飲み会-中忍篇-



「…ねぇ」
「何?イルカ」
「…話、違うみたいなんだけど?」
 小さな声で不満をぶつける。
 少し、調子の良いアカデミーの同僚や友人から『国主の弟求婚事件』から漸く解放されたイルカを労う為に飲みに行こうと誘われたのは昨日の帰り。
 一応、心配もかけたし、同じ職場である以上、ある程度の付き合いも必要だと思い、了承したのだが。
 何故、今、目の前には見知らぬ上忍が数名いるのだろうか。
 自分は、アカデミーの…否、少なくとも知っている人間達だけと思って了承したのに、これでは契約違反である。
「…あ、あのね」
「帰るね」
 くるりと踵を返し、立ち去ろうとすると、腕を捕まれる。
 不機嫌を隠しもせず相手を見詰めると、慌てた風情で隅の方へと引っ張られた。
「何?合コンは嫌だって、いつも言ってるよね?」
 興味もなければ必要もないモノは、イルカの中で順位を持たない。
 それくらいなら、新作のトラップを考案したり、翌日の授業の予定を立てている方が遥かに時間を有効に使えると、本気で思っている。
「これはイルカの為だってば!」
「どこが」
「だからぁ、いつまでもフリーだから、あんな目に合うのよ。ちゃんとした彼氏作ればそんな事なくなるって」
「それで、コレ?」
「そぉよ。今回みたいに上手くいくなんて判らないし、はたけ上忍だって次に助けてくれるか判んないじゃない」
「…あのね」
 次に限らず、いつだって助けてくれるのだ。その、件の人物は。その理由だって、とても単純なモノだ。
 何せ、旦那様である。
 もっとも、そう自信を持って思えるようになるまで、結構時間が要ったのは事実だが。
「だ・か・ら。折角向こうから声かけてくれたんだし、上忍なんて条件良いじゃない?ま、ダメならダメで良いんだし、行こうよ」
「気が進まないんだけど」
 気が進まないなんて生易しいものではない。実は今朝、旦那様には『任務予定がなければ早い』と言われているのだ。こんな事なら断って、早く帰ってしまえば良かったと心から思う。そうすれば、何でも出来るクセにその能力を生活に一切回そうとしない旦那様の世話を思う存分満喫出来るのに。
「そんな事言わないの!ほら行くわよ!」
「だからイヤだってー!」


 友人に手首をがっちり捕まれたまま、引き摺られてしまった。


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