飲み干す。
「年に一度だからな」
「…バカ」




・恋人達の家・その二。

「さ!たっぷり食べてね!」
───────────
「どうしたのよ?」
「いや…」
「腕によりをかけて作ったんだから、有難く食べてよね」
「…あぁ…」
 目の前には、テーブル一杯のチョコレート料理。キッチンから漂ってくる香りから察するに、ここにある物を完食しても、間髪入れずに次が出てくる事だろう。
 思わず、眩暈がしてくる。
「ん?」
「…なんでもない」
 不思議そうに首を傾げる相手に容易く反論は封じられる。これもまぁ、惚れた弱みという物なのだろう。
 そして、気取られないように深呼吸し、軽く気合を入れた。
(…下手な拷問よりキツいな、これは…)




・恋人達の家・その三。

「お。こんなトコにいた」
「すみません」
「何やってんだ?」
「星を見ていました。今日は凄く綺麗なんですね」
「…ふぅん。ほら、よ」
「なんですか?」
「風邪ひくとマズいだろ。だから」
「ありがとうございます」
 甘い香りの飲み物に、華のような笑顔を向けて。
 立場は逆な気がしないでもないが。
「…悪くねぇな」




・某居酒屋。

「い…いのちゃ〜〜〜〜〜ん」
「ヒナタ〜〜〜〜〜」
「…なんだい、アレ」
「…とうとう娘からチョコを貰えなかった哀れな親父ーズ」
「…あぁ」
「可哀想だねぇ」
 行きつけの居酒屋に集まった古馴染み達。内、娘溺愛の山中家大黒柱と、隠れた親バカの日向家当主の二人がテーブルに突っ伏して咽び泣いているのを冷ややかに眺めながら酒を呷る。
((((うちの息子達と担当上忍にチョコが渡されたのは黙っておいてやろう。…忍の情けだ))))
 大の大人二人が号泣しているのを肴に酌み交わしながら、傍観者達はそんな事を思う。それぞれの息子達が嬉しそうにしているのは、親としても嬉しかったのだが。娘を持つ父親の感慨は別物…というより、真逆の位置にあるのだろう。
 もっとも、自分達の息子には件の娘達の本命が含まれていないので、より一層他人事だというのもある。
─────────── …」
 ガタリといきなり立ち上がった二人に視線を向ける。
「…四代目の顔岩壊して、カカシに抗議してやる」
「…俺も行く」
 脈絡もなく────── いや、おそらく二人の頭には大事な大事な娘の本命と、その保護者で師匠の顔がはっきりと映っているのだろうが────── 言い出した不穏な発言に頭を抱えてしまう。
「…待て」
「顔岩は壊すと後が面倒だから落書き程度にしとけ」
「数年振りの新婚家庭邪魔するんじゃないよ」
「馬に蹴られちゃうよ〜」
 店を出て行く前に押さえ込み、椅子に戻し、とりあえず諭す。
 子供時代からの昔馴染みで仲の良かった四代目の顔岩を壊すのはさておき、新婚家庭を邪魔するのは流石に問題があるだろう。
「うっ」
「…っ…」
 それが解ったのかどうなのか。項垂れた二人は再びテーブルに突っ伏した。
「…うっうっうっ。いのちゃ〜〜〜〜〜ん」
「…ヒナタ〜〜〜〜〜」
 始めに戻った二人に深い深い溜息を付き、誰とはなしにグラスを掲げる。
「…勝ち組坊主達に」
「数年振りの新婚家庭に」
「その他、幸せな恋人達に」
「…哀れなそこの二人に」
「「「「乾杯」」」」


それぞれのバレンタインをダイジェストで。
ホワイトディは三倍返しが基本でしたっけ?
頑張れ男の子(笑)。

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