「先生!」
「あ〜!カカシ!良いところに!見てみて!ほら、生地、仕上がったんだよ!綺麗でしょ」
探しまくった先生を発見。
大通りを一人で歩いていて、少し大きめの、無駄に上等そうな桐箱を抱えていた…と思ったら、そのまま先生の自宅まで拉致られてしまった。
どうせなら、火影の執務室に拉致って欲しかったな。都合が良いし。
「…あ。綺麗」
一流の職人さん達が、その技術の粋を尽くしてくれた反物。流石に感動的。
いやまぁ、うん。凄く綺麗なのは認めます。認めますよ、確かに。
「でしょ?これを明日ね…」
「仕立てて貰うのは分かってるから。それより書類、溜まってるんですけど」
嬉しそうに話し続けるのを遮る。先生の雑談は際限がないから。
…無駄だったけども。
「絶対、似合うと思うんだよね。モノは超がつく一級品だし、着る人は何たって美人だし。ミズホさんなら、どんな派手な衣装にしたって、衣装負けなんて絶対ないよね。そう思わない?カカシ」
「…基本が同じ顔なんで」
ナルシストじゃあるまいし、嫌になる程似た顔を相手にどうコメントしろと?
それに、あの常識外の色白が白い衣装って…かなり保護色な気がするんだけど。
「今から本当に楽しみでさ。二人で先に採寸はしてあるんだけど、デザインとかは仕上がるまで内緒って、職人さん達に言われてて…」
…職人さん達のせめてもの意趣返し…だったら楽しいけど、多分、本当の善意なんだろうなぁ。
『火影様は色々とお忙しいだろうから』とか言って。
…本人、こんな所で悠長に且つ、幸せそうにサボってオラレルんだけども。
「木の葉神社でやるんだし、それ程奇をてらったモンでもないでしょ。それより、書類がね」
オレが任務で里を離れてる間に溜まっちゃった書類の山がね、先生。
「それはね、勿論、伝統を踏襲してるとは思うんだけどさ。いくら俺だって、神社式の伝統壊す気にはならないしね。でもほら、その辺はさ、月も恥じ入る、類い稀な美女が身に纏うんだし、やっぱりここは天女か女神かって位にね。神話の媛もかくやって感じで…」
「…神女でも仙女でも月の乙女でも何でも良いですよ。舞いの技術だけなら、実際そうだから。それよりね、先生」
実際、舞だけは上手いんだよなぁ。…本職、保母さんのクセに。練習の時と、神事の時しか舞わないけど、アレは凄いと素直に思う。
もっとも、舞に関しちゃ、オレの師匠でもあるんだけどね。家系的に神職兼任だから、特殊なのとかあるし。
…って、そうじゃなくて。
「そうでしょ?護筋の女性は『月の乙女の如し』とか言うもんね。…って、あぁ。そう言えばさ、神職の婚礼でもあるんだよね。当日の式次第に連舞が…」
あ。しまった。褒めときゃ良いかと思ったら藪蛇。こうなるとまた長いのに…。
「先生〜」
「これでも毎日、練習してるんだ。元々息もピッタリなんだけど、婚礼の舞ともなると力の入り方がさぁ〜」
…あ〜。うっとりし始めちゃった。終わんないや、これ。失敗した。
「アレはね、日月の舞とか別名もあるし、里中の人の心を明るくしたいじゃない?あ、ねぇ。今思いだしたけど、カカシも剣舞あるんでしょ?練習してる?それはそれとしてね…」
…してますよ。一応は。
ってか、婚礼の舞の内容なんて、オレ関係ないし。こんな大々的にやる必要も多分、ないし。それにもし、関係あっても、おそらく、違う舞だと思うし。
ったくぅ。
「…先生。オレ、これから任務だから」
仕方ない、奥の手。
「え。そうだったっけ?」
「うん。さっき緊急のがね」
…本当は先生の仕事なんだけどね。
「明日、時間があったら納品付き合うし」
先生の書類、全部終わったらね。
…全権委任状、預かっといて良かった。
「じゃあね、先生」
…コレが天然じゃなくて計算だったら、代わる気にもならないんだろうなぁ。
…あぁ、もう。
何でオレ、あの時ちゃんとオビト護れなかったんだろう。
…我を張らなきゃなんとかなったかもしれないのに。
過去の自分を責めて、今の自分を戒めても律しても、こんな泣き言出てくるなんて思わなかったよ。
…オビト、本当にごめん。
オレ一人じゃ先生に対応しきれない…。
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