杞憂


「シノ!…どうだった?」
 戻って来た蟲を回収するシノにキバが勢い込む。
「かなり参ってるな。全然笑わない」
「あのイルカ先生が?」
「…あぁ。おまけに、少し痩せたようだ」
「それってヤバくない?」
「何とかしてあげたいよね…」
「どうするってばよ〜。ってか、解いてくれってばよ!」
 深刻に頷き合う仲間達に、演習場の一角に縛りつけられているナルトが叫ぶ。一応、身動きの取れないナルトを中心に円陣を組んで座っているので、仲間外れという訳ではないのだが、気分が違う。
「ウルサイ。アンタ、ほっといたら偵察無視してイルカ先生んとこ行っちゃうじゃない」
「…だってさ。だってさ」
「行かないって約束したら解いてあげるよ」
「…する」
「サスケ」
「…おう」
 チョウジの言葉に神妙に肯くと、サスケが縄を解いてくれる。さり気なく見張られている気はするが、その辺は気にしない。身体が自由に動くだけ、マシ。
 それに、皆がナルトと一緒にちゃんと考えてくれている。
 先刻、イルカ先生の噂を聞いた時には総掛かりで取り押さえられてしまったが。
「…じゃ。会議始めましょ」
「まずは情報の整理ね」
「え〜っと。イルカ先生が知らない男の人にプロポーズされてるんだよね」
「都のスッゲェ偉い人だっけ」
「そうそう。で、遠巻きに断ってんのに気付いて貰えないって」
「何で遠巻き?先生らしくないってば」
 にこにこはしていても、結構、物ははっきり言うイルカ先生らしくない態度に、ナルトが首を傾げる。いつもなら、物凄く困った顔はしていてもきっぱりすっきり断っているのに。
「偉い人だからだろ。下手に問題起こせねぇんだよ。断って諦めるヤツなら良いけど、政略結婚とかなったら、里として断れねぇし」
「せーりゃく結婚て何だ?」
「任務で結婚するようなもんよ。相手が好きとか嫌いとかじゃなくて、里や家に都合が良いかどうかで結婚するのよ」
「何だよソレ」
 聴き慣れない言葉に首を傾げるナルトにサクラが丁寧に説明する。ナルトと同じく理解していなかったキバが、その説明に嫌そうに唸った。
「あ〜。アタシそんなの絶対イヤ」
「だから何とかするんだろ」
「大人の人が何にも出来ないのに、私達で何とか出来るかな…」
「逆逆。子供だから良いのよ。子供の悪戯で済むじゃない」
「…んな事より、具体的に話進めんぞ。とりあえず、告られて断る時どうするよ」
「ゴメンナサイ。…じゃあダメなのよね。好きな人がいるってのは?」
「片想いじゃ、ちょっと弱くねぇ?」
「彼氏がいる」
「会わせろって言われたら?」
「大人共も考えたようだが、適当なのがいなかったらしい」
「…え〜。じゃあ、証拠付きでインパクトの強いモノ?何が良いかな」
「…イルカ先生、どっか行っちゃうってば?」
「…泣くな。行かさねーように今考えてんだろ」
「だって」
 不安そうにサスケの服の裾を掴むナルトの頭をぐしゃりとかき回す。いつもの手と比べてだいぶ小さいのは自覚しているが、それでも安心させるように。それを見て、他の仲間も宥めるようにくしゃくしゃとちょっかいを出す。
 何だかんだ言って、ナルトが泣くのは苦手なのだ、皆。
 大好きな先生を助けてあげたいと思う以上に、ナルトが「先生がいなくなっちゃ嫌だ」と泣けば、何とかしようと思ってしまうくらいに。
 ナルトも含め、本人達は誰一人気付いてはいないのだが。
「…ナルトが居るからダメってのも、何だかな〜」
「…結構良いんじゃねぇ?なぁ。こんなのどうだよ」
 ぼそりと呟かれた言葉に、暫く考え込んでいたシカマルがニヤリと笑う。誰もいないと知りつつ、頭を突き合わせ、皆で内緒話に盛り上がる。
「それでいこう、それで」
「フォローはするしさ」
「じゃ、今の手順で用意しろよ。今日辺りだろ、来んの」
「サスケくん、ナルト、行きましょ」
「じゃ、俺達は紅先生んとこ行ってくる」
「アタシらはアスマ先生ね。シカマル、チョウジ行こう」
「…先行っててくれよ」
「?…チョウジ行こ」
「うん」
 集まった時と反転して、笑顔で散らばって行く仲間を見送って、シカマルが溜息を吐く。
 くるりと周囲を見回し、首を傾げてから口を開いた。




「…えと。暗部の人?いるかいないか知んねえけど。居たら、カカシ先生呼んできてくんね?…よろしく」


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