「え?え?イルカさん?」
「あ。どうしましたか?」
目の前の家族劇を茫然と見送っていた青年に、どこからか現れたアスマが訊く。その背に、哀愁が漂って見えるのは、気の所為ではないだろう。
「あの、あの方は…」
「あ〜。カカシ、帰って来たのか。アレは、はたけカカシと言いまして。イルカの旦那です(…ったく、シカマルの策も容赦ねぇな)」
あの二人の相手が違うとか、それに伴って多方面に影響が出るかもしれないとか、そういうのはどうでも良いらしい。もっとも、先刻の状況を見た限りでは、カカシもイルカも子供達の作り上げた『設定』を受け入れていたようなので、特別な問題はないのだろうが。
「え。ご主人?カカシ殿が?」
「ご存知ですか?(何よ。アスマも頼まれたのね)」
音もなく、アスマと逆隣に現れたのは、紅。
周囲を一瞥し、軽くアイコンタクトを取ると、どうやら二人共、生徒達にフォローを頼まれていたらしい。バレないように肩を竦め、互いに人の悪い笑みを浮かべる。
人を騙すのは、とても楽しいものである。
「えぇ。兄の所で何度か」
「あぁ。国主様にはカカシを重用して戴いてますからね」
「…仲睦まじい…みたい、です、ね」
「そうですね。子供達がベッタリですけど」
「…カカシは過剰な愛妻家ですよ(嘘じゃねぇし)」
「あらアスマ。よく知ってるのね」
「…任務でツーマンセル組む度に惚気聞いてんだよ。メンドくせぇ」
リアルな嘘を吐く時は、真実の情報を混ぜると、よりリアリティが出るものである。アスマは、カカシの相手こそ知らないが、『愛妻家』なのは熟知しているのだ。
「へー。今度アタシも聞いてみようかしら」
「…やめとけ」
「───────────────…そんな…」
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