飲み会-上忍篇-



「…じゃ、理由ね」
 さり気ない風を装って口布を引き上げると、隣席と隔てていた衝立を止める間もなく除けてしまう。
「…へ」
 コメントを差し入れる隙を探す三人の目の端に、何かがふうわりと倒れて込んで来る。
「今晩は。イルカ先生」
「…カカシ…さ…先生」
 カカシの膝に着地した頭を軽く撫でながら、おっとりと声をかけると、状況を把握仕切れないような表情の顔見知りがぼんやりと呟く。
「…えっ。イルカ先生?」
 思わぬ人物の登場に、紅が身を乗り出し、次いでアスマが気にも止めなかった隣席を見渡す。
「あ。紅先生。アスマ先生。ガイ先生も…」
 どう固定されているのか、カカシの膝枕から開放されないまま、首だけを動かして微笑む。
「…よぉ、イルカ。中忍先生方も飲み会か?…って、上忍も居るようだけどな」
 視線の上には見覚えのある上忍(男)も数名。どうも、アカデミーの飲み会、ではなく、合コンだったようだ。
 それには気付かないフリで言葉をかけるアスマに、カカシが口布の下でうっすら笑う。
「…え、あの…」
「そーなんですよぉ。この前まで、イルカ先生が大変だったから、今日は労おうって」
「ちょっとでもウサ晴らしになればなぁ…なんて」
 イルカが質問に答えようとするのを、横合いからイルカの同僚が奪っていく。その内容に、微かに憮然とした表情を浮かべかけたイルカの顔を、カカシの手が隠す。
「あぁ。そうなの。大変だったもんねぇ」
「そうね。ねえ、良かったら一緒にどう?先生達には聞きたい事もあるし」
 教師陣には気付かれないように、イルカ達と一緒に居た上忍を観察していた紅が、素知らぬ顔で提案する。
 上忍仲間の中では、あまり評判の良くない顔が並んでいたので、一種の防御策のつもりだろう。女性なだけに、同じ女性に対し保護欲が湧くのかもしれない。それに追従させる為、カカシがアスマの足を机の下から軽く蹴飛ばす。
「…良いな。うちのガキ共も元は世話になってたんだし、どうだ?センセイ方が良けりゃあだが」
「えー。良いんですかぁ?」
 アスマの言葉に嬉しそうな声を上げる教師陣の視線は、イルカを構っているカカシに釘付けになっている。
「構わんぞ。そっちのお前らも同じ気持ちだったんだろう?我々も混ぜてくれんか?」
 ガイの、暑苦しくも人の好さ丸出しの言葉は、ある意味拒絶を許さない。
 なし崩しに相席となり、反論の余地も持たせず、隙をついてカカシが注文しておいた新たな酒が運ばれてくる。そのまま、規模拡大で飲み会が再開された。


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