ざわり。
受付所に姿を見せた網手に視線が集中する。それを綺麗に無視し、所定位置に座ると、軽く息を整える。
ちろりと室内を見渡すと、Aランクの報告書を提出しているカカシが視界に入った。
「…も、いい?」
「はははは、はい。結構です」
「そう」
噂の中心人物二人が居合わせた所為か、周囲の空気が心持ち固まる。それを意に介せず、カカシはするりと網手の前に歩を進める。互いしか気付かない程度に息を吐き、網手と向き合うと、懐から巻物を一つ、取り出した。
「火影様。こちらがSランクの報告書です」
「…ご苦労さん。悪いが、次はこれを頼むよ」
「…御意」
淡々と言葉を交わし、踵を返す。その刹那、傍に控えていたイルカが網手の肩を軽く突く。
「────────────…カカシ!」
切羽詰まった声に、立ち去ろうとしたカカシが立ち止まり、ゆっくり振り返る。
「あの、あのな。その」
「…」
「遅くなっちまったけどさ。えー…」
「…深呼吸」
柄にもなく焦り、口篭る火影相手に静かに口を開く。言葉通り深呼吸を繰り返す相手を、瞬きもせずに見詰める。
「────────…長らく留守して悪かった。それに、つい最近までバタバタしてたし」
「────────────…うん」
周囲が硬直し、固唾を呑んで見守るのも意識の外へと追いやる。
「だから…。ええと。その」
顔…否、肌を耳や胸元まで真紅に染め、ガタリと立ち上がると上目にカカシを見上げる。
「…ただいま」
その一言に、どれだけの緊張を要したのか判らない。だが、その他愛のない言葉を耳にした瞬間、カカシの纏う気配が一変した。
柔らかく穏やかな、いつもの…いつも以上に優しい気配に。
「お帰り、母さん」
「うん。ただいま」
「じゃ、すぐ帰ってくるから。二人で待ってて」
「あぁ。待ってるよ」
「…行ってらっしゃい、お気をつけて」
「うん。行ってきます。頼むね」
「はい」
|