誕生日



「…」
 ふわりと意識が戻る。
 瞼の向こうから薄い光を感じて目を開けると、見慣れた天井。
 それでも、予測していた子供部屋のとは違う風合いに一瞬混乱しかけて、先刻のは夢だったと自覚する。


 アレは。


 記憶に残っている誕生日の中で、一番古いモノ。


 彼に初めて会った、三歳の誕生日。


 あの日に、あの瞬間に、自分の人生は決まったと言っても過言ではない。自覚はなかったものの、今ならそう言い切れる、重要な日。
「懐かしいな…」
 唇に笑みが乗る。
 こんな懐かしい夢を見たのは、昨日、子供達に誕生日の予定を訊かれた所為だろう。
 元々予定を組むつもりもなく、正直に空いている事を告げたら手放しで喜んでいた。
 そしてそのまま、その日は彼らに予約されてしまったのだけれど。
 実は、物心ついた頃から、イルカが誕生日に予定らしい予定を入れたことは一度もない。
 毎年、家で普通に過ごしていた。
 ちょっと淋しくても、そうしないと、自分が、心から望んだ日にはならなかったから。
 いつからかは、訳知りの幼なじみ達が来てくれて、自分はそれで充分だった。
 だから、自分でも少し驚いているのだが。
 それでも、初めて自分から組んでしまった予定に、心が弾んでしまうのは、仕方のない事かもしれない。


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