喧嘩


「…と、言う事が先日あったんですよ」
「…アンタもアタシが悪いと思うかい?」
「そこまでは。…でも、長引かせない方が良いとは思いますけれど」
 先だってのアンコやアスマとの会話を網手に告げる。
 いい加減、煮詰まっているのは見ていて判る。故に、軽く後押し。この親子の意地の張り合いは、昔からよく見ていたけれど。
 大抵は網手が負けるのだ。
 だから、今回も『そう』なるのは時間の問題だと知ってはいるが、長く続くと本人達はさておき、周囲への影響が懸念される。
 昔と違って、二人共表舞台の立役者、なのだから。
「うー。判ってはいるんだけどねぇ…。あんまり取り付く島もないじゃないか」
「それは、網手様に後ろめたい事がおありだからでしょう」
「…痛いトコ突くね、アンタも」
 苦言は、いつもは違う者の役目だった。でも、その人物は現在、ここにはいないから。
 代わりになれないと知りつつ、ちょっとだけ担ってみる。
「まぁ、あの人も大人気ないなぁ、とは思いますけど」
「知っててやってんだろ」
「でしょうね」
 彼の人物が、滅多に見せない、子供染みた姿を垣間見せるのは、相手が網手だからこそ。
 それを、本人達が一番よく知っているのだ。
 今更、他人に言われるまでもない。
「どうにも素直じゃないと思わないかい?」
「あれで充分素直なつもりではないかと」
 他の者が相手なら、あんなあからさまな態度には出ないだろう。多少の不機嫌は倍以上の上機嫌で煙に巻いてしまうようなタイプである。
「それもそうだね。でも、昔はもっと可愛かったんだよ、あんな鉄面皮でもなく」
「…子供の時から充分、ポーカーフェイスですよ」
「そうかねぇ」
 今でこそ、カカシの感情の大半を読み取れるイルカだが、昔は網手達大人の独壇場だったのだ。
 そうそう年季の違いは覆せる物でもないだろう。
「…よし。確か、今日はあの子の帰里予定日だったね。次のもあるし、頑張ってみるか」
「そうですね」


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