誕生日


アレは、多分、六歳の誕生日。




『なんで?なんでカカシさんいないの?』
 直前になって、予定変更を告げられて、駄々をこねた。
『任務がね』
『だっておやすみっていった!』
『そうなんだけど』
 今なら、任務が外せないなんて常識だけれど、アカデミーに入りたての子供にはそんな事、全く理解出来なくて。
 楽しみにしていた行事を潰されるのが嫌で。
 泣きながら抗議した。
『いるか、おたんじょうびなのに』
『うん。だから休み取ろうとしたんだけど、ちょっと無理そうで…』
『やだ!』
 相手を困らせるのは解っていたけれど、どうしても我慢出来なかった。
 他の日なら、突然の留守番も素直に聞き入れる事が出来るのに、無理だった。もしかしたら、誕生日だけは唯一、我が儘を言っても良い日と解釈していたのかも、しれない。
『…ちょうど先生たちも留守だし…なぁ』
『おとーさんもおかーさんもおるすなのに〜』
 頭を掻きながら、困った表情を見せる相手の顔は、なるべく見ないようにして、我が儘を通そうと必死になる。
 顔を見てしまったら、我が儘が引っ込んでしまいそうな気がしたから。
『え。…あぁ、もう。こういう時に限って…』
『だめなの?』
 自分を取り巻く状況に苛々し始めた相手の顔を、今度は覗きこんで懇願する。
 泣きそうなのは嘘ではなかったけれど、相手が自分を泣かせる事を最も嫌うのを、肌で知っていたから。
 それでも駄目なら、その時こそ、ちゃんと諦めようと思ってはいたけれど。少しの可能性を自分から潰す、なんて事は思いも寄らなかった。
『…あぁ、うん。何とかするよ。プレゼントは間に合わないかもだけどいい?』
『うん!』
 いつもの、優しい笑顔を向けられて、何も考えずに彼を信じ込んだのだった。


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