「へ?」
「あ、あれ?」
「シカマルぅ?アンタ、何でここに居るの」
「…チョウジとナルトとキバとアンコ姐さんのデート見てたら胸焼け起こした」
「右に同じ」
「シノくんまで」
ガタガタと、空いている椅子とテーブルを寄せて座る同級生に、三人娘の目が見開く。
「すいません。抹茶セット二つ」
「ね、ねぇ。サスケくんは?」
「向こうで胃を押さえながらナルトの面倒見てる」
シノの親指が差す先。
ざわめきの中心で、(空になった)尋常じゃない量の団子皿と汁粉椀の山の中。
猛然と食べている四人の横で、心持ち顔色悪く煎茶を啜っている同級生(どうやら、ワラビ餅セットを頼んだようだ)。
たまに、ナルトの口の周りを拭き、チョウジとキバにおしぼりを投げ渡している。
「…流石ナルトのおにーちゃん」
「…言い得て妙、だな」
「…まぁ。それはそれとして。先刻のお前らの話なんだけど」
「あぁ。イルカ先生とカカシ先生の」
「余計な事、するだけ無駄だと思うぜ」
つんつんと生菓子を突きながらシカマルが笑う。シノの方は生菓子をヒナタに押しつけ、抹茶だけを口にする。
「なんでぇ?くっついたら嬉しいじゃない。ナルトも喜ぶと思うし」
「…そうじゃなくて。イルカ先生の指輪、知ってんだろ?」
とんとん、と自身の左手薬指を指す。
子供達にも有名な、『イルカ先生の魔除けのお守り』。勿論、アカデミー卒業生の常識である。…相手の存在を論議された事は過去、一度もなかったが。
「うん。魔除けでしょ?」
「ずっとしてるよね」
「シンプルで良いよね、アレ」
「アレ、同じの、カカシ先生もしてんだぜ」
「…でなければ、あんな策出来ないからな」
シカマルがにやりと笑い、シノが無表情に肯く。それを、三人娘は暫く頭の中で復唱する。
「…うそっ」
「さ、サクラちゃん、見た事ある?」
「な、ない。ってか、カカシ先生、基本的に手甲してるから判んない」
パニクる三人に素知らぬ顔で笑う。
「…なんでアンタらが知ってんのよっ」
「だって、見た事あるし。なぁ?」
「俺が思い出したのは、あの作戦聞いた後だが」
シカマルの視線に珍しく肩を竦めるシノ。相変わらずの無表情で判りにくいが、幾分、面白がっているらしい。
「いつ?いつ見たの?」
「何年前だ?」
「九年前」
見た記憶はあっても、それがいつだったかは憶えてないのだろう。首を傾げるシノにシカマルがさらりと告げる。
「アカデミー入る前じゃない」
「…何よ。そんなの、私が見たことある訳ないじゃない」
「サクラはな」
「ウチとか、何ての?親が四代目と仲良かったヤツは付き合い長いから」
「あぁ。じゃあ私は仕方ないなぁ」
「…今は、本人に言えば、見せて貰えるだろう?サクラは」
どんなに仲が良くても、一応、一般家庭の出の為、親絡みの接点では同級生に一歩遅れてしまう。眉を寄せ、拗ねたようにテーブルに突っ伏すフリをするサクラに、シノがフォローを入れる。
無関心を装いつつ、結局は友人想いなのだ、彼も。
「にしてもさ。彼氏居るなんて、全然気付かなかった」
「それより、皆、そんな前からの知り合いだったんだ?」
「全然覚えてない」
「アカデミーが最初だと思ってたよね」
「…覚えてたのはシカマルだけだろう」
「シカマル。頭だけは良いもんね。面倒臭がりなクセに」
「だって面倒臭ぇんだもんよ。それに、幼馴染っつっても、いのやチョウジ以外は滅多に会わなかったし。毎日顔合わせるようになったのって、アカデミー入学してからだし」
サクラと一緒。
そう続けるのに笑う。記憶力が良い分、逆に疎外感を味わった事もあるのだろう。ある意味、サクラと同じだと主張するのは、サクラも解る気がする。
「見覚えがある…程度だったな。確かに」
「あ。そ、そうだね」
「でもさぁ。よくバレないよね。『付き合ってるの』」
「…接点ないからじゃねぇ?」
「…里に居ないからだろう」
シカマルとシノが、顔を見合わせて、微妙な表情を浮かべる。『指輪』と『九年前』という、かなり特別な言葉を出しているのに、目の前の女の子達はどうして『決定的な』結論に思い至らないのだろう。
そうは思っても、特に訂正もツッコミも入れない辺り、他の男の子メンバーと違う二人である。
「成程。隠してなくても隠れちゃうのね」
「そういうの、あるかもね。あんなに派手に抱き付いたのに、付き合ってるなんて思わなかったもん」
「私たちでさえ、そうだから、他の人も同じだよね」
「…ナルトも居るし、今更…なんだろーなぁ」
「…そのナルトだが。どうやら、甘味一本勝負が終わったようだ」
突然、歓声があがり、視線を向けると限界まで積み上がった食器と、周囲の声援に応えているアンコ。
「誰勝ち?」
「姐さん…かな」
「うっわ。何あの量」
「サスケくんとキバくん、倒れそうだよ」
「キバは、あの三人と勝負しようってのが間違いよ」
天下の二大甘党のアンコとナルト。
そして、大食いのチョウジ。
この三人と同じ勢いで甘味を食べようとしたキバが、満腹と胸焼けで倒れ掛かっているのは、どちらかと言えば自業自得の範疇。
被害者と言っていいのは、周囲の認識以上に無自覚な自意識上、気がついたらナルトの兄状態だったという、奇妙な関係性と、その義務感で逃げ遅れ、結果的に間近でセコンドをしていたサスケ。
彼は恐らく、見ていただけで具合が悪くなったのだろう。それだけ、彼らの消費量は膨大。
「…言えてる」
食べてる間は近寄りたくもなかったが、このまま遠くから傍観したままで良いのかどうか。複雑な溜息を吐く五人に、一息ついたアンコが満足そうな笑顔で近寄ってくるのが見えた。
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