衛人


─────────── …」
 ふう、と意識を取り戻す。目の前の爆ぜる火の粉に微かに眉を寄せる。
「起きたか?カカシ」
「…寝てた?」
「15分程な」
 取る気のなかった仮眠を無意識に取ってしまった事に少々憮然とするが、声音にはなんとか出さずに済んだらしい。気のない返事に息を吐く。
 少々任務に梃子摺った所為か、帰里が延びている。気懸かりも含めて、少し疲れていたのかもしれない。
「何か、懐かしい夢だったな」
「あ?」
 夢とはいえ、久しぶりに見た懐かしい顔ぶれに笑ってしまう。
 そういえば、あの後が大変だったのだ。図らずも『暗部』なんて特殊な位置で結果を残してしまった所為で、年齢が低すぎるにも拘らず、一両日中の内に俺が暗部に組み込まれるのは決定事項となってしまったらしい。それを、三代目が火影の立場をフルに使って入隊時期を無理矢理、半年程引き伸ばし、その間に先生が暗部に入隊、クーデターまで起こして暗部の体質を変え、俺を待っていたのだから。
 父や三忍も、長期任務を減らし、なるべく里に居て、俺の修行を付きっ切りでみて。酷い時には任務にさえ、同行させて。それすら無理な時は三代目と一緒に執務室に居させられたんだっけ。とにかく、暗部入隊と同時に先生に正式に弟子入りするまで、片時も傍から離す事がなかった。先生も、俺が上忍になるまで、周囲に何を言われても傍に置いていて。
 まったく、なんて深い愛情に護られていた事か。
「何でもなーいよ。そろそろじゃない?」
「だな。行くか」
 首を回して立ち上がると、火を消す。別ルートで里に戻している仲間から敵の意識を逸らす為、態と夜営の後を作り出したのだ。そろそろ、誘き寄せられて来ているに違いない。
「今度は俺が護る番だねぇ」
「何の話だ?」
「速く帰りたいって言ったんだぁよ。アイツらが愚図るしね」
「確かに。ガキ共がうるせーからな。とっとと始末して帰るか」
 面倒臭そうに言うのに笑う。
「同感。…式も来たしね」
 ひらりと舞い下りた式が、手の中で一枚の紙片に変わる。
「誰からだ?」
「火影サマ」
「…ち。期日過ぎてるからな。面倒臭ぇ」
 苦々しく吐き出すのを横目に紙片に目を通す。そこには、走り書きに近い字体で書かれた短い言葉。


『疾く、帰れ』


 相変わらずの内容に内心笑ってしまう。
「で?何だって?」
「早く帰って来いってさ」
「それだけか?」
「それだけだよ。…ま!敵さんも来たみたいだし?アスマ、右頼むね」
「おう」
 増え始める気配にくつりと笑う。少々人数が多いようだが、然程手間もかからないだろう。
「タイムアタック、30分。それ越えたら俺、帰るから」
「あ゛?」
「だって、早く帰らないと泣くから」
 言いながら樹の上に飛び移る。こっちの気配を追いきれないんじゃ、30分は長かったろうか。もっと短く指定しても良かったかも。とにかく、泣かせたくないからね。
「お前、嫁さんに甘過ぎるぞ」
「え?…違ーうよ。泣くのは真珠じゃないよ」
「はぁ?じゃ、誰だよ」
 眉間に皺を寄せる相手に笑ってしまう。いやまぁ、真珠…イルカもよく泣く方だけどね。任務が長引いて泣くのは違う人、なんだよねぇ。
 厳密に言うと、予定が延長すると心配する人、か。予定内なら年単位で気にかけないからな。
「…先刻、式を飛ばしてきた人、だぁよ。じゃ、後で」
 言い置いて、気配を消したまま敵に飛び込んだ。


「式って…。あ゛──────── …三代目かよ!」









 二度と、辛そうな顔はさせない。
 悲痛な声は出させない。


 謝らせたりなんか、しない。




 愛しい者達も愛しい里も総てこの手で───────────


アスマ先生と任務(注:未だ嫁の正体は知らず)。
別ルートで帰ってる仲間に足を引っ張られた模様。
そして孫離れ不可能なじっちゃん。


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