稀源


「…あ〜。慶事だから滅多な事はないと思うけど」
 当日早朝。
 …花嫁縁者で正装させられてるのに、何でまだ仕事してるんだろう…。
「要人警護はしっかり宜しく。それから、境内には一般の里人の皆さんも来るから」
 基本的に善人揃いの里だから、そうそう騒ぎを起こしたりしないとは思うけど。
 他里や周辺の村、都辺りからもそこそこ観光客が入ってきてるし、用心にしくはない。
 それに、国主以下、本物の要人が集まってる。絶対に問題を起こす訳にはいかない。
 その所為か、何度確認しても気になるんだよね。
「…隊長こそ昨夜はちゃんと寝たんですか?」
「昨日、顔色凄かったですよ」
「剣舞やら何やら、お役目盛り沢山でしょ」
「警護警備は任されましたから」
「…ちゃんと寝たよ。失敗なんか出来ないし」
 口々に心配してくれるのは感謝だけど。
 …三代目のじっちゃんや三忍と同じ事言われるのはなぁ…。
 まぁ、オレ、子供だし、ある程度は仕方ないか。考えてみれば、よく皆、こんな子供相手にさしたる文句もなく部下やってくれてるよなぁ。
 時々、部下って言うよりも、保護者軍団な気もしないでもないけどね…。
「ちょっとカカシ君。こんな所で何をしてるの」
「あ」
 時間かな?
「大蛇丸様!」
「いえね。隊長の晴れ着が可愛くて、つい引き止めてしまいまして」
「元々は、今日の事で我々へ労いと激励にいらっしゃったんですけどね」
「何せ、滅多にない正装ですからね」
「今日の主役にも負けてないですよ」
 …何、畳み掛けるように大嘘吐いてるんだか。
「あら。それは仕方ないわね。本当によく似合ってるもの」
「そうなんですよね〜」
「凛々しさと可愛らしさが渾然一体となってて…」
「もうね、誂えるのが楽しかったわよ。すぐ大きくなって合わなくなるし、よく見ておくと良いわ」
 …何を言い出すんだか。この人達は。
「そう考えると勿体無い気がしますなぁ。一度きりの装束ですか」
「…終わったら貸衣装に廻す手筈になってるよ。先生達のもそうする予定だから、自分の結婚式でも使えるよ」
 結局、保存が大変だから、プロに任せる事にして。で、手数料代わりに貸衣装にして良い事にしたんだよね。
 …変に豪華過ぎて、借りる人が居るか判らないけど。
「…無駄がないわね」
「…そういう訳でもないんだけど」
 単に、維持費が払えないから衣装自体に維持費を稼いで貰おうってだけで。
 変な話、里の財政で作ったから、公共物扱いって事で職人さん達も納得してくれたし、箪笥の肥やしじゃ、折角の装束が勿体無いしねぇ。
『折角だから、必要な人が着れば良いかな』って。先生が言い出した事だから。
「まぁ、良いわ。もうすぐだから行きましょう。皆も気をつけるのよ。ここでの成功が里の繁栄に繋がるんだからね」
「「「「「はい!」」」」」
 …はい?
「何それ?」
「…あぁ。ほら、国主とか集まる機会って滅多にないじゃない?」
「うん」
「こういう時に何の問題も起こさない…ってのは火影以下、忍達の功績に映るのよ」
 あぁ、うん。
「だから、そのまま営業活動にも直結するのよ」
「へ。そうなの?」
「そうよ。位の高い皆様方の前で正しい礼法に基づく行動をしておけば、どんな相手の警護も出来る証左になるし」
 あ〜。成程。
「だから、上忍の必須項目に礼法が入ってるのよ」
「それは知ってるけど」
「こういう行事は絶好の営業機会なのよ。憶えておいて損はないわ」




 …礼法とか、そういうのって基本、護衛や替え玉になる時に必要だから修得するんだと思ってたよ…。
 営業活動だったんだなー…。
 しっかり憶えておこう。
 大蛇丸の言うように、今後の財政の為にも損はない。






 …ますます子供の思考から遠ざかってくの気がするのは、何故なんだろう…。


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