杞憂


「…で?」
『…奥方様の忍耐も限界かと』
「…イルカの忍耐より、お前達の体力の限界が近いんじゃないの?」
 くつり。
 上質の客間でゆったりと寛ぎながら、部下の泣き言兼報告に耳を傾ける。傍から見れば、独り言を言っているようにしか見えないが、それは仕方がないだろう。
 何せ、ここは五大国は火の国の国主の住まう城。指名任務として来訪・滞在しているカカシはともかく、部下──────里の状況を報告に来た暗部隊員──────は招かれざる客なのだから。当たり前のように侵入をしているものの、姿は見せないのが礼儀というものである。
『…銀隊長』
「…そうだね。あの子達にそれとなくバラしておいで。噂程度で良い」
『御子達にですか?』
 怪訝な声に笑う。
 知られれば、大騒ぎになるのが解っている所為か、今回の騒動は子供達から遠避けられている。特に、イルカの感情に敏感なナルトの耳には入らないようにと、巧みに操作されていた。それを、覆して良いと、カカシは言うのだ。
「うん。うちの子達と…そうだね。シカマルに」
『奈良の』
「そう。俺も、用が済み次第戻るけど、まぁ、あの子達がなんとかするよ」
 子供と言うのは、大人より遥かに頭が柔軟だ。おまけに、子供故の手厳しさで、手段を選ぶような事もない。更に言えば、カカシの愛し子の仲間には、並の大人など裸足で逃げ出すような知恵者が二人も居るのだ。
 任せてしまっても問題はない。
『承知』
「…さて。依頼主の所に行く時刻だ。お前は帰りな」
『…御意』
 返事と同時に消え失せた気配に小さく笑い、ゆるりと立ち上がる。
 珍しく半裃などと言う、武家装束を身に着けているのは、城内を表立って動かなければならない任務内容の所為だが、実は面倒臭くて仕方がない。
 こんな事より、暗部待機所に仕掛けられた、致死レベルのトラップを試す方が、カカシ的には遥かに有益で、何より楽しい。
 まぁ、それももう暫くの辛抱。
 取りあえず、現在里で起きている問題の一部は、ここで解決してしまえば良いと、頭の片隅で参段しながら廊下を進む。あの問題は、流石のカカシもあまり愉快な気分とは言えないのだから。
 城の奥、火の国の国主の居室に着くと、戸の前で軽く膝を付く。
「はたけカカシ、参りました」


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