雷切真話



「…おう」
 既に慣れた、カカシのもう一つの姿…暗部の銀が醸す気に、アスマが苦笑を浮かべたまま一歩退く。
 強いて気になる事を言えば、上忍のカカシと暗部の銀、両の気配が混じっている気がする事だが、それは戦闘に対する不安には繋がらない。高みの見物へと容易く移行する。
「…ま!他聞に漏れず、写輪眼でコピーする以外に能がないと思ってんだろうけど」
「違うのかよ」
 面白そうに茶々を入れるのは、敵ではなくアスマ。
「バカだね。アカデミー生が写輪眼手に入れたからって、それでコピーした術、効果的に使いこなせる訳ないでしょ」
「そらごもっとも」
 血族でもないのに血継限界の写輪眼を手に入れて、その場ですぐに使いこなせたのは、カカシの能力があってこそ。
 知識とセンスが卓越した、麒麟児であればこそだ。
 それを知らない者の、なんと多い事か。
「うちは一族でもない俺の二つ名に冠されたのは、元から素養があるからだぁよ」
 素速く印を切ると、外周の敵を薙いでしまう。
「写輪眼を貰う前から、一度見た技は完全に記憶出来たからね」
「へぇ。すげぇな」
「写輪眼と違って、チャクラの流れは確認出来なかったから、印だけね。でも、里に戻ってからでも、何度か試せば再生出来たから」
 並外れた観察力と記憶力。それに集中力と応用力。
 それが備わってなければ、コピーした術を最も効果的に使うなど、端から出来はしまい。
「…写輪眼ならその場でOKだからな。より便利になっただけか」
「そう」
 アスマと話しながらも、着実に敵を仕留めていく。それも、カカシが今までにコピーしたとされる術で。
 写輪眼がなくても、再生には困らない。それを、言葉ではなく能力で見せつける。
「じゃ、俺から質問」
 怯え始める敵を眺めつつ、のんびりと手を挙げる。
「何よ」
「お前の雷切。アレは?アレも写輪眼ナシじゃ発動しないって言われてるぜ」
 コピー忍者、唯一のオリジナルと言われる、アレ。
 オリジナルが一つしかないのは、カカシがオリジナル技開発に重点を置かない性格だからなのだが、周囲には判るまい。
 それを知っていて、敢えてこの場で訊ねるアスマもかなりイイ性格をしていると言えるだろう。
「そんな事ある訳ないでしょ。アレは写輪眼を貰う前から開発してたの。確かに写輪眼のお陰でチャクラの把握がし易くなって、予定より速い完成を見たけど。別に写輪眼の有無で使えなくなる訳じゃないよ」
 完成にはまだ暫く掛かるつもりだったけれど。
 いくつかの不幸の下で、予定外に早く、完成をみてしまっただけである。
「…ま、そうだろうな。じゃ、もう一つ」
「ん〜?」
「名前の由来。元は千鳥って名付けたんだろ?」
 音がするから。
「うん」
「…で、雷を切って雷切」
「…うん」
「なら、その時点で技の名前は雷切に変更されたのと違うのか?」
「…あぁ。ソレね。技の名前は今でも『千鳥』だよ」
 言いながら、左の掌にチャクラを集中させ始める。
 チャクラが可視領域にまで圧縮される程に鳥の鳴き声にも似た、爆ぜる音が周囲に響く。
 その威力は、雷をも断ち切ると言われる、一撃必殺の大技である。
「…写輪眼も封じられてて丁度いい。ご褒美に本当の『雷切』を見せてあげーるよ」
 くつり。
 鮮やかに笑うと、空けていた右手を一振りする。
 刹那。
 目を覆うような眩い白銀の輝きがその手に現れた。


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